人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

リヒャルト・ヴァーンフリート Richard Wahnfried - トーンヴェレ Tonwelle (IC, 1981)

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リヒャルト・ヴァーンフリート Richard Wahnfried - トーンヴェレ Tonwelle (IC, 1981) Full Album
Recorded at I-C Studio, Winsen, 1981
Released by Innovative Communication KS 80.006 (12', 45rpm EP), March 1, 1981
All tracks composed by Richard Wahnfried (Klaus Schulze)
(Side 1)
A1. Schwung (Momentum) : https://youtu.be/z04vFM7yT2g - 17:05
(Side 2)
B1. Druck (Pressure) : https://youtu.be/VIFVKaBgS9Y - 18:20
[ Personnel ]
Klaus Schulze - electronics
Manuel Gottsching - guitar
"Karl" Wahnfried - guitar
Michael Shrieve - drums
Michael Garvens - vocals

(Original Innovative Communication 12' EP "Tonwelle" Liner Cover & Side 1/2 Label)

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 本作は12インチの45回転盤のEP、またはマキシ・シングル、ミニアルバムと呼ばれるフォームでリリースされましたが、シュルツェは通常のLPフォームでもアナログ盤の収録時間限界の片面30分に迫るアルバム作りをしてきたので、サイド1が17分強、サイド2が18分強で全編36分弱のこのアルバムは一般のLP時代のアーティストなら通常フォームのフルアルバムの長さですが、シュルツェにとってはミニアルバムになります。相当する時期のシュルツェのレギュラー・アルバムとしては第13作で機材の完全デジタル化第1弾アルバム『ディグ・イット』('80年10月発売)、第14作『トランスファー』('81年10月発売)があり、『ディグ・イット』はシュルツェの第8作『蜃気楼(ミラージュ)』'78以来の完全なソロ・アルバム(ゲスト・ミュージシャンを迎えないシュルツェ一人の多重録音アルバム)でしたが、『トランスファー』は通常フォームのアルバムでサイド1/2とも18分台という、シュルツェのソロ・アルバムではデビュー作『イルリヒト』'72(すでに50分強ありました)以来初の、コンパクトな一般的なアーティストの標準サイズのアルバムになりました。次作『オーディンティティ』'83は初めて1年ブランクを置いたLP2枚組大作で、再び片面30分近い大作になったので『トランスファー』は例外的アルバムになりましたが、LP片面で30分近い長大重厚な作風にシュルツェ自身が音楽シーンの激動期だった'80年代初頭、迷いが生じていたのかもしれません。
 その『トランスファー』に先立って制作されたのがリヒャルト・ヴァーンフリートのシリーズ第2作である本作だったので、『トランスファー』はヴァーンフリート第1作にも参加していたウォルフガング・ティーポルド、マイケル・シュリーヴの二人が全面参加していましたが、ヴァーンフリート第2作の本作は前作『タイム・アクター』'79に参加していたミュージシャンはマイケル・シュリーヴのみが継続参加で、ティーポルドとシュリーヴは『タイム・アクター』、『トランスファー』、また『オーディンティティ』にも参加しますから(ティーポルドは第10作『X』'78、第11作『デューン』'79、第12作『…ライヴ…』'80に参加が遡りますが、'76年~'79年までのシュルツェはハラルド・グロスコフをレギュラー・ドラマーに迎えていましたし、グロスコフをドラマーに迎えた当時マイケル・シュリーヴは「ゴー」プロジェクトのドラマーでした)、シュリーヴはグロスコフがアシュ・ラに移ったあとシュルツェにとって唯一のドラマーでした。あえてティーポルドを本作に迎えなかったのは本作の狙いがアシュ・ラ・テンペルとコズミック・ロッカーズ・セッション以来のマニュエル・ゲッチングのギターをフィーチャーしたアルバムだったからでしょう。『トランスファー』もデジタル化第1弾アルバム『ディグ・イット』の多重録音過多の重苦しさをシュルツェをよく理解するティーポルド、シュリーヴの参加とヴォリュームの軽量化ですっきりと整理した佳作でしたが、それもマキシ・シングル=ミニアルバムのフォームでかつての盟友ゲッチングのギターを気ままに泳がせた好アルバムの本作『トーンヴェレ(音の波動)』(もう一人のギタリストとしてクレジットされている「"カール"・ヴァーンフリート」はシュルツェ自身で、ゲッチングのパートは2ギター競演で録音されたのでしょう)経由と納得がいき、アシュ・ラ・テンペルで3作、コズミック・ロッカーズ・セッション全8作中6作(シュルツェ、ゲッチングとも別々の1作で不参加)で共演して抜群の成果を見せた二人が次に共演するのは'95年のシュルツェの第31作『イン・ブルー』と間が空くのは、感覚的な波長が合いすぎて逆に個々の指向性の違いが異なる道を歩ませたとも見え、本作は'80年代型アシュ・ラ・テンペルとも言えるシュルツェ主導の作品中でもヴァーンフリート・プロジェクト中でも異色の、ただしノリノリのサイケデリックでエレクトロニックなギター・アルバムの名作です。その成果をすぐさまギターレスのソロ・アルバム『トランスファー』に生かしたセンスにシュルツェの意外な器用さを感じます。