人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

エリック・ドルフィー・イン・ヨーロッパ・Vol. 2&3 Eric Dolphy in Europe Vol.2&3 (Prestige, 1965)

エリック・ドルフィー・イン・ヨーロッパ・Vol. 2&3 (Prestige, 1965)

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エリック・ドルフィー・イン・ヨーロッパ・Vol. 2 Eric Dolphy in Europe Vol.2 (Prestige, 1965) Full Album
Recorded live at Lecture Hall of Students' Association (Studenterforeningens Foredragssal) Copenhagen, Denmark, September 6 (A1), 8 (A2, B1, B2), 1961.
Released by Prestige Records PR7350, 1965

(Side A)

A1. Don't Blame Me (Fields, McHugh) : https://youtu.be/MHgu-v5_0GQ - 11:30
A2. The Way You Look Tonight (Fields, Kern) : https://youtu.be/yaExbwsc2qY - 9:35

(Side B)

B1. Miss Ann (aka. Les) (Eric Dolphy) : https://youtu.be/mv2QUzMvys0 - 5:30
B2. Laura (Mercer, Raskin) : https://youtu.be/LfNIFsGGD_I - 13:40

[ Personnel ]

Eric Dolphy - Flute (A1), Alto Saxophone (A2, B1, B2)
Bent Axen - Piano
Erik Moseholm - Bass
Jorn Elniff - Drums
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エリック・ドルフィー・イン・ヨーロッパ・Vol. 3 Eric Dolphy in Europe Vol.3 (Prestige, 1965)
Recorded live at Lecture Hall of Students' Association (Studenterforeningens Foredragssal) Copenhagen, Denmark, September 6 (A2), 8 (A1, B1), 1961.
Released by Prestige Records PR7366, 1965

(Side A)

1. Woody'n' You (Dizzy Gilespie) : https://youtu.be/9SU43_NU2kI - 10:20
2. When Lights Are Low (Carter, Williams) : https://youtu.be/bYwDiz5kKpU - 12:10

(Side B)

1.In the Blues tk.1,tk.2,tk.3 (Eric Dolphy) : https://youtu.be/Jt4evmX704s - 16:48

[ Personnel ]

Eric Dolphy - Alto Saxophone(A1,B1), Bass Clarinet(A2)
Bent Axen - Piano
Erik Moseholm - Bass
Jorn Elniff - Drums

 エリック・ドルフィーのプレスティッジからの没後発表ライヴ盤『イン・ヨーロッパ』三部作収録曲は、マスター・テープのマトリックス番号順では以下のようになります。同一曲の別テイクが連続していることから、曲ごとでは演奏順ですが別テイクはOKテイクの枝番になるように整理されたものと思われます。

[ Eric Dolphy Quartet ]

Eric Dolphy (alto saxophone, bass clarinet, flute) Bent Axen (piano) Erik Moseholm (bass) Jorn Elniff (drums)
"Berlingske Has", Copenhagen, Denmark, September 6, 1961
01. Don't Blame Me Prestige PR 7350
02. Don't Blame Me (take 2) Prestige PR 7382
03. When Lights Are Low Prestige PR 7366
04. Miss Ann (take 1) Debut (D) unissued
05. Miss Ann (take 2) Debut (D) unissued
Eric Dolphy (flute) Chuck Israels (bass)
"Studenterforeningen", Copenhagen, Denmark, September 8, 1961
06. Hi-Fly Debut (D) DEB 136; Prestige PRLP 7304
Eric Dolphy (alto saxophone, bass clarinet, flute) Bent Axen (piano) Erik Moseholm (bass) Jorn Elniff (drums)
07. Glad To Be Unhappy Prestige PRLP 7304
08. God Bless The Child Debut (D) DEB 136 ; Prestige PRLP 7304
09. Oleo (D) DEB 136; Prestige PRLP 7304
10. The Way You Look Tonight Debut (D) DEB 136; Prestige PR 7350
11. Les (Miss Ann) Prestige PR 7350
12. Laura PR 7350
13. Woody'n You Prestige PR 7366
14. In The Blues (take 1) PR 7366
15. In The Blues (take 2) PR 7366
16. In The Blues (take 3) (I Don't Know Why) Debut (D) DEB 136; Prestige PR 7366
*Debut (Denmark) DEB 136 : Eric Dolphy In Europe
*Prestige PRLP 7304 : Eric Dolphy In Europe, Vol.1
*Prestige PR 7350 : Eric Dolphy In Europe, Vol.2
*Prestige PR 7366 : Eric Dolphy In Europe, Vol. 3
*Prestige PR 7382 : Eric Dolphy - Here And There

