人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - デューン Dune (Brain, 1979)

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クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - デューン Dune (Brain, 1979) Full Album : https://youtu.be/zB4P_tKcUvs
Recorded in April and May 1979
Released by Brain Records / Metronome Musik GmbH Brain 0060.225, 1979
Produced, Lyrics and Composed by Klaus Schulze
(Side 1)
A1. Dune - 30:28
(Side 2)
B1. Shadows of Ignorance - 26:20
[ Personnel ]
Klaus Schulze - electronics
Arthur Brown - vocals (on "Shadows of Ignorance")
Wolfgang Tiepold - cello

(Original Brain "Dune" LP Liner/Gatefold Inner Cover & Side 1 Label)

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 集大成的な大作の第10作『X』の後だけにどうなるかと思いきや、シュルツェの好調ぶりは依然として続いており、『ムーンドーン』以来『ミラージュ』のみを除いて4作でレギュラー参加していたハラルド・グロスコフが本作では参加せず、その代わり『X』で2曲(とは言え2枚組アルバムの1枚分)の弦楽オーケストラの指揮とチェロのフィーチャリング・ソロで大活躍したウォルフガング・ティーポルドが全面参加、さらにイギリスのアート・ロック界の鬼才と言えばこの人とも言える怪人スーパー・ヴォーカリスト、アーサー・ブラウンがB面曲に参加、シュルツェ書き下ろしの詩を自由に解釈して歌い朗読するヴォイス・パフォーマンスを披露しています。ザ・フーのマネージャー、キット・ランバートのプロデュースでランバートのレーベル、ポリドール傘下のトラックから'68年にデビューした'42年生まれのブラウンは顔面全面にメイク、火柱を上げる帽子をトレードマークにギターレスのオルガン、ベース、ドラムス編成のバンド「The Crazy World of Arthur Brown」を率い、アルバムからのシングル「Fire」は'68年夏にイギリスでNo.1ヒットになり、秋までには全米2位、オーストラリア19位、ドイツ3位、フランス4位、オランダ6位、オーストリア7位、アイルランド8位、フィンランド18位のヒットを記録、日本ではグループ・サウンズ・ブーム真っ最中でオルガン奏者のいるバンドがコピーするヒット曲になりました。デビュー・アルバム1作でクレイジー・ワールド・オブ・アーサー・ブラウンのメンバーはアトミック・ルースターを結成して独立し、ブラウンは教職に就きながらプログレッシヴ・ロックの草分けになった新バンド、アーサー・ブラウンズ・キングダム・カムをを経てソロになりますが、ブラウンのパフォーマンスや音楽性はアリス・クーパーやKISS、キング・ダイヤモンドやマリリン・マンソンにいたるまで、ショッカー指向の後続ヘヴィ・メタル・ロッカー(さらにジョージ・クリントンピーター・ガブリエルまで)に大きな影響を与えたとされます。アンダーグラウンドの大王みたいな存在にしてデビュー曲をイギリス1位・アメリカ2位の国際的大ヒット(100万枚突破)に送りこみ、しかも顔面ペイント頭上に火柱の強力パフォーマンスにして音楽性は本物、ヴォーカルの実力は圧倒的という人で、本作以来たびたびシュルツェと共演し、2000年代にはホークウィンドのゲスト・ヴォーカリストも勤めるなど対外的にも活発なアーサー・ブラウンは、2017年にも75歳を記念してクレイジー・ワールド・オブ・アーサー・ブラウン名義でロイヤル・アルバート・ホール公演を成功させており、現役最長寿ロッカーのひとりとなっています。
 アルバム・ジャケットはタルコフスキーの映画『惑星ソラリス』'72のテレビ放映画面をシュルツェ自身が写真に撮りトリミングして使ったそうで、アルバム・タイトルとタイトル曲は前作『X』でもオマージュを捧げたフランク・ハーバートの『デューン 砂の惑星』'65から採られているのは言うまでもなく、少々ベタなセンスですがアルバム内容は『X』でティーポルドの参加があった大曲2曲「Heinrich von Kleist」と「Ludwig II. von Bayern」、ヴァイオリンのロング・ソロをフィーチャーした「Friedemann Bach」の路線に『ブラックダンス』以来のゲスト・ヴォイス・パフォーマーを迎えたかたちで、やはり『ムーンドーン』『ボディ・ラブ(サウンドトラック)』以降のポリリズムと推進力の強いビートの強調が進められており、『ヨーロッパ特急』『人間解体』まで行きついていたクラフトワークの音楽の無機質化とは対照的にサウンド有機的な質感と躍動感がいよいよ堂に入っており、シュルツェの音楽は当初から高い精神性と表現性を感じさせるものでしたが、シンセサイザー使用がシークエンサー導入によって飛躍的に表現力を拡大してから、むしろロック的なダイナミズムや音楽の記名性は高まっているのが当時のエレクトロニクス音楽の趨勢とは逆行しているところにシュルツェの反時代性や反骨性があり、クラフトワークの抽象性やガジェット指向に対してシュルツェの音楽がその反対を向いていて、精神的にはオルタネイティヴ・ロックやインダストリアル・ミュージックと共通する点が多く、シュルツェの場合はドイツ的ロマン主義やヒッピー的理想主義など一見すると相反する要素が時間をかけてじっくりシュルツェの個性に消化されたものだったために、機材の完全デジタル化が可能になった'80年代以降急速にリスナーとの感覚との乖離を招いたと思われます。次作『...Live...』'80で'70年代末のライヴを初めてアルバム化した後、スタジオ録音の『Dig It』'80でアナログ時代の終焉を最後のアナログ機材アルバムとして制作したシュルツェは次の『Transfer』'81からデジタル機材環境でアルバム制作を始めますが、同作と次の2枚組大作アルバム『Audentity』'83の頃からシュルツェの音楽はリスナーに届きづらくなって行ったように見えるのです。