人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アモン・デュールII Amon Duul II - ロック共同体~野鼠の踊り Tanz Der Lemminge (Liberty, 1971)

アモン・デュールII - ロック共同体~野鼠の踊り (Liberty, 1971)

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アモン・デュールII Amon Duul II - ロック共同体~野鼠の踊り Tanz Der Lemminge (Liberty, 1971) Full Album : https://youtu.be/ZzkzlrS-ks4
Recorded in Munich, West Germany, 1970-1971
Released by Liberty Records LBS 83 473 / 74 X, 1971
(Side 1) 紳士による激動の70年代のためのマーチ Syntelman's March Of The Roaring Seventies - 15:51
A1. ガラスの園で In The Glassgarden (Karrer) - 1:39
A2. マスクを取れ Pull Down Your Mask (Karrer/Rogner) - 4:39
A3. 沈黙に祈る者 Prayer To The Silence (Karrer) - 1:04
A4. 電話コンプレックス Telephonecomplex (Karrer) - 8:26
(Side 2) 落ち着かない天窓・トランジスター・チャイルド Restless Skylight-Transistor-Child - 19:33
B1. 不時着 Landing In A Ditch (Weinzierl) - 1:12
B2. 歯磨き粉 Dehypnotized Toothpaste (Weinzierl) - 0:52
B3. トランシルヴァニアの脳外科手術の短期滞在 A Short Stop at the Transylvanian Brain-Surgery (Weinzierl/Rogner/Meid) - 5:00
B4-1. 組曲:ここから君の耳までの競争パート1 Race From Here To Your Ears Part I / 小さな竜巻 Little Tornadoes (Weinzierl/Rogner) - 2:08
B4-2. 組曲:ここから君の耳までの競争パート2 Race From Here To Your Ears Part II / オーバーヒートしたティアラ Overheated Tiara (Weinzierl)- 1:46
B4-3. 組曲:ここから君の耳までの競争パート3 Race From Here To Your Ears Part III / フライ級五人衆 The Flyweighted Five (Weinzierl) - 1:26
B5. 雲に乗って Riding On A Cloud (Weinzierl) - 2:33
B6. 麻痺した極楽 Paralized Paradise (Weinzierl) - 3:07
B7. H・G・ウエルズの飛行 H.G. Well's Take-Off (Weinzierl) - 1:26
(Side 3) チャムシン・サウンドトラック Chamsin Soundtrack - 18:05
C1. マリリン・モンロー・メモリアル・チャーチ The Marilyn Monroe-Memorial-Church (Improvisation) (Karrer/Weinzierl/Meid/Rogner) - 18:05
(Side 4) チャムシン・サウンドトラック Chamsin Soundtrack - 14.59
D1. チューインガムの電報 Chewinggum Telegram (Karrer/Weinzierl/Meid/Rogner) - 2:44
D2. 闇夜の過失 Stumbling Over Melted Moonlight (Karrer/Weinzierl/Meid/Rogner) - 4:39
D3. 毒物的な囁き Toxicological Whispering (Karrer/Weinzierl/Meid/Rogner) - 7:50

[ Amon Duul II ]

Renate Knaup-Krotenschwanz - vocals (B5)
Chris Karrer - guitars, vocals (A2, A4), violin
John Weinzierl - guitars, vocals (B6), piano
Falk Rogner - organ, electronics, art work
Lothar Meid - bass guitars, vocals (B3, B5)
Peter Leopold - drums, percussion, piano
with
Jimmy Jackson - organ, choir-organ, piano
Al Gromer - sitar
Rolf Zacher - vocals (B7)
Henriette Kroetenschwanz - vocals (B5)

(Original Liberty "Tanz Der Lemminge" LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Side 1 Label)
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Amon Duu II

