人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

トゥリーズ Trees - オン・ザ・ショア On the Shore (CBS, 1971)

トゥリーズ - オン・ザ・ショア (CBS, 1971)

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トゥリーズ Trees - オン・ザ・ショア On the Shore (CBS, 1971) : https://www.youtube.com/playlist?list=PLAFB20OoL0eb5dEeRSCxzTjLUEmCqOLPR
Recorded at at Sound Techniques,
Chelsea, London, October 1970
Released by CBS Records S 64168, January, 1971
Engineered by Vic Gramm
Produced by Tony Cox
Sleeve design by Hipgnosis
(Side 1)
A1. Soldiers Three (traditional) - 1:51
A2. Murdoch (Bias Boshell) - 5:10
A3. Streets of Derry (traditional) - 7:32
A4. Sally Free and Easy (Cyril Tawney) - 10:11
(Side 2)
B1. Fool (Bias Boshell, David Costa) - 5:21
B2. Adam's Toon (A. Della Halle) - 1:10
B3. Geordie (traditional) - 5:06
B4. While the Iron is Hot (Bias Boshell) - 3:21
B5. Little Sadie (traditional) - 3:11
B6. Polly on the Shore (traditional) - 6:08

[ Trees ]

Celia Humphris - vocals
Barry Clarke - lead guitar, dulcimer
David Costa - acoustic and electric 12-string guitar, mandolin
Bias Boshell - bass, vocals, piano, acoustic 12-string guitar
Unwin Brown - drums, vocals, tambourine

(Original CBS "On the Shore" LP Liner Cover & Side 1 Label)
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 イギリスのブリティッシュ・トラッド・フォーク・ロックのバンド、トゥリーズのセカンド・アルバムの本作もイギリス本国発売の直後に日本盤が出ていますが、トゥリーズのCBSとの契約は本作で打ち切りになり、バンドは翌1972年までライヴ活動を続けサード・アルバムのデモテープを制作するも同年中には解散してしまいます。デビュー作『ジェーン・ドゥロウニーの庭(The Garden of Jane Delawney)』ともどもトゥリーズの2作はイギリスの復刻レーベル、Decalから1987年にアナログLP再発売されるまで廃盤になり、1993年にドイツの復刻レーベルBGOから初CD化されています。オリジナル盤、日本盤、Decalからの少数プレスの復刻盤ともにアナログLP時代には本作は入手難で、CBS(SONY/BMG)からのリマスターCD化も2000年代まで遅れたためトゥリーズの2作、ことにヒプノシスのストーム・ファーガソンのデザインによる印象的なジャケットの本作はマニア人気の高いものでした。2007年には本作を2枚組にし、アルバム全曲にメンバー自身がオーヴァーダビングとリミックスを施してBBC放送でのライヴ2曲、2007年の新曲2曲を収録したボーナス・ディスクつきの再リマスター盤も発売されています。ただしボーナス・ディスクの方は、幻のサード・アルバム収録予定曲だった未発表曲2曲の放送用ライヴや新録音2曲はともかく、オーヴァーダビングとリミックスは改悪と不評なもので、アルバム本編の新規リマスターが好評だっただけに賛否両論といったところでした。トゥリーズは再リマスター盤の発売を記念して2008年には一時的再結成コンサートと新録音を行い、新録音の残りは2020年11月発売のバンド・デビュー50周年記念の自主制作コンピレーション盤『Trees』で陽の目を見ることになりました。

 本作のヒプノシスのジャケット・アートはピンク・フロイドやヴァージン・レコーズの諸作と並んで人気があり、ウィッシュボーン・アッシュの『百眼の巨人アーガス(Argus)』1972のジャケットに匹敵する印象的なものです。アルバム内容もデビュー作同様LPのAB面でトータル50分近い力作で、ギターの音色やピアノ、キーボードの導入を始めバンドの演奏力もアレンジの洗練もデビュー作からの進展がうかがえます。またプログレッシヴ・ロックのリスナーからも本作の方がデビュー作よりはるかに人気が高く、フェアポート・コンベンションやペンタングル、スティーライ・スパンらブリティッシュ・トラッド・フォーク・ロックの一流バンドよりも本作の方を上とするマニアも多いのですが、バンドの力量が向上した分本作はフェアポートら一流バンドにはおよばない、という気もします。デビュー作はちょっとミスマッチではないかと思われるようなサイケデリック・ロック色丸出しのリード・ギターといい、凝ったリズム・チェンジに挑んだアレンジがバンドの演奏力には手に余ったり、声質は可愛いらしく雰囲気のある女性ヴォーカルもかなり音程の危なっかしいところが愛嬌になっていました。1989年にリリースされた音質の悪いアナログ・ブート『Trees Live!』がありましたが、おそらく公式録音されていても正規盤の発掘フル・ライヴ・アルバムは出せないだろうなというほど海賊盤で聴けるライヴもあまり上手くなく、実力的にも2枚のアルバムきりで解散したのはやむなしと思われるものでした。二流以下と言うほどではないとしても一流とは言えないトゥリーズの資質はアンサンブルや演奏力に稚拙さを残したデビュー作の方が素直に出ていて、セカンド・アルバムの本作はもっと入念なプロデュースで完成度を高めたものの、バンドの個性は後退してしまい、翌年デビュー作1作だけを出して解散したメロウ・キャンドルの『抱擁の歌(Swaddling Songs)』のようにアルバム1作で個性、実力、完成度とも完備した作品にはなっていない感想を抱きます。トゥリーズのようにアルバム2作で解散したバンドの作品に優劣をつけても仕方なく、デビュー作きりだったらもっと歴史の闇に埋没していたかもしれませんが、このバンドの良さ(面白さ、と言ってもいいですが)はデビュー作『ジェーン・ドゥロウニーの庭(The Garden of Jane Delawney)』に無加工に表れていて、本作はジャケットのインパクトの強さがなければアニー・ハズラムを擁したルネッサンスにはおよばない、トラッド・フォーク・ロックとクラシカル・ロックの標準作という印象を受けます。筆者の好みばかりで感想文を書いてきましたが、ついでに言えばジャケットも本作よりデビュー作の方が筆者には好ましく感じます。