人生は野菜スープ~hawkrose’s diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

集成版『NAGISAの国のアリス』第八章(完)

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 第八章(終章)。
 春陽堂『明治大正文学全集』は改造社現代日本文学全集』(1926年-1931年・25万部)に続く「円本」として刊行、発行部数15万部。

春陽堂明治大正文学全集全60巻
出版年 : 昭和2年(1927)-昭和7年(1932)

●第1巻東海散土篇佳人之奇遇
矢野竜渓篇斉武名士経国美談

●第2巻末広鉄膓篇雪中梅
丹羽純一郎訳篇花柳春話(純一郎訳)
成島柳北柳橋新誌
仮名垣魯文西洋道中膝栗毛
饗庭篁村篇人の噂権妻の果走馬燈随筆
幸堂得知篇酒乱

●第3巻坪内逍遥篇桐一葉沓手鳥孤城落月牧の方第一作名残の星月夜新曲浦島お夏狂乱寒山拾得お七吉三ハムレット(逍遥訳)一読三歎当世書生気質細君壱円紙幣の履歴ばなし梓神子

●第4巻長谷川二葉亭篇平凡浮雲あひびき(二葉亭訳)うき草(二葉亭訳)
山田美妙斎篇蝴蝶まことに憂世横沢城猿面冠者小宰相局
矢崎嵯峨の舎篇初恋流転空蝉つまらぬ人悔恨一剣有響落花村

●第5巻尾崎紅葉金色夜叉伽羅枕七十二文命の安売心の闇多情多恨

●第6巻幸田露伴篇天うつ浪五重塔風流仏一口剣対髑髏奇男児一刹那二日物語有福詩人不蔵庵物語蝸牛庵夜譚

●第7巻森鴎外篇即興詩人(鴎外訳)うたかたの記舞姫文づかいヰタ・セクスアリス青年あそび玉篋両浦嶼日蓮聖人辻説法生田川静雁蛙(鴎外訳)橋の下(鴎外訳) 刺絡(鴎外訳)辻馬車(鴎外訳)高瀬舟阿部一族ぢいさんばあさん最後の一句山椒大夫寒山拾得魚玄機大塩平八郎

●第8巻黒岩涙香巌窟王(涙香訳)
森田思軒篇十五少年(思軒訳)

●第9巻広津柳浪篇雨河内屋今戸心中紫被布 二人やもめ変目伝骨ぬすみ花ちる頃幼時目黒小町
広津和郎篇波の上本村町の家師崎行遊戯場隠れ家生きていく勝者敗者

●第10巻斎藤緑雨篇かくれんぼ油地獄犬蓼見切物売花翁
若松志づ子篇小公子(志づ子訳)
後藤宙外篇独行のこる光 やぶれし人魂のありか手向の笛会津
漣山人篇友禅染

●第11巻高山樗牛篇滝口入道月夜の美感に就いて巣林子の女性平家雑感世界の四聖日蓮上人とは如何なる人ぞわがそでの記人生終に奈何一葉女子の『たけくらべ』を読みて清見寺の鐘声天才の出現況後録釈迦
樋口一葉にごりえわれからゆく雲やみ夜大つごもり経つくゑ暁月夜うもれ木闇桜たま襷五月雨別れ霜雪の日琴の音花ごもり軒もる月うつせみこの子十三夜わかれ道うらむらさきたけくらべかれ尾花日記
川上眉山篇大さかづきふところ日記破倫 賤機墨染桜雪折竹白藤

(以下次回)


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(書目リスト承前)

●第12巻泉鏡花篇一之巻二之巻三之巻四之巻五之巻六之巻誓之巻照葉狂言風流線註文帳歌行燈外科室女客葛飾砂子通夜物語三枚続国貞ゑがく櫛巻唄立山心中一曲

●第13巻徳富蘆花篇不如帰自然と人生思出の記

●第14巻村上浪六篇三日月後の三日月井筒女之助奴の小万鬼奴安田作兵衛のこる嵐たそや行燈
塚原渋柿園島左近山中源左衛門最上川

●第15巻村井弦斎篇桜の御所小弓御所両美人飛乗太郎
江見水蔭篇夏の館焼山越温泉狂詩人島守泥水清水水錆備前岡山暁に帰る故郷の寂しさ蛇窪の踏切蕎麦凍る

●第16巻小杉天外篇魔風恋風コブシ

●第17巻小栗風葉篇青春恋慕ながし鬘下地

●第18巻菊池幽芳篇己が罪乳姉妹

●第19巻柳川春葉篇生さぬ仲
佐藤紅緑篇春を追ふて

●第20巻正岡子規篇和歌篇明治26年及至明治35年随筆小説篇墨汁一滴他3篇小品篇小園の記他18篇歌論歌話篇歌よみに与ふる書他2篇俳論俳話篇俳諧大要他6篇俳句篇明治18年及至明治35年

