人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ゴング Gong - エンジェルス・エッグ Ange's Egg (Virgin, 1973)

ゴング - エンジェルス・エッグ (Virgin, 1973)

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ゴング Gong - エンジェルス・エッグ Ange's Egg (Virgin, 1973) Full Album: https://www.youtube.com/playlist?list=PL8a8cutYP7foifYeI5nQ-U6GvyXo-_Hm4
Recorded at the Manor Mobile, France, August 1973
Released by Virgin Records V 2007, December 7, 1973

(Side 1)

(Yin / Side of the Goddess)
A1. もうひとつの天国 Other Side of the Sky (Tim Blake, Daevid Allen) - 7:38
A2. 幻夢の誘い Sold to the Highest Buddha (Mike Howlett, Allen) - 3:10
A3. 雲の楼閣 Castle in the Clouds (Steve Hillage) - 1:13
A4. 欲望の詩 Prostitute Poem (Gilli Smyth, Hillage) - 6:05
A5. 愛をお前に Givin My Luv to You (Allen) - 0:42
A6. セレーヌ Selene (Allen) - 3:42

(Side 2)

(Yang / Side of the Fun Gods / The Masculung Side)
B1. フルーツ・サラダ Flute Salad (Didier Malherbe) - 2:46
B2. オイリー・ウェイ Oily Way (Allen, Malherbe) - 3:01
B3. 外なる神殿 Outer Temple (Blake, Hillage) - 1:09
B4. 内なる神殿 Inner Temple (Allen, Malherbe) - 3:21
B5. 浸透 Percolations (Pierre Moerlen) - 0:40
B6. どうやってヤルの? Love is How U Make It (Moerlen, Allen) - 3:25
B7. かつてない経験 I Niver Glid Before (Hillage) - 5:37
B8. ブルームティッドの考え Eat That Phone Book Coda (Malherbe) - 3:10
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◎TV Appearance ; Gong - かつてない経験 I Never Glid Before (Live,1973) : https://youtu.be/iiy5K81qvbg

[ Gong ]

Bloomdido Bad De Grass (Didier Malherbe) - ten/sop sax, floot, bi-focal vocal
Shakti Yoni (Gilli Smyth) - space whisper, loin cackle
T. Being esq. (Mike Howlett, spelled Howlitt on composer credits) - basso profundo
Sub. Capt. Hillage (Steve Hillage) - lewd guitar
Hi T. Moonweed (the favourite) (Tim Blake) - Cynthia "size a", lady voce
Pierre de Strasbourg (Pierre Moerlen, spelled Moerlin on composer credits) - bread & batteur drums, vibes, marimba
Mirielle de Strasbourg (Mireille Bauer) - glockenspiel
Dingo Virgin (Daevid Allen) - local vocals, aluminium croon, glissando guitar

(Original Virgin "Engel's Egg" Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Side 1 Label)

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 1938年1月13日オーストラリア生まれのイギリス人、デヴィッド・アレンさんは生涯現役で晩年まで精力的にライヴ活動・レコーディング活動していましたが、2015年3月13日に病没しました。享年満77歳2か月でした。アレンさんが1969年~1975年まで率いていたゴングはフランスをホームグラウンドにした多国籍バンドで、ゴングはアレンさん脱退後もしばらく残るメンバーで活動していましたが、1992年にはアレンさんが復帰したゴングのアルバム『Shapeshiffer』が発表され、『Zero To Infinity』2000、『Asid Motherhood』2004、『2032』2009、そして2004年11月発表の『I See You』2014が最終作となりました。ゴング脱退後のアレンさんはソロでも新バンドでも活発にライヴ活動とレコーディング活動を行い、毎年か隔年のヨーロッパ・ツアー(ex.ホークウィンドのニック・ターナーのバンド、スペース・リチュアルを前座にすることもありました)の他1999年にはゴング30周年記念ツアーで来日公演も行っています。来日公演でも三角帽子をかぶって登場し「ニホンノミナサン、ワタシハ、アホー!」と絶叫してライヴを始めたのは大きな話題となり、上記リンク先にバンド全員で降霊術を行ってから演奏に入る本作発表時のテレビ出演映像がありますが、アレンさんはそこにいるだけでも面白いという稀有なキャラクターのミュージシャンで、YouTubeにごろごろあるアレンさんのライヴ映像を観てもアレンさんを見ているだけで楽しめます。

