(Reissued 1972 "Contact High with The Godz" LP Front Cover)
ゴッズ Godz - コンタクト・ハイ・ウィズ・ザ・ゴッズ Contact High with The Godz (ESP, 1966) Full Album : https://youtu.be/uRoQcjYFrd8
(Original 1966 LP Front Cover)
Recorded in New York City, September 28, 1966
Originally Released by ESP-Disk 1037, 1966
Reissued by ESP-Disk 1037, 1972
(Side A)
A1. Come On Girl, Turn On (Kessler, McCarthy) - 4:21
A2. White Cat Heat (Dillon, Kessler, McCarthy) - 2:11
A3. Na Na Naa (McCarthy) - 2:58
A4. Elevem (Dillon) - 3:56
(Side B)
B1. 1 + 1 = ? (McCarthy) - 2:39
B2. Lay In The Sun (McCarthy) - 2:57
B3. Squeak (Kessler) - 2:54
B4. Godz (Dillon) - 1:26
B5. May You Be Alone (Hank Williams) - 1:34
[ Godz ]
Jim McCarthy - guitar, plastic flute, harmonica, vocals
Larry Kessler - bassguitar, violin, vocals
Jay Dillon - psaltely (autoharp), art direction
Paul Thornton - drums, guitar, maracas, vocals
*
(Reissued 1972 "Contact High with The Godz" LP Liner Cover & Side A Label)
ゴッズという同名バンドは1976年にグランド・ファンク・レイルロードのドン・ブリューワーのプロデュースでデビューしたハードロック・バンドもいますが、こちらは先に『ゴッズ2』1967をご紹介した'60年代ニューヨークのアンダーグラウンド・バンドのゴッズです。イギリスのロック辞典『The Encyclopedia of Rock Vol.2』1975では「究極にして最悪のデビュー・アルバム」「ロックの最低水準であろうとする懸命かつ不断の努力」「容赦なく非音楽的」と特記され、今日アメリカの音楽サイトAllmusic.comでは五つ星満点で四つ星半(『Godz 2』は三つ星、『The Third Testament』1968は四つ星、『Godzhundheit』1973は三つ星)、Rateyourmuic.comでは5.00満点で3.01(Godz 2』は3.32、『The Third Testament』は3.14、『Godzhundheit』は2.85)と、今日でもそれなりに評価の対象となっているバンドです。Allmusicの評価ではデビュー・アルバムの本作が最高作、Rateyourmuicでは低評価なりに『ゴッズ2』が最高作、ともに次点が『The Encyclopedia of Rock Vol.2』が「前2作よりは多少は尋常」と評した第3作『第三新約聖書(The Third Testament)』なのは一種の妥協点と言えるでしょう。
ゴッズについては『ゴッズ2』をご紹介した際にあらかた書きつくしてしまいましたが、レコード会社勤務のサラリーマン(ジェイ・ディロンは広告デザイナー、他の3人はセールスマン)4人がESPディスクから2作のアルバムを出していたファッグス(『Fugs First Album』1965が全米アルバムチャート142位、『The Fugs』1966が95位)に触発されて結成し、ファッグスに続いてESPディスクのアンダーグラウンド・ロック路線の第2弾アーティストとしてデビューしたバンドでした。このデビュー・アルバムではジェイ・ディロンがアートワークを手がけていますが、アートワークの方はともかくメンバー全員楽器はまったくの初心者で、『ゴッズ2』『第三新約聖書』とアルバムを重ねるごとに少しずつ上達しますが、デビュー・アルバムの本作の時点では演奏も曲作りも前例のないほど壊滅的で、ミュージシャンとしては素人なりに詩人・文筆家の集まりだったファッグスが焦点の定まった、しっかりしたアティチュードを持ったバンドだったのに対して一体何をやりたいのか自覚もなければ演奏手段もないような始末でした。アルバムも8曲のオリジナル曲とハンク・ウィリアムズのカヴァー1曲をつたなく演っており、全9曲で25分しかない貧弱なアルバムです。AB面で30分にも満たないLPは当時は珍しくありませんでしたし、ビーチ・ボーイズやファッグスもAB面計30分未満で充実したアルバムを作っていたのに、ゴッズのメンバーは全員が曲を買いても何のアイディアもないので、シングル・カットされた(!)B2「Lay In The Sun」でも歌詞は1行「All I wanna do lay in the sun」をくり返しているだけです。現行CDでは1曲目と2曲目の位置が入れ替えられて1曲目に「White Cat Heat」、2曲目にタイトルを短縮された「Turn On」が配置されていますが、動物(猫)の鳴き真似をしているだけの「White Cat Heat」、歌詞は4分あまり「Well Come on, well come on little girl turn on」だけの「Come On Girl, Turn On」と冒頭2曲だけでアイディアは尽きており、「Na Na Naa」はナナナーとハミングしているだけ、現行CDでは「Eleven」ですがLP時代は誤植か故意か「Elevem」というタイトルだった4曲目もタイトルを唸っているだけと、作曲メンバーは別々ですがこれほど何をやりたいのかリスナーに何も伝わってこない音楽というのも壮絶です。
アルバムB面は「1 + 1 = ?」とこれまた白痴的なタイトルの牧歌的フォーク・ロック(しかもアコースティック・ギターもハーモニカも汚いだけ)で始まり、前述した「Lay In The Sun」があり、適当なギターとパーカッションにヴァイオリンがギーギー軋んでいるだけのインストルメンタル曲「Squeak」(『ゴッズ2』でも再演されます)、メンバー全員で口々にバンド名を叫んでいるだけの「Godz」と来て、オモチャの笛がピロピロするハンク・ウィリアムズのカヴァー(現行CDでは「May You Never Be Alone Like Me」と改題)で「君は僕ほど孤独じゃないだろ?」と呼びかけて終わります。「(当時のニューヨークのアンダーグラウンド・シーンにあって)究極にして最悪のデビュー・アルバム」「ロックの最低水準であろうとする懸命かつ不断の努力」「容赦なく非音楽的」であるためにはこれほど徹底していなければならないわけで、本作の発売は1966年末でヴェルヴェット・アンダーグラウンドのデビュー・アルバム(1967年3月)に先んじていますが、ファッグスやヴェルヴェットはもとよりゴッズに較べれば当時のラヴやフランク・ザッパ&マザーズ、ザ・シーズを始めとする西海岸のアンダーグラウンド・バンド、ザ・13thフロア・エレベーターズやレッド・クレイオラらのテキサス・サイケなど真面目に音楽的な追求をしていたバンドに見えてきます。先にご紹介した『ゴッズ2』では本作より格段に音楽的骨格の明確なプロト・パンク/プロト・サイケデリック的音楽性を獲得するゴッズですが、それでも本質的には本作と以降の『ゴッズ2』や『第三新約聖書』、『悪ふざけゴッズ(Godzhundheit)』、また'90年代の発掘CD化まで未発表に終わっていた『Alien』(1973年録音)、『Godz Bless California』(1974年録音)までゴッズの姿勢は何も変わっていないので、これほどあっけらかんとした虚無的な冗談ロックがビジネス至上主義の国アメリカの、ビジネスとアートの聖地ニューヨークから生まれてきたのには腰が砕けます。しかも21世紀になってからオリジナル・メンバーで再結成し、つい最近の2018年までマイペースに新作録音やライヴ活動までしていたとは何ということでしょうか。ゴッズのメンバーにとってはゴッズがライフワークだったという厳粛な事実の前には、無限に虚数に虚数を掛けるような壮大な価値転倒を感じずにはいられない空恐ろしさすら覚えます。