人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - トランスファー Trancefer (IC, 1981)

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クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - トランスファー Trancefer (IC, 1981) Full Album : https://youtu.be/IiSJBrafKBw
Recorded at Klaus Schulze Studio, Hambuhren, 1981
Released by Innovative Communication KS 80014, October 1, 1981
Produced and Composed by Klaus Schulze
(Side 1)
A1. A Few Minutes After Trancefer - 18:20
(Side 2)
B1. Silent Running - 18:57
[ Personnel ]
Klaus Schulze - electronics
Wolfgang Tiepold - cello
Michael Shrieve - percussion

(Original Innovative Communication "Trancefer" LP Liner Cover & Side 1 Label)

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 クラウス・シュルツェは自身のインディー・レーベル、IC(Innovative Communication)を設立してすでに'79年にはプロジェクト、「Richard Wahnfried」名義の作品『Time Actor』をリリースしており、同作はアーサー・ブラウン(ヴォーカル)、ヴィンセント・クレイン(キーボード)、ウォルフガング・ティーポルド(チェロ)、マイケル・シュリーヴ(パーカッション)というスタジオ盤だけのスーパー・グループでした。「Richard Wahnfried」(または単に「Wahnfried」)プロジェクトは'81年に『Tonwelle』、'84年に『Megatone』、'86年に『Miditation』、'94年に『Trancelation』、'96年に『Trance Appeal』、'97年に『Drums 'n' Balls (The Gancha Dub)』(現在のところこれが最終作)とその都度メンバーを変えて続きましたので、シュルツェ主宰版の「The Cosmic Jokers」シリーズ('73~'74年、7作)、またはツトム・ヤマシタの「GO」プロジェクト('75~'77、3作)のようなものですが、『Time Actor』はウォルフガング・ティーポルド、アーサー・ブラウンと『X』『デューン』『ライヴ』のキー・パーソンを含んでいますし、'81年の『Tonwelle』は『Time Actor』からのメンバーはマイケル・シュリーヴだけですがギターにマニュエル・ゴッチング(アシュ・ラ・テンペル)、ヴォコーダーにマイケル・ローリーという布陣で同年の今回のシュルツェのデジタル化第2作『トランスファー (Trancefer)』と対になるような作品とも言えます。リヒャルド・ヴァーンフリート作品はいずれ連続してご紹介したいと思いますが、『トランスファー』と『Tonwelle』双方に参加しているマイケル・シュリーヴは「GO」プロジェクトで共演したサンタナのオリジナル・ドラマーで、また『トランスファー』のもうひとりのゲスト、ウォルフガング・ティーポルドは『X』『デューン』以来の協力者です。専任ドラマーを迎えた作品とはいえほとんどドラムスのサウンドを加工していた前作のデジタル化第1作(実際には過渡期的デジタル化作品)『ディグ・イット』に較べて、シュリーヴの各種パーカッション、ティーポルドのチェロとなるとデジタル録音とは言えアナログ・マイクによるマルチ録音になりますから、アンプを通さずミキサー卓に直結して録音されたと思われる『ディグ・イット』より各段に生々しく躍動感に富んだサウンドが聴けて、本作はデジタル化うんぬん以前に音楽的に成功した作品になっている、秀作と言っていいアルバムです。
 秀作というのも微妙なニュアンスで、名作や傑作、佳作というのとも違う職人芸的な面で成功しているから秀作とするのですが、創造性ということなら本作はやや乏しく、あくまで音楽性は『X』や『デューン』の延長線上にあり、ティーポルドとの共演の名演がまた1作出来たという具合で、今回はハラルド・グロスコフのドラムスに替わってマイケル・シュリーヴのパーカッションが素晴らしいポリリズムを生んでいる、という風に新しい音楽コンセプトを生んでいるとまではいきませんが、前作『ディグ・イット』ではアナログの死を宣言したらシュルツェの音楽の表現力も全体に低下してしまった失策がありました。本作ではデジタル化した制作に活を入れているのはティーポルドとシュリーヴのアナログな演奏です。それによってデジタル機材による録音でシュルツェもようやく生彩に富んだインプロヴィゼーションである時は前面に出て、ある時はティーポルドやシュリーヴの背後に回る、と自在なアンサンブルを披露しています。『ディグ・イット』は『ディグ・イット』であの寂れた味がシュルツェの狙いであり、そうした意味ではシュルツェの意図を実現したアルバムだったとしても機材の完全デジタル化を目指した結果ミュージシャン・シップの高い共演者の参加が不可欠、と気づいたのも前作の音楽的な質的低下からだったでしょう。本作はシュルツェのアルバムではもっとも収録時間の短い、AB面合わせて38分に満たない最短のアルバムになり、現行版CDではA面曲・B面曲の各別ヴァージョンを収めたリニューアル版になりましたが、オリジナル通りのシュルツェ初の全編で40分を切る簡素な収録時間なのもおつではないかと思います。シュルツェは翌'82年はミュージシャン・デビュー以来初のアルバム発表のない年になり、'83年の次作『Audentity』はLP2枚組大作で、本作のティーポルド、シュリーヴに新たにピアニストのライナー・ブロスを加えた編成を取り、以降ライナー・ブロスは密接なシュルツェの共作者になります。ヴァーンフリート・プロジェクトともども、シュルツェにはそうした共同制作者との作業が必要な時期で、本作はデジタル化以降まずゲスト参加者の起用が成功した、ソロ名義作品では最初のアルバムと言えるものでしょう。