人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アモン・デュール Amon Duul - エクスペリメンテ Experimente (Time Wind, 1984)

アモン・デュール - エクスペリメンテ (Time Wind, 1984)

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アモン・デュール Amon Duul - エクスペリメンテ Experimente (Time Wind, 1984) Full Album : https://youtu.be/5hlRhg401IA
Recorded in Munich, West Germany, Late 1968
Released by Time Wind Collection DB/50142, 1984

(Seite 1)

A1. Special Track Experience No.1 - 4:28
A2. Special Track Experience No.2 - 0:29
A3. Special Track Experience No.3 - 5:20
A4. Special Track Experience No.4 - 2:25
A5. Special Track Experience No.5 - 2:39
A6. Special Track Experience No.6 - 1:09

(Seite 2)

B1. Special Track Experience No.7 - 5:46
B2. Special Track Experience No.8 - 2:08
B3. Special Track Experience No.9 - 3:43
B4. Special Track Experience No.10 - 1:39
B5. Special Track Experience No.11 - 1:52
B6. Special Track Experience No.12 - 1:21

(Seite 3)

C1. Special Track Experience No.13 - 3:46
C2. Special Track Experience No.14 - 2:45
C3. Special Track Experience No.15 - 1:27
C4. Special Track Experience No.16 - 5:08
C5. Special Track Experience No.17 - 0:48
C6. Special Track Experience No.18 - 2:04

(Seite 4)

D1. Special Track Experience No.19 - 6:27
D2. Special Track Experience No.20 - 1:05
D3. Special Track Experience No.21 - 2:44
D4. Special Track Experience No.22 - 3:07
D5. Special Track Experience No.23 - 2:31
D6. Special Track Experience No.24 - 1:07

[ Amon Duul ]

Peter Leopold, Ulrich Leopold, Rainer Bauer, Ella Bauer, Uschi Obermaier, Helge Filanda, Angelica Filanda

(Original Time Wind "Experimente" LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Seite 1 Label)

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 アモン・デュールがバンドでも何でもないミュンヘンのヒッピー集団の音楽活動だったのはこれまでのアルバムのご紹介で解説しましたが、分家のアモン・デュールIIは本家に較べればミュージシャンで、1981年の解散までに約15枚のアルバムを出しています。ですがヒッピー体質はこちらも同じで人事異動がやたらと多く、デュールIIが一旦解散して2年後の1983年以降にはデュールIIからさらに分家したメンバーがイギリスのインディー・レーベルからアモン・デュールを名乗って新作を発表するようになり混乱を招きました。そして1984年にイタリアのインディー・レーベルからジャズからシャンソン、ディスコまで何でもありの廉価盤LP2枚組ベスト・アルバムのシリーズにアモン・デュール名義のアルバムがなぜか登場、『エクスペリメンテ』というそのアルバムは曲目はすべて「スペシャル・トラック・エクスペリエンス」で、No.1~No.24と番号がふられているだけ、しかもベスト・アルバムでもなければアモン・デュールIIでもその分家の'80年代アモン・デュール(イギリスで活動していたため現在では「アモン・デュールU.K.」と呼ばれて区別されています)でもなく、『崩壊』や『ディザスター』ともかぶらない、正真正銘の未発表のアモン・デュール音源でした。1枚物ながら11曲それぞれに編集加工してあった『崩壊』やLP2枚組11曲だった『ディザスター』よりも、LP2枚組24曲の『エクスペリメンテ』はさらに断片性が高い未発表トラック集です。曲名すらつけられないのもこれでは仕方なく、本来の意味では音楽作品でもないでしょう。メンバー・クレジット始めデータ類も一切記載がありません。本作は非音楽集団アモン・デュールの本当に最後の搾り滓というところに価値があるようなアルバムです。それによく聴けば(雑に聴いても)これほどまでにロックから逸脱したロックはポスト・パンク時代までは正当に理解されませんでした。本作はこれでも一応、構成に工夫した発掘編集盤なのがNo.24でわかります。これはアモン・デュールIIの『地獄』A1「Soap Shop Rock」組曲のパート1「Burning Sisters」の原型でしょう。本作は既発売のアモン・デュールの4作、アモン・デュールとアモン・デュールIIのメンバーが重複していた時期のアモン・デュールIIの初期名盤2作『神の鞭』『地獄』を聴き倒したリスナーでないと真価のつかみ難いアルバムではありますが、逆に一旦わかるとリスナーを地獄へ道連れにする恐ろしいアルバムでもあります。本作に限らずアモン・デュールの欧米評価は低く、アモン・デュールIIのアルバムが全盛期と目せる初期7作すべてが総合音楽サイトallmusic.com、ユーロ・ロック専門サイトprogarchives.comともに星四つ~五つの高評価を得ているのに対して、オリジナル・アモン・デュールの方は『サイケデリックアンダーグラウンド』星二つ半、『崩壊』星二つ、『楽園へ向かうデュール』星三つ、『ディザスター』星一つ半、『エクスペリメンテ』星二つ半といった低評価が目立ちます。日本とフランスではオリジナル・デュールとデュールIIの評価は拮抗し、かえってオリジナル・デュールの方が高い再評価を受けているのは例外的で、全世界的にはオリジナル・デュールはデュールII初期の習作期のサブ・プロジェクトと見なされているようです。以下、progarchives.comの本作へのレビューを引いておきましょう。