 こうして並べてみるとアルバム3枚半ほどヴォリュームがありながら12曲16テイクしかなく、実際は9月6日に3曲5テイク、8日に9曲11テイクが収録され、うち1曲2テイク(「Miss Ann」)は現在にいたるまでアルバム未収録に終わっています。また、プレスティッジからの『イン・ヨーロッパ』シリーズは生前プレスティッジではお蔵入りにされてきましたが、デンマークのデビュー・レーベル(チャールズ・ミンガスマックス・ローチ主宰のレーベルとは同名ですが無関係です)から1枚もののアルバムで独自編集の『Eric Dolphy In Europe』がドルフィー生前の1962年に録音された本国デンマークでのみ発売されていました。これがユニークな選曲で、12曲から1枚に絞るなら最良の選曲と思えるものです。
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[Debut (Denmark) DEB 136 : Eric Dolphy In Europe] 1962
A1. I Don't Know Why (In the Blues tk.3) (Eric Dolphy)
A2. God Bless The Child (Billie Holiday)
A3. The Way You Look Tonight (Jerome Kern)
B1. Oleo (Sonny Rollins)
B2. Hi-Fly (Randy Weston)

 A2、B1、B2がプレスティッジからの『イン・ヨーロッパ・Vol. 1』と重なっており、この3曲にビリー・ホリデイゆかりの「Glad To Be Unhappy」を加えれば『イン・ヨーロッパ・Vol. 1』になります。破棄されたらしい「Miss Ann」2テイクからも1テイクがデビュー盤『イン・ヨーロッパ』に収録予定だったということは、原盤権は元はデンマーク・デビュー社にあり、プレスティッジ社がドルフィー没後に原盤をデビュー社から買い取ったとも考えられます(『Vol. 2』に誤って「Miss Ann」として収録されているのは、実際は「Les」です)。少なくとも1961年9月6日・8日の大学コンサートのライヴ盤はデビュー盤の1枚ものがオリジナルと言うべきで、プレスティッジからのVol. 1~3、『ヒア・アンド・ゼア』はそのコンプリート版(厳密には散佚曲がありますが)ということになります。すると、純粋にプレスティッジがドルフィーのアルバムを制作したのは1960年4月1日の『アウトワード・バウンド』セッションから60年7月16日の『アット・ザ・ファイブ・スポット』セッションまでということになり、いよいよドルフィーの不遇が際立ってきます。

 ドルフィーは1961年8月末から9月初頭まで単身でヨーロッパ巡業し、その間に現地調達メンバーでラジオ放送用にライヴ収録される機会がありましたが、'70年代以降に発掘されたこの時のライヴ録音では8月30日録音の『ベルリン・コンサート』(エンヤ・レーベル)が渡欧中のアメリカ人メンバーによるクインテット(トランペット入り)・セッションなのにまるでバンドの息が合わずあまり芳しくない出来です。9月4日のスウェーデンの『ウプサラ・コンサート』(セレーン・レーベル)はLP2枚組相当のワンホーンで、バックのトリオは現地ジャズマンですが、録音は今ひとつながら選曲と演奏は『イン・ヨーロッパ』三部作に次ぐ快調なライヴです。同日9月4日か前日9月3日録音らしい『ストックホルム・セッションズ』(エンヤ・レーベル)も現地ジャズマンとのワンホーン作で録音はスウェーデンより良好ですが、演奏は『ウプサラ・コンサート』に軍配が上がります。プレスティッジは他の音源までリサーチした上でデンマークの大学コンサートを選んだとは思えず、1962年のデンマーク・デビューからの既発売アルバム『Eric Dolphy In Europe』に目をつけてデンマーク録音を買い取ったと推定されますが(または録音年度的に1961年度はプレスティッジとドルフィーとの契約期間中の録音なので、既発表アルバムのアメリカでの発売権を主張できたのかもしれません)、'70年代になってからの発掘ライヴより録音・内容ともに格段に優れたものだったのはレーベルとリスナーにとっては僥倖で、このデンマークの大学コンサートの全貌が生前未発表に終わったのはやはりドルフィーについてまわった不運でした。