●第21巻長塚節篇土芋掘り炭焼のむすめ佐渡ガ島
高浜虚子篇風流懺法斑鳩物語大内旅宿三畳と四畳半興福寺の写真十五代将軍杏の落ちる音道俳諧師兄柿二つ
吉村冬彦篇藪柑子集

●第22巻国木田独歩篇愛弟通信忘れえぬ人々源をぢたき火詩想死鹿狩河霧置土産武蔵野帰去来少年の悲哀昼の悲しみ春の鳥山の力酒中日記神の子運命論者日の出非凡なる凡人馬上の友正直者女難一家内の珍聞岡本の手帳号外波の音恋を恋する人泣き笑ひ窮死都の友へB生より暴風渚二老人竹の木戸空知川の岸辺二少女湯ケ原ゆき湯ケ原より肱の侮辱独歩吟欺かざるの記

●第23巻田山花袋篇蒲団田舎教師ある僧の奇蹟時は過ぎ行く再び草の野にをばさんのIMAGE旅の者重右衛門の最後

●第24巻島崎藤村若菜集一葉集夏草落梅集桜の実の熟する時新生嵐

●第25巻徳田秋声篇足迹爛あらくれ彼女と少年ある売笑婦の話犠牲者
葛西善蔵篇哀しき父贋物奇病患者酔狂者の独白愚作家と喇叭暗い部屋にて不良児おせい蠢く者浮浪推の若葉湖畔手記血を吐くバカスカシわれと遊ぶ子従弟弱者霜枯れ作家の話悪魔

●第26巻 和歌俳句篇
俳句篇(正岡子規等)
和歌篇(川田順等)

●第27巻夏目漱石三四郎倫敦塔幻影の盾 坊ちゃん草枕夢十夜虞美人草吾輩は猫である(抄)

●第28巻鈴木三重吉篇千鳥山彦おみつさん烏物語黒髪小猫小鳥の巣金魚瓦 黒血 櫛 紅皿桑の実霧の雨八の馬鹿

●第29巻森田草平篇煤煙初恋輪廻

(以下次回)


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(承前)

●第30巻岩野泡鳴篇耽溺毒薬女征服被征服
小川未明篇薔薇と巫女物言はぬ顔紫のダリヤ魯鈍な猫うば車空中の芸当火を点ず靴屋の主人死者の満足
中村星湖篇少年行親村の西郷畑通過

●第31巻永井荷風篇腕くらべふらんす物語冷笑日和下駄すみだ川紅茶の後珊瑚集

●第32巻上司小剣篇ごりがん美女の死骸水曜日の女女犯英霊兵隊の宿月夜筍婆石川五右衛門の生立女帝の悩み鱧の皮父の婚礼
正宗白鳥篇何処へ塵埃五月幟地獄徒労泥人形午部屋の奥ひ死者生者安土の春人さまざま心中未遂

●第33巻長田幹彦篇零落母の手寂しき日草笛澪糺の森夢占死霊送り火野の宮蜘蛛鳥辺山雛勇狸大尽しぐれ茶屋薄雪お鶴未墾地師匠の娘鰊ころし扇昇の話霧
野上弥生子大石良雄海神丸父親と三人の娘

●第34巻武者小路実篤篇耶蘇或る日の一休わしも知らない二十八歳の耶蘇その妹愛欲ある画室の主第三の隠者の運命
長与善郎篇青銅の基督陸奥直次郎春田の小説

●第35巻谷崎潤一郎篇刺青麒麟幇間秘密悪魔続悪魔羮恋を知る頃お艶殺し改作恐怖時代人魚の嘆き魔術師春の海辺母を恋ふる記異端者の悲しみ喜劇腕角力無明と愛染友田と松永の話少年呪はれた戯曲