 本作は、オリジナルのアモン・デュールへ向けられた軽蔑を、ほぼ裏書きするアルバムです。 審判がいまだに(信じがたいことに)下っていないために、一応「ほぼ」としましたが、反論については以下で検討しましょう。その前に、検察からの厳しい質問を提示しておきます。
「これは本当に、10年前にすでに3つのアルバムを生み出した、同一の原始的ギターとパーカッションの乱交セッションのアウトテイクからの更なる未発表音源なのでしょうか? CDには解説や録音データなどの情報もまったくついていません。そのためよく知られ、高く評価されているアモン・デュールの知名度を利用して、遅れて発掘された違法発売が疑われるアルバムです」。
 他のアモン・デュールのアルバム(適切なアルバム・タイトルの『崩壊』と『ディザスター(災厄)』、また『サイケデリックアンダーグラウンド』の素晴らしい焼夷爆撃など)の苦痛に耐えたリスナーには、本作は新たな体験を追加するものではありません。そして、もしリスナーがオリジナル・デュールの新石器時代サウンドを聴いたことがなければ、本作は優先度では最下位になるでしょう。このアルバムはまったくタイトルのない2ダースの断片と演奏ミスを集めており、そのほとんどは1分間か2分間で、ギタリスト1人、ベーシスト1人、アマチュア・ドラマーの小軍隊がせいいっぱいの演奏をしています。にもかかわらず、これが天空のバケツからこそぎ落とすように無愛想なサウンドの滓を振りまく間でさえ、単純に悪いアルバムと断じることはできません。収録された断片は適当に時間配分されており、収録時間67分の間に24の断片があり、麻酔なしの抜歯が痛いのと同程度の真実性があります。ただしオリジナル・デュールは、音楽グループというよりも共同体の部族でした。そしてサウンドもそれを反映して、火を発見する前の穴居人のパーティー音楽に近い純粋さを持っています。多くのリスナーがアモン・デュールを酷評する急進的な単調さも、美的文脈や比較からこの音楽を度外視することで、不当な褒貶を与えてしまいます。それはリスナーが好むも嫌うも関係なく、言い訳や謝罪も無用にこの音楽の存在意義となります。それこそが真の芸術的表現の特質です。この音楽に長く耐え抜いたリスナーこそ、ようやくオリジナル・アモン・デュールの真価を知ることができます。一聴して星一つしか与えられないような本作にも、せめて慎重に星二つは与えてしかるべきでしょう。これは良くも悪くも熱心なファンのためのアルバムです。そしてそうしたリスナーも、きっとどこかに存在するのです。
(Reviewed by Neuman, from progarchives.com)