ゴッズ Godz - ゴッズ2 Godz 2 (ESP, 1967) Full Album : https://youtu.be/5IaO4mmQB24
Recorded in New York City, 1967
Originally Released by ESP-Disk ESP 1047, 1967
(Side 1)
A1. Radar Eyes (Dillon, Kessler, McCarthy) - 2:25
A2. Riffin' (Thornton, McCarthy) - 4:00
A3. Where (McCarthy) - 4:00
A4. New Song (McCarthy) - 2:00
A5. Squeek (Kessler) - 3:30
A6. Soon The Moon (Dillon, Kessler, McCarthy) - 3:15
(Side 2)
B1. Crusade (Dillon, Kessler, McCarthy, Thornton) - 9:00
B2. You Won't See Me (Lennon, McCartney) - 5:00
B3. Travellin' Salesman (Kessler, McCarthy) - 2:15
B4. Permanent Green Light (McCarthy) - 4:15
[ Godz ]
Jim McCarthy - guitar, vocals
Larry Kessler - guitar, viola, vocals
Jay Dillon - organ, piano, autoharp
Paul Thornton - drums, vocals
*
(Original ESP-Disk "Godz 2" LP Liner Cover & Side 1/2 Label)
ゴッズについてはイギリスで1975年にフィル・ハーディとデイブ・ラングの共編によって刊行された総合的ロック辞典『The Encyclopedia of Rock Vol.2』(翻訳『ロック百科vol.2』サンリオ1981)に簡潔かつ的確な紹介があります。同ロック百科は'50年代~ビートルズ登場以前までを範疇とするVol.1、ビートルズ登場~60年代いっぱいを扱うVol.2、原著刊行時の'70年代(1976年まで)を取り上げたVol.3の3巻からなりますが、ゴッズが紹介されているVol.2ではファッグスとヴェルヴェット・アンダーグラウンドが同等に重要視されており、ニューヨークの'60年代アンダーグラウンド・シーンからはパールズ・ビフォア・スワインと並んでゴッズに独立項目がある一方で、西海岸のアンダーグラウンド・ロック以外のローカル・シーンにはまだ注意が払われておらず(ザ・13thフロア・エレベーターズ、レッド・クレイオラなどは名前の言及のみ)、また「パンク・ロック」は現在の'70年代ニューヨーク・パンク~ロンドン・パンクではなく'60年代のアマチュア・ガレージ・バンド勢を指しているのが1975年時点でのロック批評状況を表しており、歴史的観点としての意味があります。現在ならばかなり包括的な名鑑でもファッグスはおろかパールズやゴッズに独立項目を割くロック解説書は著されないでしょう。1975年にはまだファッグスやパールズ・ビフォア・スワイン、そしてゴッズに歴史的重要性を認める批評的観点があったということです。ファッグスやパールズの項目も的確で、またの機会にご紹介したいのですが、今回はゴッズのご紹介ですからその項目を引いておきましょう。残念ながら日本語版訳書は日本語として体をなしていない悪訳なので、適宜訂正して引用します。
◎The Godz ゴッズ
ニューヨーク出身の4人のメンバー、ジム・マッカーシー(ギター、ヴォーカル)、ラリー・ケスラー(ギター、ヴィオラ、ヴォーカル)、ジェイ・ディロン(キーボード、オートハープ)、ポール・ソーントン(ドラムス、ヴォーカル)によるグループで、1966年のデビュー作『Contact High with The Godz(コンタクト・ハイ・ウィズ・ゴッズ)』(ESP 1037、1966年9月録音)は当時のニューヨークでは究極的であると同時に、おそらくロック史上かつてない最悪のデビュー・アルバムだった。しかし、ゴッズのアルバムは最悪だから(つまりキッチュだから)良かっただけではなく、ESPディスクの先輩であるファッグスの定めたアナーキズムの方向に従った、音楽的低水準を維持するための懸命かつ不断の努力ゆえだった。