●第36巻詩篇外山正一篇他52篇
昭和新進作家篇
●第37巻有島武郎或る女カインの末裔クララの出家実験室凱旋
有島生馬篇死ぬほど陳子へ孤鸞鏡中影弟へ葡萄園の中

●第38巻久保田万太郎朝顔ふゆぞら三の切末枯続末枯寂しければ暮れがた雪雨空夜鴉不幸短夜
水上滝太郎篇大阪大阪の宿

●第39巻倉田百三出家とその弟子処女の死後寛桜児
吉田絃二郎篇島の秋彼岸詣り青い毒薬夜船地に落つるもの蜥蜴徳さん山の湯落葉の路貸家礼馬鈴薯さるすべり囚人の子尺八を吹く男高原寂しき人々法妙寺の叔母叔父夫婦武蔵野の秋他30篇

●第40巻志賀直哉篇暗夜行路荒絹剃刀濁った頭大津順吉好人物の夫婦赤西蠣太和解十一月三日午後の事流行感冒小僧の神様山科の記憶
佐藤春夫篇改作田園の憂鬱都会の憂鬱指紋瀬沼氏の山羊のんしゃらん記録

●第41巻藤森成吉篇若き日の悩み犠牲磔茂左衛門
加能作次郎篇祖母羽織と時計子供の便り釜父の顔
豊島与志雄篇埋想の4月明都会の幽気操守
松岡譲篇護法の家モトリザ耳疣の歴史
田村俊子木乃伊の口紅

●第42巻近松秋江篇黒髪葛城太夫流れ舞鶴心中疑惑別れた妻子の愛の為に
宇野浩二篇高天ケ原蔵の中子を貸し屋心づくし山恋ひ千万老人

 ですが第43巻、里見弓享(とん)の弓享という字がありません。


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 まだ続くの?と、アリスは不貞腐れました。
春陽堂明治大正文学全集全60巻
出版年 : 昭和2年(1927)-昭和7年(1932)
(承前)

●第43巻里見惇篇河岸のかへり手紙勝負晩い初恋夏絵善心悪心俄あれ失われた原稿銀二郎の片腕恐しき結婚朴の歌留多札毒蕈夜桜ムス武遺聞不貞夢みたいな話多情仏心

●第44巻小山内薫篇大川端
久米正雄篇破船受験生の手記敗者良友悪友大人の喧嘩虎金魚山鳥

●第45巻芥川竜之介篇鼻芋粥煙草と悪魔偸盗戯作三昧地獄変るしへる奉教人の死あの頃の自分の事きりしとほる上人伝蜜柑舞踏会秋南京の基督杜子春藪の中将軍トロッコ庭六の宮の姫君おぎん百合三つの宝神神の微笑白一塊の土糸女覚え書少年湖南の扇年末の一日三つのなぜ春の夜点鬼簿彼第二玄鶴山房蜃気楼河童手紙三つの窓或阿呆の一生西方の人西方の人或る旧友へ送る手記
室生犀星幼年時代地下室と老人蒼白き巣窟性に眼覚める頃或る少女の死まで一冊のバイブル

●第46巻菊地寛篇新珠慈悲心鳥恩を返す話忠直卿行状記藤十郎の恋恩讐の彼方に蘭学事始入れ礼肉親我鬼父帰る屋上の狂人義民甚兵衛恋愛病患者

●第47巻戯曲篇1河竹黙阿弥三人吉三廊初実戻稿盲長屋梅加賀鳶
依田学海篇吉野拾遺名歌誉
福地桜痴篇侠各春雨傘大森彦七
榎本虎彦篇名工柿右衛門
右田寅彦篇生嶋新五郎紀国文左大尽舞

●第48巻戯曲篇2岡本綺堂篇屋上伊太八 室町御所番町皿屋敷鳥辺山心中箕輪の心中修禅寺物語小栗栖の長兵衛権三と助十佐々木高綱俳諧師伊原青々園出雲の阿国
岡鬼太郎篇御存知東男深興三玉兎横櫛
高安月郊篇桜時雨飴買土平関ケ原序曲醍醐の春関ケ原
松居松翁篇茶を作る家淀君と三成
山崎紫紅篇甕破紫田歌舞伎物語
島村抱月篇運命の丘清盛と仏御前