 しかしアレンさんの最晩年は頸部癌の切除とリハビリで2014年前半はアレンさん抜きのゴングがライヴを続けており、11月に『I See You』が発売されると英仏でアレンさん復帰のツアーを行っていました。そのツアーの様子はすぐにYouTubeにもアップされたので、当時ブログでも「アレンさんは2015年に77歳になる」と往年と変わらない健在ぶりを記事にまとめましたが、その時調べたサイト上の資料では体調不良と闘病について触れているものはありませんでした。アレンさん自身のサイトで頸部癌から移転した肺腫瘍が悪化していること、余命3か月だが手術はしないことが発表されたのは2015年2月5日でした。まめにチェックしていなかったので、生前に発表があったのは4月発売の音楽誌の訃報欄で知りました。余命3か月どころか、1か月と1週間あまりの急逝だったわけになります。オーストラリアのメルボルンで死去。メルボルンはアレンさんの生地でもありましたから、故郷に帰って安らかに晩年を送ったと思いたいものです。1938年生まれとはローリング・ストーンズの3人(ミック、キース、チャーリー)の5歳上だと思うとなんだかひやひやしてきます。

 ゴングはアレンさん抜きでもアレンさんが認めればゴングで、さらにアレンさんの元夫人でゴング創設メンバーだったジリ・スマイスさんが立ち上げたマザー・ゴングもあり、いわばアレンさんを教祖としたファミリー的に存在していたバンドでした。そこで膨大なゴング・ファミリーのアルバムは何から聴いたらいいかお勧めするのも困るのですが、アレンさんのソロとアレンさん抜きのゴング(マザー・ゴング含む)、アレンさんがいても本来のゴングでないゴング(ニューヨーク・ゴングやゴングメゾン)はあまり面白いとは思えなくても、デヴィッド・アレンさんが率いていた時期の'70年代ゴングのアルバムは全部良いと言えるものです。中でもスタジオ・アルバムなら『カマンベール・エレクトリーク』1971と『エンジェルス・エッグ』1973が代表作として推薦できます。アレンさんが率いていた'70年代オリジナル・ゴングのスタジオ・アルバムは、
・1970 : Magick Brother (BYG Actuel,rec.1969)
・1971 : Camembert Electrique (BYG Actuel, rec.1971)
・1972 : Continental Circus (Phillips, Soundtracks, rec.1971)
・1973 : Flying Teapot (BYG Actuel, rec.1973)
・1973 : Angel's Egg (Virgin, rec.1973)
・1974 : You (Virgin, rec.1974)
・1995 : Camembert Eclectique (Gas Records, rec.1970)
 
 があり、1995年の『Camembert Eclectique』は『カマンベール・エレクトリーク』のデモ・セッションを発掘したもので、サイケなフリー・セッションだったデビュー作『マジック・ブラザー』とバンド・サウンドが固まる『カマンベール~』のミッシング・リンクというべきアルバムです。『カマンベール~』でのちの主要メンバーが揃いバンド形態を固めたゴングは、サントラ『コンチネンタル・サーカス』をはさんで"Radio Gnome Invisible Trilogy"(「不可視のラジオの聖霊三部作」)の『フライング・ティーポット』『エンジェルス・エッグ』『ユー』を制作し、アレンさんはメンバーたちにゴングの名義を譲って脱退します。この三部作はアレンさん率いるゴングの最高峰と言える名作ですが、コンセプトを意識しすぎた感のある『ティーポット』、メンバーが見せ場を奪い合ってインスト志向に傾いた『ユー』の間で、『エンジェルス・エッグ』がアレンさんの統率力もサウンドのバランスもよく取れた、アレンさん本来の天衣無縫で軽やかな良さが上手く出たアルバムと思えます。また本作からゴングのアルバムはイギリスのヴァージン・レコーズからの発売になったので、『エンジェルス・エッグ』はゴングの国際的デビュー作ともなったアルバムです。このアルバムは再発売のたびにジャケットの変更があり、3種類のジャケットで発売されているので、いずれもアレンさん直々のユーモラスでグロテスクなイラストを楽しめるのも人気です。

