人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ビル・エヴァンス・トリオ Bill Evans Trio - ワルツ・フォー・デビー Waltz For Debby (Riverside, 1962)

ビル・エヴァンス - ワルツ・フォー・デビー (Riverside, 1962)

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ビル・エヴァンス・トリオ Bill Evans Trio - ワルツ・フォー・デビー Waltz For Debby (Riverside, 1962) Full Album + Bonus tracks : https://youtu.be/Vhca9Ol_sls
Recorded live at the Village Vanguard, New York City, June 25, 1961
Released by Riverside Records RLP399, 1962

(Side 1)

A1. My Foolish Heart (Victor Young, Ned Washington) - 4:58
A2. Waltz for Debby (Take 2, Bill Evans, Gene Lees) - 7:00
A3. Detour Ahead (Take 2, Lou Carter, Herb Ellis, Johnny Frigo) - 7:37

(Side 2)

B1. My Romance (Take 1, Richard Rodgers, Lorenz Hart) - 7:13
B2. Some Other Time (Leonard Bernstein, Betty Comden, Adolph Green) - 5:11
B3. Milestones (Miles Davis) - 6:30

(CD Bonus tracks)

7. Waltz For Debby (Take 1) - 7:00
8. Detour Ahead (Take 1) - 7:13
9. My Romance (Take 2) - 7:15
10. Porgy (I Loves You, Porgy) (George & Ira Gershwin) - 5:58

[ Bill Evans Trio ]

Bill Evans - piano
Scott LaFaro - bass
Paul Motian - drums

(Original Riverside "Waltz For Debby" LP Liner Cover & Side 1 Label)

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 ビル・エヴァンス・トリオの『ワルツ・フォー・デビー』はピアノ・トリオ作品に限らずモダン・ジャズでももっとも人気の高いアルバムの一つですが、特に1986年のCD化からボーナス・トラックにアンコールで演奏されたアルバム・タイトル曲「Waltz For Debby」と「Detour Ahead」「My Romance」の別テイク3曲、さらに完全未発表曲としてガーシュイン兄弟の『Porgy and Bess』からの絶唱「Porgy (I Loves You, Porgy)」が追加収録されたことでますます人気が高まったと思います。CDへの楽曲追加収録については賛否両論ありますが、「Porgy (I Loves You, Porgy)」がアルバムの最後を締めくくることでこのアルバムは同時収録のライヴ盤で先行発売されたアルバム『Sunday at The Village Vanguard』の姉妹作以上の風格を備えるようになりました。『Sunday~』でも『Porgy and Bess』からの「My Man's Gone Now」が収録されていましたが、同アルバムの選曲はこのライヴ収録の11日後に享年25歳で交通事故死したベーシスト、スコット・ラファロのオリジナル曲2曲を中心にラファロを大きくフィーチャーした演奏が中心でした。「My Man's Gone Now」(タイトルからして意味深ですが)の方が選ばれて「Porgy」がLP時代にどちらのアルバムにも未収録になったのも『Porgy and Bess』から2曲は多い、と判断されたのかもしれません。「Porgy」は有名曲ですが、エヴァンス自身は誰のヴァージョンを思い浮かべていたかというと、やはりビリー・ホリデイのレパートリーという意識があったと思います。