 これまでで『ヒア・アンド・ゼア』と『イン・ヨーロッパVol. 1』はご紹介したので、『イン・ヨーロッパVol. 2』と『イン・ヨーロッパVol. 3』の全曲をまとめてご紹介します。『Vol. 3』のB面を占める即興ブルース3テイクのうちテイク3はデンマーク・デビュー盤『Eric Dolphy In Europe』に「I Don't Know Why」として既発表だったテイクです。『イン・ヨーロッパ』三部作ではアルバムとしての統一感は『Vol. 1』がずば抜けていて、A面フルート曲、B面バスクラリネット曲で統一されていました。『Vol. 1』に欠けていたのはドルフィーのメイン楽器のアルトサックスでした。『Vol. 2』はA1「Don't Blame Me」だけフルート、あとはアルトサックスですから『Vol.3』のアルトサックス曲のA1「Woody'n' You」と入れ替えて『Vol. 2』は全曲アルトサックス、『Vol. 3』はフルート、バスクラリネット、アルトサックスが1曲ずつとショーケース的なアルバムにすればなお良かったかもしれませんが、この三部作は現状のアルバム・フォームだけでも十分聴き応えのある選曲になっています。Vol. 2とVol. 3の選曲はビリー・ホリデイチャーリー・パーカーゆかりのスタンダード、、ディジー・ガレスピーの「Woody'n' You」、ベニー・カーターの「When Lights Are Low」に加えてドルフィーの自作といったところですが、同年7月の『アット・ザ・ファイブ・スポット』セッションのライヴのように大変なオリジナル曲は避けています。あれはマル・ウォルドロン、リチャード・デイヴィス、エド・ブラックウェルら感覚的に変拍子のフリー・フォームがこなせるリズム・セクションとのレギュラー・バンドでないと不可能なことでしたから、ヨーロッパ巡業の現地調達メンバーとはフォー・ビートで解釈できる以上の選曲を無理に望まなかった限界はあるでしょう。

 その意味でも、ドルフィーが当時の平均的なフォー・ビートのビ・バップ・フォーマットでどれだけのプレイをしてのけたかを、アメリカ人メンバーによる本国でのスタジオ盤やライヴ盤よりじっくり味わえるのが『イン・ヨーロッパ』三部作の聴きどころになっています。当時すでにオーネット・コールマンは自作曲しか演奏しませんでしたし、オーネットに触発されたソニー・ロリンズジョン・コルトレーンも独自のコンセプトによるレギュラー・バンドとしか演奏しなくなっていました。ドルフィーはどんな現地採用ジャズマンとでも折り合いをつけながら巡業していました。だから良くも悪しくも器用貧乏のレッテルを貼られつづけることになってしまったとも言えるのですが、『イン・ヨーロッパ』三部作で聴けるフォー・ビートとビ・バップ・フォーマットのドルフィーの演奏も極上のもので、まだ20代前半の若手ジャズマンばかりだったらしい現地調達メンバーもおそらく潜在能力以上の熱演でドルフィーに応えています。ドルフィーのライヴ盤の傑作は『アット・ザ・ファイブ・スポット・Vol. 1』か遺作となったオランダのラジオ放送用ライヴ『ラスト・デイト』でしょうが、『イン・ヨーロッパ』三部作はパーカーの発掘ライヴの水準作と同様、大リーガーの草野球のようなリラックスした楽しさがあります。Vol. 2のフルート曲「Don't Blame Me」やVol. 3の「When Lights Are Low」のバスクラリネット演奏、B面の17分に近い即興ブルース3連発のアルトサックス演奏は名演ばかりのVol. 1に較べても遜色なく、圧倒的な白熱の『ファイブ・スポット』、絶唱の『ラスト・デイト』を聴くには少々しんどい時に『イン・ヨーロッパ』があるのは、主にスタンダード曲集であることからも、ちょっとオアシスのように沁みてくる三部作でもあります。

(旧稿を改題・手直ししました)