●第49巻戯曲篇3中村吉蔵篇戯曲淀屋辰五郎
木下杢太郎篇柏屋伝右衛門和泉屋染物店南蛮寺門前
吉井勇篇狂芸人俳諧亭句楽の死髑髏尼
秋田雨雀篇国境の夜手投弾喜劇アスパラガス
池田大伍篇茨木屋幸斎男達ばやり根岸の一夜滝口時頼
鈴木泉三郎篇生きてゐる小平次美しき白痴の死次郎吉懺悔谷底火あぶり心中の始末

●第50巻戯曲篇4山本有三篇嬰児殺し生命の冠女親同志の人々海彦山彦大磯がよひ雪父親西郷と大久保
小山内薫篇亭主吉利支丹信長息子森有礼第一の世界公園裏俊寛三人と三人西山物語緑の朝
岸田国士篇古い玩具命を弄ぶ男ふたりぶらんこ紙風船麺麭屋文六の思案葉桜屋上庭園驟雨村で一番の藁の木チロルの秋

(以下次回)


  (75)

(承前)

●第51巻江口渙篇恋と牢獄
小林多喜二篇東倶知安
林房雄篇林檎絵のない絵本新いそっぷ物語
徳永直篇豊年飢饉「赤い恋」以上
片岡鉄兵篇綾里村快挙録
窪川いね子篇キャラメル工場からいろは長屋の耳目別れ幹部女工の涙黒島伝次篇橇氾濫渦巻ける鳥の群
山田清三郎篇小さい田舎者紙幣束幽霊読者
橋本英吉篇労働市場メキシコ共和国の滅亡没落者の群
立野信之篇四日間アスファルトの仲間施療産院にて
中野重治篇砂糖の話波のあひま
村山知義篇処女地理髪脱走少年の手紙

●第52巻細田民樹篇黄色い窓
細田源吉篇大都
下村千秋篇瀕死の浮浪女群ドナウ・ホテルの殺人
牧野信一篇村のストア派吊籠と月光と歌へる日まで

●第53巻加藤武雄篇東京の顔
中村武羅夫篇瑠璃鳥

●第54巻大仏次郎篇かげろふ噺山の娘半身仲間同志
牧逸馬篇水晶の座白仙境

●第55巻現代作家篇1横光利一篇日輪機械
十一谷幾三郎篇あの道この道街の犬
滝井孝作篇ゲテモノ養子結婚まで父来たる
佐々木茂索篇おぢいさんとおばあさんの話ある死・次の死兄との関係或冬の日に魚の心是好日所謂生き死に
川端康成伊豆の踊子死体紹介人十六歳の日記
中河与一篇肉親の賦
稲垣足穂篇天体嗜好症青い箱と紅い骸
坪田譲治篇正太の馬子供の憂鬱正太樹をめぐる
龍胆寺雄篇放浪時代
久能豊彦篇シャッポで男をふせた女の話
井伏鱒二篇朽助の居る谷間丹下氏邸
堀辰雄篇眠ってゐる男音楽のなかでルウベンスの偽画
嘉村礒多業苦秋立つまで
小林秀雄篇おふえりあ遺文

●第56巻江戸川乱歩篇心理試験二廃人白昼夢屋根裏の散歩者人間椅子押絵と旅する男百面相役者幽霊
大下宇陀児篇情獄盲地獄決闘街爪死の倒影十四人目の乗客毒蛞蝓綺譚リウ・キノウの不思議な夢生きていた靴下の話痛ましき庄作蒲鉾紅座の庖厨真夏の殺人
甲賀三郎琥珀のパイプ恋を拾った話錬金術亡霊の指紋悪戯或る夜の出来事空家の怪
小酒井不木篇恋愛曲線肉腫印象暴風雨の夜謎の咬傷愚人の毒呪はれの家秘密の相似

●第57巻佐々木邦篇ぐうたら道中記
辰野九紫篇恋の警笛女優極楽
中村正常篇日曜日のホテルの電話阿五家の家風幸福な結婚我が家の幸福チエコ・チャコ株式会社従順な夫をもつ妻と隣家の奥さん理窟っぽい妻が風邪をひいた晩アパートの花嫁の料理三人のウルトラ・マダムユマ吉とペソコと二人の愛G酒場の女給たちの向上心超現実派の花嫁結婚の害について
正木不如丘篇木賊の秋法医学教室銀河時に棹さす

 ……まだ続くの?とアリス。
 あと1回です。


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(承前)