 ビリーはテディ・ウィルソン楽団専属歌手ではない初のビリー自身の名義になった'36年7月の4曲の録音で『Porgy and Bess』から「Summertime」を採り上げていましたが(のちにジャニス・ジョプリン出世作にした、あの曲です)、ビリーの「Porgy」の初録音は'48年12月、ピアノ、ギター、ベース、ドラムスだけの簡素なバンドをバックにした円熟した歌唱で、9か月の薬物違法所持による服役からのカムバックになったレコードでした。翌年ビリーはレコード会社を移籍してヴァーヴ/クレフ・レコーズの看板歌手になり早い晩年までを過ごしますが多くのレコーディングの一方ライヴのレパートリーは人気曲に集中したものになります。最晩年の'58年以降は健康状態の悪化で声質が荒れて声量が衰え、'59年2月にはヨーロッパ・ツアーの終盤にイギリスのテレビ番組に出演し曲目は「Porgy」「Please Don't Talk About Me When I'm Gone」と「Strange Fruit」の3曲でした。帰国したビリーはクラブ出演を続けましたが楽屋ではメイクする手も震えてよだれが止まらない様子が目撃されています。同年5月31日には衰弱して病院へ緊急搬送され、肝硬変による心臓発作と診断されてそのまま入院、7月15日には病床でカトリックの洗礼の洗礼を受け翌々日の17日に急逝します。享年44歳2か月でした。没後片足に750ドル分の紙幣が縛りつけてあるのが見つかり、銀行口座の残高は70セントでした。晩年10年間の最重要レパートリーの一つだった曲がこの「Porgy」です。まだビリー逝去の記憶も生々しい1961年にエヴァンスがビリーの歌唱を意識せず取り上げたとは思えないのです。
Billie Holiday - Porgy (I Loves You, Porgy) (rec.'48, from the album "Lover Man", Decca 9-250, 1951) : https://youtu.be/Snt-wBNpUwg - 3:00
Billie Holiday & Mal Waldron with Peter Knight Orchestra - Porgy (I Loves You, Porgy) (from British TV Broadcast "Chelsea at Nine", February 25, 1959) : https://youtu.be/jpxfZKeqw48 - 2:46

 アルバム『ワルツ・フォー・デビー』ほどの名作になると収録曲全曲がスタンダード化しているようなもので、ビル・エヴァンス(1929-1980)というピアニストそのものがジャズのジャンルの一つになっているほどですが(ジャズ・ピアノにいわゆる「エヴァンス派」と呼ばれる流派があるのです)、実際10年前に有線放送のチャンネルのジャズ部門にエヴァンス派ピアノのチャンネルを見つけた時には仰天しました。有線放送ごとに異なるでしょうが、やはり10年ほど前の新宿歌舞伎町でブルー・ノート専門チャンネルを耳にした時、また性風俗店のポン引き(兼風俗嬢キャッチ屋)の会話で「ビル・エヴァンス最高っスね」と聞いてしまった(実話です)と同じくらい驚きました。さて、このアルバム収録曲6曲(別テイクを除けばCD追加曲「Porgy」を入れて7曲)中エヴァンスのオリジナル曲「Waltz For Debby」も作家ジーン・リースによって歌詞がつけられスタンダード曲化しましたが、エヴァンスが掘り出してきた曲では「Some Other Time」が他ではあまり聴かない曲でしょう。作曲はニューヨーク・フィル交響楽団指揮者でポピュラー畑でも『ウェスト・サイド物語』の大ヒットを飛ばしたレナード・バーンスタインですが、ミュージカル『On the Town』挿入歌と言われても寡聞ながら、この曲のエヴァンスより早いジャズ・カヴァーを聴いたことがありません。ビリー・ホリデイが初録音した「Some Other Spring」'39やフランク・シナトラのずばり同名曲「Some Other Time」'44(シナトラ出演映画挿入歌)と紛らわしいタイトルのこの曲はアルバムの中で地味なスタンダード曲「恋の廻り道(Detour Ahead)」と呼応したムードがあり、なかなかの名曲ですが、アレンジャーのギル・エヴァンス(紛らわしいですが、マイルス・デイヴィスの親友でブレインだった白人アレンジャー・ピアニストです)がクロード・ソーンヒル楽団で手がけた異色の印象派ジャズ曲「Snowfall」'41にも似ていて、同曲がクール・ジャズやモード・ジャズの先駆となったのを思い出します。ビル・エヴァンスはクール・ジャズのカリスマ、レニー・トリスターノの系譜を継ぎ(実際トリスターノの指名でクラブ出演の代役ピアニストを勤めていました)、ギル・エヴァンスが音楽アドヴァイザーになっていたマイルス・デイヴィスのバンドに抜擢された人ですから(『ワルツ・フォー・デビー』でもマイルスのモード・ジャズ曲「Milestones」をカヴァーしています)、トリスターノ経由でもギル&マイルス経由でも「Some Other Time」と「Snowfall」を結ぶ線はあるわけです。ただしこの路線はビ・バップ~ハード・バップとは真っ向から対立するのでスタンダード化が難しいのですが、エヴァンス自身は大好きだったのでしょう。女性歌手(自宅の火事で亡くなったのが悔やまれます)、エヴァンスは男性歌手トニー・ベネット(最近ではヘヴィ・メタル曲のジャズ・カヴァー・アルバムやレディ・ガガとのデュエット・アルバムまで出しました)やスウェーデンの女性ジャズ歌手モニカ・ゼッテランドともアルバム1枚まるまる共演した際に必ず再演しているほどの愛奏曲だったようです。あまり聴かれていない曲「Snowfall」とともにご紹介しておきます。
◎Claude Thornhill & His Orchestra - Snowfall (Columbia, 1941) : https://youtu.be/iTOLwVB8d6U - 3:10
◎Monica Zetterlund & Bill Evans - Some Other Time (from the album "Waltz For Debby", Philips 08222 PL, Dec.1964) : https://youtu.be/ZVwc2A7nGd0 - 5:43
Bill Evans Trio with Monica Zetterlund - Some Other Time (from Swedish TV Broadcast, probably 1964) : https://youtu.be/qHHJvNuJtEk - 5:31
◎Tony Bennett & Bill Evans - Some Other Time (from the "The Tony Bennett Bill Evans Album", Fantasy F-9489, 1975) : https://youtu.be/8xVRVfqAV0s - 4:42