ESPだからこそゴッズは続くアルバム、『Godz 2』(ESP 1047、1967年)、また多少は尋常な『The Third Testament(第三新約聖書)』(ESP 1077、1968年)を制作できたので、他のレーベルならば1作きりで契約を失っただろう。最初の2作は容赦なく非音楽的で、まったくハーモニーにならないヴォーカルが泣き叫び、前衛的ソロがあり、フィドルがぎしぎし軋む。「White Cat Heat」(『Contact High with The Godz』)と「Squeak」(『Contact High~』初演・『Godz 2』再演)はこのバンドの才能がいかなるものかをよく表しており、究極的な暴動抑止の切り札を暗示しているかもしれない。
以上が『The Encyclopedia of Rock Vol.2』のゴッズの項目の全文意訳引用ですが、第3作『第三新約聖書』でジェイ・ディロンはバンドのメンバーから外れ(録音には参加しています)、ESPディスクの経営難に伴ってゴッズはいったん解散してしまいます。ESPが制作を再開し、ゴッズもストーンズの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」の脱力カヴァーを含む第4作『Godzundheit(悪ふざけゴッズ)』(ESP 2017)を1973年にマッカーシー、ケスラー、ソーントンの3人で制作しますがバンドは事実上解散状態にあり、1990年代初頭にドイツのインディー・レーベルZYX MusicがESPディスクのアルバムを一斉CD化した際に『コンタクト・ハイ~』から『悪ふざけゴッズ』の4作の初CD化に伴って発掘発売されたゴッズ名義の未発表アルバム『Alien』(ESP/ZYX Music 3008-2、1973年録音)はジム・マッカーシー、『Godz Bless California』(ESP/ZYX Music 3019-2、1974年録音)はポール・ソーントンが臨時メンバーを集めて制作した実質的なソロ・アルバムでした。2005年にジェイ・ディロンの訃報(2002年頃)が明らかになり、2007年にはマッカーシー、ケスラー、ソーントンのオリジナル・メンバー3人が集まって新作の録音を開始したニュースが流れ、インディー・レーベルのMantra Ray Recordsから新作『The Godz Remastered』が発売されたのが2012年になり、また新作の残りテイクが同レーベルから『Gift from the Godz』として発売された2014年からラリー・ケスラーが単独でゴッズ名義のライヴ活動を行うようになります。2015年の新作シングルの録音にポール・ソーントンが参加したことからゴッズはケスラーとソーントンを中心に新メンバー2人を加えて本格的に再結成され、2019年にはケスラーによる再結成以降のゴッズのドキュメンタリー映画も公開されました。イギリスの音楽誌「Shindig !」でゴッズを表紙に巻頭特集が組まれたのもドキュメンタリー映画の公開に併せてでしたが、2019年4月にポール・ソーントンが逝去し一応ゴッズは2018年をもって活動を休止したとされます。こうしたゴッズの歩みをギャラすら払わないESPディスクの性格(ノーギャラでアルバム6枚制作、しかも2枚はボツ)と考えあわせると、無償の行為という実存主義的命題すら浮かんでくるほどです。またデビュー作ではハンク・ウィリアムズ、本作ではビートルズ、第3作ではボブ・ディランのレパートリー(の改作)、第4作ではストーンズの下手くそなカヴァーを誰も望んでいないのに平気でやる。これはファッグスはやらず、後のアモン・デュールやファウストがパロディ的に採り入れた手口ですが、ゴッズの場合はパロディでも何でもなく単に下手なだけなのをわざわざ見せつけているのです。
ゴッズはファースト・アルバムからメンバー全員が楽器をほとんど演奏できないというあんまりな状態でデビューしたバンドで、同作の代表曲「White Cat Heat」: https://youtu.be/tG5MPwjqYnMなどはアコースティック・ギターをでたらめにかき鳴らしパーカッションを連打しながらメンバー全員で猫の鳴き真似をする(同作の「Turn On」や「Na Na Naa」、本作の「Riffin'」「Squeak」も同工異曲です)と、先輩ファッグスのダダイズムが音楽的な焦点の定まった方法的なものだったのに対してファッグスのでたらめに聞こえる部分のみを模倣した結果のような、何をやりたいのかすら全然伝わってこない壮絶なバンドでした。