●第58巻長谷川伸篇沓掛時次郎股旅草鞋中山七里関の弥太っぺ町の入墨者瞼の母舶来巾着切掏摸の家九郎の関人斬り伊太郎
白井喬二新撰組

●第59巻佐々木味津三篇右門捕物帳
直木三十五篇仇討浄瑠璃

●第60巻現代作家篇2葉山嘉樹篇淫売婦セメント樽の中の手紙出しやうのない手紙労働者の居ない船乳色の靄浚渫船
前田河広一郎篇三等船客太陽の黒点旗が振られる
金子洋文篇天井裏の善公
平林たい子篇施療室にて夜風西向の監房足音投げすてよ私の友人
小島政二郎篇 一枚看板月二回生理的腫物子にかへる頃家
原六朗篇深見のヘレニズム青きドナウ軽蔑されたドン・ファン木馬舘ビルの生活者と表情
犬養健篇亜刺比亜人エルファイ南国改作
池谷信三郎篇橋マクダレナ忠僕後妻の気持
岡田三郎篇妻の死と百合公母

 以上春陽堂明治大正文學全集全60巻でした。ご存知の作家は何人いらっしゃったでしょうか?僭越ながら推察するに、あなたの場合は全然なんではないかと。
 本を読んでいないのが悪いって言うの?とアリスは腹を立てました。私だってたまには本くらいは読むし、それに学校では毎日教科書を読まされているわ。
 それに、とアリスは強調しました、私は本なんか読まなくてもハリー・ポッターより有名なのよ。ハリー・ポッターで足りないならホビットを足してもいいわ。その私が、どうして今さら本なんか読まなきゃならないの?
 有名な童話のヒロインなのと、ろくに本すら読まないJSなのは違います。
 JSって何よ?
 女子小学生の略称です。最近日本ではそう呼ぶことになったのです。
 私は日本の女子小学生じゃないわ。それに19世紀のイギリス人には日本人は猿と同じか、世界地図のどことも知らない未開の土地の原始人だと思われていたのを忘れないで。
 肝に銘じます。しかしあなたは1854年生まれで1934年に亡くなりました。日本の年号なら嘉永5年生まれで、昭和9年までご存命でいらした。1868年~1912年までが明治、1912年~1926年が大正年間です。
 だから何よ?
 最初にあなたのお話が紹介されたのは1899年=明治32年でした。明治41年=1908年には初めての翻訳がなされ、大正9年1920年には正続合わせた初の全訳が出ました。1927年=昭和2年には芥川龍之介の遺稿からも日本語訳が刊行されました。
 つまり、そういうことなのです。あなたは生前すでに日本語で読まれていたのです。


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 あと4回。
 甲冑の騎士の一群は泥濘地を越えた草叢とその奥の森を厳重に警備しているようでした。
 見ろや鉄兜や、と大ノッポは感に堪えたように言いました、しかも全身甲冑や。あれは総重量は何10kgもあるんやで。しかも、当然動けなければ意味ないから肝心な関節や首周りは露出しているかせいぜい革つなぎにするしかあらへん。中距離、遠距離で石つぶてや槍を防ぐには丈夫でも、近接戦闘だと甲冑の重さによろけながら首の斬りあいになるのがオチや。人間魚雷が突進する棺桶ならば、甲冑なんぞは死闘用の拘束具や。まともな精神状態で着られるものやあらへん。
 敵を近づけなくちゃいいんじゃないの?とチビ。大砲とか銃撃戦にすれば、近接戦闘にはならずに済むんじゃないかなあ。
 時代が違う、と大ノッポ、全身甲冑は火薬兵器の開発よりも前の時代の防具やで。それに仮に爆弾で攻撃されてみい。手足も首も吹き飛んで血だらけの中身の詰まった樽のような甲冑がごろごろ転がるだけや。
 戦艦大和の最後のように?
 戦艦大和の最後のように。直接爆撃を受けて被弾した士官室に下士官が駆けつけると、手足も首もないダルマのような胴体が血を噴いていた。それでも民間人殺傷と較べれば戦死に分類されるだけいい。
 1944年11月24日~翌3月9日 通常兵器による空爆第一期。軍需工場を主要な目標とした精密爆撃の時期。ただし、焼夷弾爆撃も実験的に始められていた。
 1945年3月10日~6月15日 通常兵器による空爆第二期。大都市の市街地に対する焼夷弾爆撃の時期。
 1945年3月10日 東京大空襲
 1945年3月12日 名古屋大空襲
 1945年3月13日 大阪大空襲
 1945年3月17日 神戸大空襲
 無差別爆撃。
 1945年8月6日、広島市ウラニウム原子爆弾リトルボーイ投下。
 1945年8月9日、第1目標の小倉市上空が八幡空襲による靄で視界不良だったため、第2目標の長崎市プルトニウム原子爆弾ファットマン投下。
 戦争は知らない、と大ノッポがつぶやきました。だってぼくらは……
 私は知っている、とアリスは言いました。1852年生まれの私は28歳で結婚して3人の息子アラン、レックス、キャリルを生んだ。第1次世界大戦は1914年に始まり、1918年の終戦前にアランとレックスは戦死した。そして私は戦争未亡人と再婚した私の三男を生涯許さなかった。許せるものですか。