Tanz der Lemminge

★★★★1/2

AllMusic Review by Ned Raggett
 1970年代前半には少なからず2枚組LPのアート・ロック・アルバムがあり今や時代遅れになっているが、このアルバムはそうではない。またアモン・デュールIIのようなバンドも多くはない。このバンドの古典的アルバムのうちどれが最高傑作かは意見が分かれるが、優れた音楽性とユーモアを兼ね備えた野心作という点でこのサード・アルバムは今なおその最有力候補となっている。音楽的には穏やかでアコースティックな要素、またはソフトなエレクトリック要素によってアレンジの拡張が見られる。『地獄!』の脳を溶ろけかすようなギターは『~踊り』ではそれほど目立たない。長尺の曲がさまざまな楽章に分かれているが、「歯磨き粉」や「オーバーヒートしたティアラ」のようなタイトルにポーカーフェイスのユーモア感覚が表されている。必ずしも風変わりな音楽ばかりが続くのではないが、グループ自身がユーモア感覚を自覚していることが上手く作用している。アルバムのうち3曲はそれぞれオリジナルLPではレコードの片面を占めており、いずれも非常に素晴らしい。「紳士による激動の70年代のためのマーチ」はさまざまな音響パーツの交響が機能しており、民族的楽想からより抽象的な楽想に展開し、遊び心にあふれる古典的な空間配置を経てから短いジャムで締めくくられる。「落ち着かない天窓・トランジスター・チャイルド」はより細分化され、攻撃的かつ積極的に奇妙な手法と微妙な手法を代わるがわるくり出す。そのうちのパートではギター、シンセサイザー、即興合唱団のアレンジによってマイトとクナウプが歌い、特に素晴らしく、非常にトリップ感に富んでいる。「チャムシン・サウンドトラック」は楽曲の焦点を失うことなく、さまざまな楽器が自由にミキシングされて出入りし、余裕を持って謎めいた感触と脅威の感覚を多彩に行き交う。3曲の比較的短い曲がアルバムを締めくくり、それもクライマックスを急速に盛り上げる効果を上げている。