 ビル・エヴァンスのオリジナル名曲「Waltz For Debby」はピアノ・ヴァージョンか歌詞のつけられたヴォーカル・カヴァーが多いジャズマン・オリジナル・スタンダードになりましたが、元はと言えばエヴァンス27歳のデビュー・アルバムで1分50秒のソロ・ピアノ小品として発表された曲でした。20代のエヴァンスは地味な御用ピアニストとしてちまちまとセッション・ミュージシャンをしていた下積み時代が続き、脚光を浴びたのはマイルス・デイヴィスのバンドにレッド・ガーランドの後任者として初の白人ピアニストとして迎えられた1958年春からです。エヴァンスの加入はマイルスを黒人ジャズのリーダーと崇めていたジャズのマニアから黒人白人問わずバッシングされ、在籍は半年しか続かず黒人ピアニストのウィントン・ケリーに交代しました。エヴァンスはライヴでは実力の一端しか発揮できず在籍中にアルバム制作はなく「あのバンドは超人集団だった」と脱退後に洩らしています。メンバーはマイルスにアルトサックスがキャノンボール・アダレイ、テナーサックスがジョン・コルトレーン、ベースがポール・チェンバース、ドラムスがフィリー・ジョー・ジョーンズでした。最年長で大ヴェテランのガーランドですら着いて行けず辞めたので、白人のエヴァンスとは口もきいてくれないメンバーすらいたそうです。リーダーのマイルスには「実力で雇ったんだから気にするな」と言われ、フィリー・ジョーとは最晩年まで共演する友人になり、ソロ契約先のリヴァーサイドでもチェンバースとフィリー・ジョーとのトリオでよく組んで、アダレイとは一緒にアルバムを作っていますから口をきいてくれなかったのは誰かすぐにわかりますが、コルトレーンの伝記によるとエヴァンスが楽屋で東洋思想の本を読んでいてコルトレーンもちょうど同じ本を読んでいたので語りあったとありますからわかりません。ただしコルトレーンはこのマイルスのバンドのメンバー中唯一自分のアルバムでは黒人以外のジャズマンとは共演しなかった人でした。