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 あなたの前半生はおおむねヴィクトリア女王(1819-1901、在位1831-没年)朝下のイングランドとその連合王国の安定期にそっくり収まるものです。ヨーロッパの大国は産業革命以降の経済構造にも軍事的にも、文化的そして外交的にも、また植民他経済にも不安は抱えていた。アメリカ合衆国の南北統一がやがて世界経済も政治においても東のロシア(ソヴィエト)と中国、西にアメリカ合衆国超大国としてヨーロッパ諸国を挟みうちにし、19世紀末にそろそろ破綻を見せ始めたヨーロッパ諸国の政治的・経済的位置(そしてもちろん軍事的・文化的・外交的位置)は1914年~1918年の第1次世界大戦と1917年のロシア革命以後急激に立場を危うくしていったのです。
 現在かろうじてイギリスはアメリカ合衆国、フランス、ロシア連邦中華人民共和国とともに国連安保理で拒否権を持つ列強に数えられています。それは国連安保理で拒否権を持たない列強である日本やドイツよりは、よほど世界に幅をきかせているということにもなるでしょう。あなたが逝去された1934年は、前年にドイツ首相になったアドルフ・ヒトラーが指導者と首相を兼ねる総統の地位に就きました。ムッソリーニスペイン王党派と秘密協定を結び、この年に国連に加入したソヴィエトではスターリンによる粛正が始まります。あなたは82歳で亡くなりましたが、あと5年長生きすればイギリスは第2次世界大戦にも参入し、それは6年も続くものになりました。あなたが第2次世界大戦を生き延びたら92歳の高齢です。あなたよりも後に生まれた人の多くが、あなたよりも先に死んでいきました。あなたはアリス・リデルでした。不思議の国をさまよい、鏡の国に迷いこんだアリスでした。
 あなたは少女の頃あまりにドジソン先生の理想でありすぎたので、そのお話が自分を永遠化して人生の妨げになっているとすら感じ、結婚式にはルイス・キャロルを招かないことで報復しました。ドジソン先生にはそれはあなたの期待した通りの精神的打撃を与えました。結婚してアリス・ハーグレイヴスになったアリスはかつてのアリス・リデルではありませんでした。だからアリス・ハーグレイヴスがたどった1880年、日本でいえば明治13年以降の歴史はアリスの世界のものではない。平行宇宙の歴史でしかない。
 だがそれはなんてあなたの世界とそっくりに気ちがいじみていたのでしょう?


  (79)

