人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アルバート・アイラー・トリオ Albert Ayler Trio - ゴースト Ghost (ESP, 1964)

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アルバート・アイラー・トリオ Albert Ayler Trio - ゴースト(ファースト・ヴァリエーション) Ghosts: First variation (from the album "Spiritual Unity", ESP Disk ESP-1002, 1965) : https://youtu.be/uQzJsGAHsVM - 5:12
アルバート・アイラー・トリオ Albert Ayler Trio - ゴースト(セカンド・ヴァリエーション) Ghosts: Second variation (from the album "Spiritual Unity", ESP Disk ESP-1002, 1965) : https://youtu.be/_gYdekQUcUU - 10:01

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Recorded in New York, July 10, 1964
Released by ESP Disk ESP-1002, 1965
[ Albert Ayler Trio ]
Albert Ayler - tenor saxophone (listed as "saxophone" in liner notes)
Gary Peacock - bass
Sunny Murray - percussion

 アルバート・アイラー早くも6枚目のアルバム(前回「Tune Up」参照)で初めてアメリカ本国のレーベルによる制作・発売による『Spiritual Unity』は新進インディー・レーベルESP-Diskからのアルバムでしたが、1965年の一般発売に先立ちレーベル第1弾作品としてESP-1005の『Byron Allen Trio』、ESP-1007の『Giuseppi Logan Quartet』とともにサンプル盤がアメリカ本国のみならずヨーロッパ諸国、日本の主要ジャズ・ジャーナリズムに配布され、特にESP-1002(1001はレーベル主宰者バーナード・ストールマン提唱のエスペラント語の教則レコードでした)と番号ももっとも若く、初アルバムのバイロン・アレン、ジュセッピ・ローガンよりも各段に完成度の高いアルバート・アイラーの本作は一般発売前から大反響を呼んだアルバムになりました。A面2曲、B面2曲の全曲がアイラー作曲のオリジナル曲なのはアレンやローガンのアルバムも同様でしたが、オーネット・コールマンの影響がオリジナル曲の曲想にもうかがえてスタイル確立前を感じさせるバイロン・アレン、楽曲にムラがあるのはともかく強いて言えばミンガス的な発想の楽曲ながらあまりにぶっ飛びすぎて評価に慎重にならざるを得ないジュセッピ・ローガンに較べ、A1とB2に名曲「Ghost」の長さの倍違う別テイクを配しA2の「The Wizard」、B1「Spirits」と統一感の取れたオリジナル曲がポール・ブレイ(ピアノ)のトリオ出身の白人ベーシスト、ゲイリー・ピーコックがアイラーのテナーと対位法ラインの奔放でビッグ・トーンの弦を唸らせ、セシル・テイラー・ユニット出身のドラマー、サニー・マレーが拍節ではなくパルスのアクセントで空間にビートを自在に充満させるこのテナー・トリオのアンサンブルはオーネット・コールマンのピアノレス・カルテットともサニー・マレーが在籍した'62年のセシル・テイラーのベースレス・トリオのユニットからも一気に飛躍した驚愕のアンサンブルで、またアイラーのテナー吹奏も『Something Different (First Recording)』'62、『My Name Is Albert Ayler』'63の発展途上感を払底し、直前の2月録音の同時録音のオーネット的なオリジナル曲集『Spirits』'62、R&B的なゴスペル曲集『Swing Low Swing Spiritual』'62を融合しただけでは到達し得ない完全にオリジナルなスタイルを確立しており、ニュアンスは異なりますがソニー・ロリンズ的なおおらかさが感じられます。
 タイトル「Ghost」はお化けのゴーストではなくアイラーの説明では大衆的な黒人キリスト教信徒にとっての精霊を指しており、「The Wizard」は司祭、「Spirits」は信徒ですからアルバム『Spiritual Unity』は陽気な黒人教会の賑やかなムードを描いた内容が意図されており、信仰による黒人社会の絆を賛美したポジティヴな内容のもので、アイラーは自分の音楽を攻撃的・破壊的と見られるのを嫌った人でした。このひずみきってぶりぶりした音色、楽器から出てきたものとは思えないような音程の概念から外れた騒音は実はきちんと音楽的計算によって吹き鳴らされたものであり、アイラー生前に本作に続くヨーロッパ・ツアーで収録されたドン・チェリー(オーネット・コールマン・カルテット)を加えたカルテットによるライヴ盤『Ghosts』'65、アイラー没後に発掘発売された『Spiritual Unity』録音前月のライヴ盤『Prophecy』'75を聴くとアイラーは『Spiritual Unity』版「Ghost」と音色、フレーズ、構成ともに本作とほとんど変わらないアドリブを演奏しており、一見無茶苦茶なアイラーのプレイは厳密に作曲・リハーサルされたものなのがわかります。本作を聴いて「アイラーのように吹けたら!」と絶句したというジョン・コルトレーンは'64年12月録音の『至上の愛 (A Love Supreme)』で神を賛美するアルバムを作り、'65年6月録音の『神の園 (Ascension)』ではオーネットの『Free Jazz』'60、アイラーの『Bells』'65やサン・ラ・アーケストラに倣った大編成集団即興・LPアルバムAB面全1曲の本格的フリー・ジャズ大作に進みます。アイラーの全オリジナル曲の中でフリー・ジャズ・スタンダードとなったのも『Spiritual Unity』を代表する1曲である「Ghost」で、オーネットの「Lonely Woman」にはおよばませんが多数のカヴァーを生んでおり、出世作となったアルバムのオープニング曲という点でも対応する位置にあります。楽曲としては「Lonely Woman」より明快ですが「Ghost」の魅力は煎じつめればアイラーのテナーの音色に尽き、それに代わるものがないとカヴァーしようがない。そのあたりの具象性が抽象度が高くニュアンスの自由度に富む「Lonely Woman」との差に現れているように思われます。