人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アート・ファーマー Art Farmer - ブルースをそっと歌って Sing Me Softly of the Blues (Atlantic, 1965)

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アート・ファーマー・カルテット The Art Farmer Quartet - ブルースをそっと歌って Sing Me Softly of the Blues (Carla Bley) (Atlantic, 1965) : https://youtu.be/GUAXFSoO5dw - 6:44
Recorded at Atlantic Studios, New York City, March 12, 16 & 30, 1965
Released by Atlantic Records as the album "Sing Me Softly of the Blues", Atlantic SD 1442, 1965
[ The Art Farmer Quartet ]
Art Farmer - flugelhorn, Steve Kuhn - piano, Steve Swallow - bass, Pete LaRoca - drums

 数あるモダン・ジャズ・トランペット奏者でも普段あまり名前が上がらないながら話題に上がれば誰もが居住まいを正し一目置かれる存在といえばクラーク・テリーなども思い浮かびますが、アート・ファーマー(1928-1999)などはさしずめそういう典型的なジャズマンではないでしょうか。ファーマーはビッグバンド時代はクリフォード・ブラウンと同僚で親しく、ブラウンは25歳で不幸な交通事故で夭逝しましたが、マイルス・デイヴィスが生涯同世代のライヴァルとして尊敬していたのはマイルスの後任でチャーリー・パーカークインテットのメンバーを勤めたケニー・ドーハムとこのアート・ファーマーだったとマイルス自身が逝去前年の自伝で証言しており、非常に多才だったドーハムに較べるとファーマーは一見地味ですが黒人白人問わず共演者も幅広く、ビル・エヴァンス(ピアノ)やジム・ホール(ギター)との共演で代表作もあり、エヴァンスの『Interplay』'62もジム・ホール参加のワン・ホーン・クインテットですがあのアルバムでフレディー・ハバードが吹いているのはスケジュールの都合がつかなかった第一指名のファーマーの代役だったそうです。ジム・ホールを加えたワン・ホーン・カルテットをレギュラー・バンドにしていたのはポール・デスモンド(アルトサックス)、ソニー・ロリンズ(テナーサックス)とアート・ファーマーであり、サックスのワン・ホーン・カルテット(通常はギターではなくピアノ)はよくありますがトランペット奏者でワン・ホーン・カルテットを得意としたのはアート・ファーマーが第一人者になります。またファーマーはマイルスとはまた違うやり方で吹きまくらない、小編成バンドでのアンサンブルに気を配った演奏をするリーダーで、ファーマーのワン・ホーン・カルテット作はサイドマンの方が長いソロを取っていることも珍しくなく、ジム・ホール参加時の名盤『Live at the Half-Note』'64('63年録音)にいたっては全5曲中アンコール曲の最終曲はファーマー抜きのジム・ホール・トリオの演奏を収めているほどです。
 ジム・ホール時代の『Interaction』'63、『To Sweden with Love』'64もいずれも名盤ですが、ジム・ホール・トリオからメンバーがスティーヴ・キューン(ピアノ)、スティーヴ・スワロウ(ベース)、ピート・ラロカ(ドラムス)に変わった本作もスティーヴ・スワロウ夫人のカーラ・ブレイ(元ポール・ブレイ夫人)の書き下ろし曲2曲を含む名作で、キューンたちはもともとトリオ活動していましたが、レコーディングというとなかなか全員揃う機会がなかった。キューンとラロカはマッコイ・タイナーエルヴィン・ジョーンズにメンバーが定着する前のジョン・コルトレーン・カルテットの暫定メンバーだったこともあるくらいです。ファーマーは黒人ジャズマンでも白人ジャズマンと親和性のあるスタイルのプレイヤーで、ブルースでありながらブルースくささのまるでないこの不思議な曲にファーマー(このアルバムでは全曲フリューゲルホーンを吹いています)のプレイはぴったりです。またピアノ・ソロになってからのピアノ・トリオ演奏もさりげなく過激で、ピアノ・ソロ最後の爆発はピアノ・トリオ演奏でも主流ジャズの中でこれほど見事な爆発はない、というくらい決まっており、長年過小評価ピアニストに甘んじることになるキューン生涯の快演でもあります。スワロウ、ラロカの好演は言うまでもなく、問題はこの黒人白人混成カルテットの演奏が黒人ジャズの主流でもなければ白人ジャズの主流でもなく、主流ジャズには違いなくても何とも位置づけの難しい音楽をやっていることで、ファーマーが冒頭に書いたようなジャズマンなのはこうした音楽性によります。しかしこれも'60年代ジャズの多様化を示す好作なので、忘れがちながら忘れがたい名曲名演と言えるのではないでしょうか。