 わかった、と大ノッポが言いました、つまりぼくたちはアリスが見ている夢なんだ。つまりさ、と大ノッポが言いました、ぼくたちはドジソン先生のつくり話なんだ。だからさ、と大ノッポが言いました、ぼくたちは同じところをぐるぐる回っているんだ。それはさ……
 またいきなりようわからんことを言いよる、と中ノッポが遮りました。だいたいその外人さんは何や?ドジソン先生なんて会うたこともあらへんで。いいかげんヨタ飛ばすんでも、もっと真面目にやれー。
 ヨタやないで、と大ノッポ。チビはふたりの間でためつすがめつ考えている様子だったのが、ふと思い当たる節があるようでしたが、考えている時には考えているようには見えず、考えていない時には考えていないのがチビのキャラクターですから、いわば卓球をしている大ノッポと中ノッポの間に張られたネットみたいなものです。卓球というのはね、インドではなくて中国のスポーツですよ。ついでに言えばインドの国技はカバディといって、競技中に攻撃者はカバディカバディカバディと連呼し続けなければならないというルールがあるのです。インド帰りのお友だちに会ったら訊いてみてごらんなさい。
 変なの、とアリスは言いました。カバディカバディカバディ、とエディス。止めなさい、とロリーナはたまにはお姉さんの威厳を効かせようとしましたが、ドジソン先生は笑うと、サンスクリットにも良い言葉がありますよ、ダッター、ダーヤズワム、ダーミヤータ(捧げよ、同情せよ、自制せよ)。
 シャンティ、とチビが言いました、シャンティ、シャンティ。
 その意味は知っとるわ、と中ノッポ、平安あれって言うんやろ、決まり文句や。でもどうして3回言うんや?
 夢の途中だったんだろ、と大ノッポ、きっとぼくたちが何度も見てきたアリスの出てくる夢さ。いつもぼくたちが追いつめられた時、そこにはアリスがいた。もしそれがいつも同じアリスなら、今度のもそうだ。
 待ってくれ、と中ノッポが言いました、ぼくらがアリスの見る夢の中におるんなら、何でぼくらがアリスの夢を見るんや?
 現在形じゃないよ、と大ノッポ、たぶんこれはもう終わったことなんだ。もし現在形なら話は進んでいいはずなのに、同じところを回っているんだから。
 答えになっておらへん、と中ノッポ、ぼくが知りたいんは、どっちがどっちの夢を見とるんかや。つまり……
 終わった方さ、と大ノッポは言いました。


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 ほな行こか、と中ノッポがうながすと、水泳パンツ1枚になった大ノッポ、チビの3人は波打ちぎわに沿って遊びに手ごろな浅瀬を探しに歩き出しました。カモメがカーと鳴きました。海水パンツ1枚になった大ノッポ、中ノッポ、チビの3人は波打ちぎわに沿って遊びに手ごろな浅瀬を探しに歩き出しました。カモメがカーと鳴きました。海水パンツ1枚になった大ノッポ、中ノッポ、チビの3人は(人と呼べるとすればですが)波打ちぎわに沿って遊びに手ごろな浅瀬を探しに歩き出しました。あるいは歩き出しませんでした。カモメがカーと鳴きました。または鳴きませんでした。
 波が岩に砕けました。
 もういいかしら、とアリスは訊きました。白ウサギはさっきまでとはうって変わって気乗りのしない様子で、まあいいでしょう、と返事をよこしました。アリスは無責任だわ、と白ウサギの態度を不満に思いましたが、ここで仲間割れを起こしても、と言い出しっぺの追及はしないことにしました。でもよく考えてみたら仲間割れも何も、白ウサギとアリスは仲間どころか友だちですらなく、むろん仇敵というほど恨みあう仲ですらありません。一緒になって地球の裏側(?)まではるかな時間をかけて落っこちてきただけです。
 カモメが鳴きました。カー。
 ぼくらは何でまた海遊びしなければならんのや、と中ノッポがこぼしました。こないなことしていても、いっこう何もはかどらんのやで。またじわじわと真綿で首を絞められるような目に会うだけや。
 チビが小声で言いました。カー。
 ぼくらが服を置いておかないと、と大ノッポ、アリスたちが盗めないじゃないか。そうしないといつまでたってもこの話は始まらない。
 そなこと、これで何度目や?と大ノッポ、ぼくたちが服を盗まれるのは。いくら10歳の少女とウサギやからって学習能力ないんか?
 同じアリスが落ちてくるとは限らない、と大ノッポが言いました、それでもアリスと白ウサギは次から次へと落ちてくる、そういうふうになっているんだから仕方ない。
 まだ待つの?とチビ。
 急ぐことはないさ、と大ノッポ、いつまで待っても今すぐにでも、同じことだ。
 アリスと白ウサギは砂の中にひそんだまま機会をうかがっていました。まだ待つの?とアリス。急ぐことはないさ、と白ウサギ、いつまで待っても今すぐにでも、同じことだ。
 ……腹話術でも習おうかしら、とアリスは思いました。
 第八章完。おわり。


(五部作『偽ムーミン谷のレストラン』第五部・初出2016年1月~6月、全八章・80回完結)
(お借りした画像と本文は全然関係ありません)