デビュー・アルバムには「Lay in the Sun」という曲もありますが、アコースティック・ギターの1コードだけをかき鳴らしながら歌詞は「All I wanna do lay in the sun」とくり返すだけです。ファッグスのような高度な文学性すら皆無なので、そもそも音楽で伝えたい事柄や音楽的表現の追求すら放棄している筋がある。1966年といえばビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンがポップ・ソングに「神」の御名を使っていいのだろうかと名曲「神のみぞ知る(God Only Knows)」の発表に悩んでいた頃ですが、何も考えずに「Godz」と名乗ったデビュー作のゴッズは猫や犬の鳴き真似を神の名のもとに平然と楽曲化していたので、「当時究極的であると同時に最悪」と批評家をして感嘆せしめるだけのものがあったのです。ファッグスの影響が最良のアシッド・フォーク・ロックを生んだのがパールズ・ビフォア・スワインならゴッズはファッグス影響下の最悪の音楽を体現してみせたので、本作では前作では控えめだったエレクトリック・ベースやキーボード、ヴィオラの使用に踏みきり、といってもほとんど弾けないのでどうやらライヴ活動で頭角を現してきたヴェルヴェット・アンダーグラウンドを実際に聴いてきたか評判だけで模倣しようとしてみせた節があります。ビートルズの「ユー・ウォント・シー・ミー」をカヴァーして途中で演奏を中断し雑談を挟んで一応完走するふざけたヴァージョンもありますが、楽器なんかスタジオ入り10分前まで触ったこともないと言わんばかりの稚拙な演奏でひたすら1コードだけ、しかもこれでもかの単調さと汚い音色で無意味な歌詞を唸るだけ(「Riffin'」ではターザンの真似と「メリーさんの羊」の口笛、「Where」ではタイトルを連呼するだけ)と、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが意識的に計算された効果的なミニマリズムとして表現していた手法が、ゴッズの場合は単に安易に演奏できるからそうしている、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド風の手法を採り入れたにすぎないのです。本作のA2「Soon The Moon」はミネソタ・ガレージ・パンクの雄ザ・リッターのヒット・シングル「Action Woman」('67年1月)をヒントにした楽曲かもしれない。四つ打ちのドラムスとトニックだけで刻むベースに類似がありますが、かっこいい高揚感のあるザ・リッターの「Action Woman」に較べてゴッズの「Soon The Moon」はどんよりとした虚無的なトリップ感覚しかありません。ゴッズが本当にマジもんの低脳無能集団だったか、あえてこれほどひどいものを晒していたのかはちょっとわからない。次作『The Third Testament』にはボブ・ディランが民謡メロディーを改作した「ハッティ・キャロルの寂しい死(Lonesome Death of Hattie Carroll)」(アルバム『時代は変る』1964.2収録)と同じメロディー、コード進行のジム・マッカーシー作のオリジナル楽曲もあります。本作のオープニング曲「Rader Eyes」もゴッズと思わないで聴けば'70年代ニューヨークのノー・ウェイヴの先駆的ナンバーのようでもある。本当に間抜けなだけの(しかし徹底して最低であろうとした)度し難いカスのようなバンドなのか、『The Encyclopedia of Rock』が可能性を見るように暴力衝動の音楽的昇華なのか。もし後者なら、いや前者だとしても、ロックンロールの本質には暴力性と下降指向があり、ゴッズが射抜いていたのはその両方とも言えます。またこの屑のような音楽に案外強い中毒性があるのは紛れもなく、主流ポップとは別に纏綿と流れるこの系譜がオルタナティヴ・ロックならばゴッズもまた正統的な傍流ロックの指標とも言えるので、アートでもポップでもないからこそ達成し得た素人くさい純度ではファッグスやヴェルヴェット・アンダーグラウンドとは別の次元に成り立った音楽とも見なせます。また同時期の西ドイツでアメリカ軍人がやっていた異端バンド、モンクスとゴッズはバンド名だけでも表裏一体と言えるので、ニューヨークとドイツで同じことをやっていた。しかもファッグスはおろかゴッズに較べればモンクスは遥かにプロのバンドらしく見えるので、いっそうゴッズの存在はロック史に仕組まれたわけのわからない冗談のように際立っています。しかもメンバー全員がレコード会社勤務のサラリーマン(……宴会芸!?)だったそうですから、本当にこの連中は何を考えてこんなことをやっていたのでしょうか。