 エヴァンスがオリジナル曲「ワルツ・フォー・デビー」をバンド編成で初めてレコーディングしたのは有名な本作よりもキャノンボール・アダレイとの共演アルバムが先になります。すでにエヴァンスはラファロとモティアンとのレギュラー・トリオで活動していましたが、アダレイとの録音ではベースとドラムスはエヴァンスを可愛がっていたジョン・ルイス(ピアノ)率いるMJQの名手パーシー・ヒースとコニー・ケイでした。アダレイはパーカーの急逝と入れ替わるようにデビューしたアルトサックスの麒麟児で、マイルスのバンドでも強烈にスウィングしてコルトレーンをたじろがせるほどでしたが、この共演アルバムでの「ワルツ・フォー・デビー」は艶やかなトーンはそのままに繊細で歌心にあふれた優しい演奏を聴かせてくれます。「大砲(Cannonball)」というニックネームにしてこの演奏です。本人も照れていたらしく、アルバム・タイトルで「わかるかなあ?(Know What I Mean ?)」ととぼけています。せっかくですからエヴァンス最初のソロ・ピアノ版、有名なライヴのトリオ演奏版、ヨーロッパ・ツアー時にモニカ・ゼッテランドと共演した前述のアルバムのヴォーカル版も上げておきましょう。
Cannonball Adderley with Bill Evans - Waltz For Debby (Bill Evans) (from the album "Know What I Mean ?", Riverside RLP9433, 1961) : https://youtu.be/dJqkN1w0fFg - 5:16
Bill Evans - Waltz For Debby (solo piano, from the album "New Jazz Conception", Riverside RLP12-223, 1956) : https://youtu.be/OCIBQTdFtiI - 1:18
◎Monica Zetterlund & Bill Evans - Waltz For Debby (from the album "Waltz For Debby", Philips 08222 PL, Dec.1964) : https://youtu.be/AOTDlBmJons - 2:50