Tanz der Lemminge

8.8/10

Pitchfork Media Reviewed by Dominique Leone
 アモン・デュールIIは、1回の原始的ジャムセッションのレコーディングから3作のアルバムを制作したビート族のグループ、アモン・デュールとの共同体を離れて独立したバンドだった。デュールIIはそのような狂気の沙汰だった状況から自分たちの方向を決め、紛らわしい名称(または名義争い)によって活動を始めるのに頓着しなかった。ギタリストのクリス・カーレルは、アモン・デュール集団から7人の最高のミュージシャンを連れてデュールIIを始めた。それは西ドイツのロック界において、ファウスト(実際には良い比較ではないが)、カン(デュールより冷めていたが)、ノイ!と並ぶ存在となった(フランク・シナトラとも並ぶ、とも言えるかもしれないが)。しかし、もしアモン・デュールIIが典型的な「クラウトロック」だったとしたら、
しかし、もしバンドが典型的な「クラトロック」だったとしたら、デュールIIは(例えばイエスと較べて)悪意に満ちたプログレッシヴ・ロックに近く、ヘヴィなサイケデリック指向に傾いていた。
 アモン・デュールIIはほとんどの西ドイツのバンドにあっても徹底して暗く、歌(より正しくは組曲)はしばしば原始的なゴシック的主題をめぐっていた。宇宙人、葬儀、異邦人の儀式、それらをデュールIIはすべて行った。もちろん音楽に真の魅了がなければ、そうしたことは取るに足りない。私が最初にアモン・デュールIIを聴いたのは、友人からボアダムスの1998年のアルバム『スーパー・アー』をデュールIIの1970年作品『地獄!』に比較してくれたからだった。これは便利な参考になったが、ドイツのバンドははるかに手ごわいものだった。強迫的なリズム、しばしばアウトする攻撃的ギター、極端に過剰なエフェクト処理、さらに本作で聴けるH・G・ウエルズと歯磨き粉に関する珍妙な歌詞は、すべてこのバンドの初期作品の特徴となってリスナーに襲いかかる。
 1971年の『野鼠の踊り』はデュールIIのサード・アルバムであり、宇宙的にオーヴァードライヴするメタルからやや整理された作風に向かったが、それでもヒットチャート向けの音楽からはほど遠かった。この時点でオリジナル・メンバー(と数人のゲスト)から残っていたのは、カーレル、ヤン・ヴェイツィエル(ギター)、ローター・マイト(ベース)、ファルク・ログナー(オルガン)、およびペーター・レオポルド(ドラムス)だけだったが、バンドの勢いは止まることがなかった。本作は前作に続いて2枚組LPでリリースされた。サウンドはかつてのジェスロ・タルを思わせるようなもので(フルートは入らないが)、奇妙な曲想が一つや二つどころか三つある壮大な長さのゴシック・プログレッシヴ曲が聴けて、演奏を盛り上げるために即興パートが挟まるのが判別できる。記録のためにハウスと比較してみよう。
 今流行っている曲から。
 マッシヴ・アタックの「Mezzanine」を5分間傾聴。
 ほぼ16分におよぶ「紳士による激動の70年代のためのマーチ」は叙事詩的本作の中では短い方に入る。本作の直後にリリースされたカンの『タゴ・マゴ』とは異なり、アモン・デュールIIの大作曲は断片的作曲部分と即興演奏の編集からではなく、一般的に前もってアレンジされ通して演奏された楽曲となっている。「紳士による激動の70年代のためのマーチ」は鳴り響くチャイムと遠くから響くオルガンの音で不吉に始まるが、執拗なベースとドラムスのグルーヴが次第に沸騰し、カーレルのアコースティック・ギター(本作ではそれが重要な要素となっており、これまでのアルバムよりも和らいだトーンで奏でられる)がかぶさり、さらに少年合唱団のようなメロトロンがSF的な雰囲気をもたらす。
 ヴォーカルが「長い前置きのあとで、ようやく物語は始まる」と歌い、それからアコースティック・ギターが次のセクションを奏で始める。そしてそれで別の軽いアコースティックギターの合奏は次のセクションに持ち込みます。 ヴォーカル曲ではデイヴィッド・ボウイの『スペース・オディティー』時代の影響を受けたような作風が聴かれ、ボウイをさらに風変わりにしたようなのようなものであればその可能性は十分あり得る。だとすれば本作はアモン・デュールのアルバム中でも暖かい感触がある。
 次の「落ち着かない天窓・トランジスター・チャイルド」は本作に盛りこまれた100のリフの一つで始まる。このアルバムが前作とは大きな違いがあるとすれば、メジャーリーグ的な主流のハード・ロック・リフが顕著に増加していることだろう。一つのリフがまったく違う別の古典的なリフにつながり、さらに別のリフに連続していく。そして最後のリフは一段とヘヴィになり、素晴らしいシタールサウンドがそれにミックスされる。アモン・デュールIIが他のクラウトロックのバンドと異なるのは、その容赦ないアレンジの折衷主義と多様性だろう。ファウストでさえ本作のアモン・デュールほど一つの楽曲に既成のリフの導入を混入することはできなかった。ロックするイントロに続いて幽霊的なアンビエントサウンドから、ミュージック・コンクレートに壊れたカルーセルが重なり、リフに継ぐリフに領域が移り、そしてさらに展開する。それはジミ・ヘンドリックス的ギターとビッグ・ビートを使ったファンカデリックの『マゴット・ブレイン』のようで、その上にクレイジーなジプシー・ヴァイオリンがすすり泣く。これでおわかりだろうか?
 アルバム最後の大作は「チャムシン・サウンドトラック」の「マリリン・モンロー・メモリアル・チャーチ」で、おそらく本作の中心をなしている。そこにいたるまでの楽曲がどれほど長大だとしても必ずしも精神的拡張をもたらすとは限らず(リスナーがアモン・デュールIIに求めるのはそれだろう)、この楽曲はスピード感によってそれを補っている。くぐもったような、名状し難いオルガンのフィードバックのムードから始まり、古代風のヴァイオリンが悲しみを呼び、そこに未来的なショック・ノイズが発生する。散発的なパーカッションが入るが、この演奏は確かにグルーヴ感を目指したものではない。ロマンティックなオルガンが先にヴァイオリンの暗示したムードをくり返し、リスナーはスペース・ロックの次の宇宙船に連れて行かれる。ミュージシャンまがいのバンドは馬鹿げた流行語で歌おうとしたり、最悪には場所さえあればギター・ソロを入れたりする。アモン・デュールIIはそんなことはしない。オルガンの後にはさらに多彩なサウンドが重なり、具現化された音楽的装飾が続く。さらに恐ろしいのは12分目で叩かれるピアノで、サイケデリック・ノイズ・シンフォニーと呼べるものがそこで完成する。
 アルバムの最終面は3曲の比較的短い楽曲で、これはおそらく長いトリップの着地点として置かれたものだろう。「チューインガムの電報」はかなり標準的な'70年代初頭のハード・ロック・ジャムであり、「闇夜の過失」はファンキーで、本作最高の悪魔的なリフをくり出す。ドラムスが電話越しのようなフィルター処理され、無重力オルガンの代わりにギターが役割を果たしているので、曲の終わりにはすべてが反転している。「毒物的な囁き」は怠惰で反復的なリフが渋滞感をもたらすが、目を閉じて瞑想的な状態に入るのに適している。
 本作は私がもっとも気に入ったアモン・デュールIIのアルバムではないが、このバンドの入門には最適なアルバムかもしれない。『地獄!』や『神の鞭』はさらに激しい、ラウドなアルバムだが、『野鼠の踊り』ほどの広い表現には至っていない。また実際、アモン・デュールIIは'70年代を通して徐々に商業主義に後退していくことになった(ただしすぐにではなく、本作に続く2作は本作とほぼ同質の音楽性を保っていたが)。このアルバムが初期の野獣的な存在から穏やかでポップな傾向にバンドを向けた可能性はあるが、しかしアモン・デュールは野獣であり、そして今なお再結成しては本来の野性的サウンドを響かせていると伝えられる。それはほとんどのリスナーにとって幸福でもあれば脅威的でもあるだろう。