 アレンさん在籍時、または脱退後に発掘発売されたライヴ・アルバムは、
・ 1971 : Glastonbury Fayre (v.a, 3LP, Gong on Side D)
・1973 : Greasy Truckers Live at Dingwalls Dance Hall (v.a, 2LP, Gong on Side D)
・1977 : Gong est Mort, Vive Gong (Tapioca Records, rec May 1977)
・1977 : Gong Live Etc (Virgin, rec.1973-75)
・1990 : Live at Sheffield '74
・1990 : Live au Bataclan 1973
・1996 : The Peel Sessions 1971-1974

 以上が主なもので、1971年と1973年のロック・フェスティヴァル出演はどちらもイギリスでのライヴで、それぞれLPの片面ずつ、20分を越える演奏が収録されています。1977年にヴァージン・レコーズはバンドに無許可で1973年~1975年のライヴから選曲・編集した『ライヴETC』のリリースを発表し、怒ったアレンさんは一時的にゴングに復帰して1977年5月のライヴを収録したインディー・レーベルから発表したのが新作ライヴ『Gong est Mort, Vive Gong(ゴング死す、ゴング万歳)』でした。『ライヴETC』もライヴ版ベスト・オブ・ゴングとしては悪くないアルバムなので、バンド公認の新録盤『ゴング死す~』と優劣つけがたい作品です。それを言えば1990年同時発売の『英シェフィールド74』と『仏バタクラン73』も甲乙つけがたい絶好調の時期の発掘ライヴですし、1996年の『ピール・セッションズ(英BBC)』は放送用スタジオ・ライヴをまとめたアルバムで、前記リストにまとめた発掘ライヴ(『ゴング死す~』は新録音ですが)はどれも公式録音ですから音質の問題はなく、演奏内容もやっぱりゴングみたいなタイプのバンドはライヴがいいなあ、とスタジオ盤にしばらく戻れなくなる充実した演奏を誇ります。アレンさん時代のフランスのテレビ出演をまとめた1時間ほどのDVDも出ており、そちらも正規アルバム以上にインパクトの強い動く怪人集団ゴングが楽しめます。

 ゴングには未発表曲満載のコンピレーションなどもありますが、そちらはまあ未発表相応の出来で、未発表曲なりの断片的なものです。アレンさん脱退の理由は、メンバーが上手くなりすぎてウェザー・リポートの真似みたいなプレイをし始めた、というもので、たしかにアレンさん脱退後のゴングは『ガズース』や『エスプレッソ』など、三部作とは別バンドのようなシリアスなジャズ・ロック=フュージョン・バンドになりました。もっともアレンさんによると、ウェザー・リポートはゴングを真似たバンドということになるらしく、テクニシャン集団のジャズ・ロック=フュージョン化したゴングも優れたアルバムと高い人気を誇っていました。ゴング脱退後のアレンさんはアメリカに渡り、ビル・ラズウェルらとニューヨーク・ゴングを組んで1枚で解散し、アレンさんの抜けたニューヨーク・ゴングはマテリアルと解明してニューヨークのフリー系ジャズ・ファンクを先導するバンドになります。ソフト・マシーンももともとアレンさんがリーダーで始めたのに、レコード・デビュー前のツアーからイギリスに帰国しようとしてアレンだけが入国許可が下りず、アレンさん以外のメンバーでデビューしたバンドでした。日本のミュージシャンではかまやつひろし氏や加藤和彦氏、山口富士夫氏(いずれも鬼籍に入りました)がアレンさんに近いタイプですが、アレンさんの音楽はポピュラー音楽と言えるかどうか疑問がありますし、そもそもミュージシャンというよりも存在自体がポップアートみたいな人でした。その点では、まだ逝去から5年の現在、亡くなってさらに存在感が高まるか、急激に忘れられていくか際どい人でもあります。ゴングのユニークなフリー・ロックはフランスのロックでもゴング系バンドの流派を生んだもので、本作『エンジェルス・エッグ』の奇妙奇天烈な音楽性は今なお初めて聴くリスナーには拒絶反応すら起こさせるのではないかと思われるほど斬新に聴こえます。ゴングならではの世界をお楽しみください。

(旧稿を改題・手直ししました)