 しかしアルバム『ワルツ・フォー・デビー』の隠れ名曲は「恋の廻り道(Detour Ahead)」でしょう。この曲のオリジナル・ヒットはウディ・ハーマン楽団で、ハーマン楽団はアメリカ東部の白人ビッグバンドでいち早くビ・バップを取り入れ、スタン・ゲッツズート・シムズ、ジミー・ジュフリー、サージ・チャロフ(爆音テナーのフリップ・フィリップス、アル・コーンもいました)をサックス・セクションに擁して育て上げ、夭逝の伝説的天才白人ビ・バップ・トランペット奏者ソニー・バーマンが在籍し、ディジー・ガレスピーのオリジナルのバップ・スタンダード曲「Woody'n You」がウディ・ハーマンに捧げられたことでも知られますが、そのハーマン楽団が専属歌手のマリアン・マッコール歌唱によるレコードでヒットさせた曲です。'40年代アメリカ東部の白人ビ・バップ・ジャズマンのほとんどがハーマン楽団出身で、黒人楽団のビリー・エクスタイン楽団(ガレスピーもパーカーもここ出身)、西海岸のスタン・ケントン楽団(白人、アート・ペッパー、ショーティー・ロジャース、名アレンジャーのピート・ルゴロらを輩出)、ライオネル・ハンプトン楽団(黒人、チャールズ・ミンガスやドド・マーマローザらを輩出)と並ぶ存在でした。日本のジャズ・リスナーはビ・バップ以降のスモール・コンボのジャズが好きか、吹奏楽部出身でビッグバンドが好き、またはクラシックに似ているという理由でギル・エヴァンスビル・エヴァンスが好きという層に分かれるのでどの見方からも'40年代ジャズは微妙なのですが、どうも世界的に事情は同じらしくこの曲をYou Tubeで試聴しようとしても肝心のハーマン楽団版がありません。この曲は比較的新しく'48年にオスカー・ピーターソン・トリオで知られるギタリストのハーブ・エリスが書いた曲で、エリスは親バップ派というより(ジャズ界はピーターソンを過小評価しているという反証から)セロニアス・モンクをこき下ろすなどあるまじき言動もあった人ですが(トリスターノのモンク嫌いも有名ですが、トリスターノ門弟のビル・エヴァンスはモンクをバド・パウエルと並ぶ最高のジャズ・ピアニストと賞賛しています)やはりエヴァンスがこれを採り上げたのはビリー・ホリデイのカヴァーに拠るのではないかと、ボーナス・トラックに「Porgy」が入って締めくくりになるCD版『ワルツ・フォー・デビー』を聴くと思えてきます。ライヴの選曲には当然ムードの統一があったはずで「Detour Ahead」(「恋の廻り道」は全然定着していない邦題です)のムードは「Some Other Time」に引き継がれ「Porgy」で一巡する。そんな具合に聴こえてきます。マイルスのアルバム『Milestones』'58がどう聴いてもアルバム・タイトル曲から始まるB面から聴かないと変なように、『ワルツ・フォー・デビー』もフェイドアウト演奏という変な終わり方の「Milestones」が最終曲なのが尻切れとんぼな感じがするように(そのせいかLP時代は先行発売されスコット・ラファロのオリジナル曲「Gloria's Step」で始まりやはりラファロ作の「Jade Vision」で終わる『Sunday at The Village Vanguard』の方が評価が高く、『ワルツ・フォー~』は姉妹作視されがちでしたが)CD版で「Porgy」が最終曲になったことで必殺のオープニング曲「My Foolish Heart」、アルバム・タイトル曲でエヴァンス自作の名曲「Waltz For Debby」に続く3曲目、と位置まで地味なこの曲がアルバム後半の流れに重要な橋渡しとなっているのもわかりやすくなり(最終曲が「Porgy」になったことでそうなり)アルバムの名作度を高めていると思います。ビリーの名唱の洗練されたジャズ感覚を、ピート・ルゴロがアレンジとバンド総指揮をしたポピュラー寄りの白人女性ジャズ歌手パティ・ペイジのヴァージョンと較べてみてください。また、ベーシストにエディ・ゴメスを迎えた'65年のビル・エヴァンスのライヴ映像も加えました。
Billie Holiday - Detour Ahead (rec.Aladdin '51, from the album "Billie's Blues", Blue Note CDP-7 48786-2, 1988) : https://youtu.be/_YWSMYDBncU - 3:02
◎Patti Page - Detour Ahead (from the album "East Side", EmArcy MG36116, 1957) : https://youtu.be/9x_PkR_X_0A - 3:36
Bill Evans Trio - Detour Ahead (Live in Belgium, 1965) : https://youtu.be/aOQSNR0FnOU - 5:06

 ただし本作のポピュラーな人気は認めるとしてもジャズとして聴かれているかは問題があるので、ジャズにはジャズ自体の基準があり、近代印象派クラシックとの類似で語られやすいことからもビル・エヴァンスは誤解されて愛聴されてきているとも言えます。もともとジャズとはマーチやワルツ、のちのファンクやロック同様リズム様式の名称です。当然ポピュラー音楽としてリズムの革新抜きには進展がありえないので、エヴァンスは夭逝の白人コルネット奏者ビックス・バイダーベック(1903-1931)の異色のソロ・ピアノ曲「In A Mist (Bixology)」1927からソーンヒル楽団の「Snowfall」やトリスターノに連なる、白人ジャズ側からのリズム解釈と刷新から聴くのが正当でしょう。ピアノという楽器にも誤解が生まれやすい原因がありますが、トリスターノがわかればパーカーやオーネット・コールマンも開けてくるようには(もっともトリスターノのリスナーはパーカーやオーネットのリスナーより少数ですが)エヴァンスが好きでもジャズ全般には興味が広がらず、実際はジャズとして聴いていないのにエヴァンスのどこがジャズか気づかないままジャズ以外の要素をジャズと思わせるリスナーを生みやすい点で、本作は罪作りな名盤でもあります。そういう意味でも、ご紹介するまでもない大名盤の本作をあえてご紹介したのはいわば仁義のようなものです。
Bix Beiderbecke - In A Mist (Columbia/Okeh, 1927) : https://youtu.be/uQSxaqbS_Q0 - 2:47