人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Pulsar - Halloween (CBS, 1977)

イメージ 1

Pulsar - Halloween (CBS, 1977) Full Album : https://youtu.be/vtl_AA_3Ag8
Recorded and mixed autumn 1977 in Aquarius Studio.
(Face A) Halloween Part I (20:30)
a) Halloween Song - 1:20
b) Tired Answers - 9:30
c) Colours Of Childhood - 6:00
d) Sorrow In My Dreams - 3:40
(Face B) Halloween Part II (18:40)
a) Lone Fantasy - 4:50
b) Dawn Over Darkness - 6:10
c) Misty Garden Of Passion - 2:15
d) Fear Of Frost - 3:35
e) Time - 1:50
All Composed, Arranged and Produced by Pulsar.
English Lyrics by Armand Fines.
[Musiciens]
Victor Bosch - drums, percussion, vibes
Gilbert Gandil - guitars, vocals
Michel Masson - bass guitar
Roland Richard - flute, clarinet, acoustic piano, strings
Jacques Roman - keyboards, Mellotron, synthesizers
(Guest musiciens)
Xavier Dubuc - congas
Sylvia Ekstrom - child voice (1a)
Jean-Louis Rebut - voice (2e)
Jean Ristori - cello

 誰しも趣味の領分では客観的評価など関係なく偏愛つきないものがあると思うが、ピュルサーのこの『ハロウィーン』は好きなロックのアルバムからは落とせない。何番目に上げるかはともかく、このアルバムが入るまでは数え上げていくと思う。フランスのロックではゴングやマグマ、アンジュやアルプら大物を差し置いても、エルドンの『アグネタ・ニルソン』、ワパスーの『ルードヴィッヒ』とピュルサーのこのアルバムは入れる。アメリカのロックにはピュルサーとかぶるバンドはないが、イギリスならトラフィックピンク・フロイドがかぶる。『トラフィック(セカンド)』や『狂気』を入れるなら『ハロウィーン』も落とせない。キング・クリムゾン、イエスジェネシスより上位に選んでもいい。もちろんクリムゾンらにはピュルサーなど及びもつかない名作が何枚もあるが、それを言えばピュルサーはフランス最高のバンドですらないわけで、しかし『ハロウィーン』には唯一無二のアルバムとして愛着ひとしおなのだった。『アグネタ・ニルソン』や『ルードヴィッヒ』もそう。
 ついでに先に言っておけば、メカニカルな意味でのテクニック、楽器の演奏力と表現力は同じではない。エルドンもワパスーもピュルサーも、メンバーの演奏力は他のバンドでは通用しない程度なのには聴くたびに驚嘆する。にもかかわらず表現力の豊かさは素晴らしいからだ。それは感受性の鋭さと音楽的イマジネーションの広さ・深さを楽器の演奏力の限界以上に表現することに成功しているからで、一応ロックバンドらしい編成のピュルサーはともかくエルドンとワパスーはロックバンドと言えるかどうかもあやしい編成だが、音楽にはロックならではの根性が宿っている。さらにこの3組に共通するのは音楽の強い陶酔感だろう。大物バンドは清濁合わせ飲んだ柄の大きさがあり、かえってなかなか純粋に酩酊感を押し出せない良識が働いて耽美性は抑制してしまう。ピュルサーの他のアルバムでも、ここまで死臭すらする陶酔性を湛えた作品はない。

イメージ 2

 (Original CBS "Halloween" LP Liner Cover)
 前回まででピュルサーのデビュー作『ポーレン』1975と第2作『終着の浜辺』1976を紹介する記事を載せて、現在も活動しているバンド(今年でデビュー40周年、バンド結成からは50年になる)の起伏に富んだ歩みをたどってみた。60年代半ばに学生バンドとして始まったピュルサーは、アマチュアバンドの例にもれず流行のビート・グループやソウル・ミュージック、サイケデリック・ロックが流行ればサイケと手当たり次第に演奏していたが、やがてピンク・フロイドから決定的な影響を受ける。また、70年代以降のマーラーの本格的評価からもロマン主義の飽和点というべき楽想、ドラマティックな構成法など、バンドの個性を左右させるほどのアイディアを取り入れる。レコード・デビューは1975年になったが、イギリス、ドイツ、イタリアなどのロックの潮流から見ればピュルサーは1970年にはデビューしていても遅くはない音楽性で、逆にフランスのロックの立ち後れを感じさせる。イギリスやイタリアのロックなら『ハロウィーン』は1973~1974年に発売されたアルバムの作風だっただろう。
 結局それが原因で『ハロウィーン』はレコード会社から時流に外れた失敗作と見做され、このアルバムを移籍第1弾に3枚契約を結んだはずのピュルサーは『ハロウィーン』きりでCBSから契約を破棄されてしまう。イギリスのデッカ・レコード傘下のキングダム・レーベルからは、ピュルサーのアルバムはイギリス、フランス、ポルトガル盤がリリースされ、3国合計でデビュー作『ポーレン』は15,000枚を売り、第2作『終着の浜辺』は40,000枚を売り上げていた。70年代のヨーロッパ市場では1万枚を超えるセールスはLPレコードではヒット作で、『ハロウィーン』はCBSがまったくプロモーションせずに25,000枚を売ったが、制作時間と制作費を潤沢にかけ、バンドの持ち出し分までかけて完成させたアルバムだったため十分な売り上げとは言えなかった。CBSレコードはコンサート・ツアーのサポートも拒否したので、バンドは独力で地方都市を数か所まわり、特に人気の高かったポルトガルでは熱狂的に迎えられ、リスボンでは2日間で15,000人(アリーナ級)を動員するコンサートを開いた。これがプロのバンドとしての最後のひと花と言えて、CBSに契約破棄されたピュルサーは時代遅れのプログレッシヴ・ロック・グループとされ新たなレコード契約を結べなかった。

 ピュルサーはアマチュアに戻っても解散しなかった。アルバム・リストを掲げると、
1975: Pollen (Kingdom Records, U.K.)
1976: The Strands of the Future (Kingdom Records, U.K.)
1977: Halloween (CBS Records, Fr.)
1981: Bienvenue au Conseil d'Administration (Theatre De La Satire, Fr.)
1989: Gerlitz (Musea Records, Fr.)
2007: Memory Ashes (Cypress Music, Fr.)
 と、81年の『歓迎』以降は自主制作盤ばかりになるが、忘れた頃に出してくるのだ。今ではピュルサーのアルバムをもっとも多く再発売、しかも一般流通される国内プレス盤で出したのは日本になるかもしれない。

イメージ 3

 (Die HARAKIRI CD "Sorrow In My Dreams" Front Cover)
 1999年に発足した「Die HARAKIRI」はユーロ・ロックの発掘レーベルだったが、2000年に300枚限定でオザンナ、アース&ファイアの発掘ライヴとともにピュルサーの1978年1月のフランス国内でのライヴを発売している。1回のコンサートをフル収録した2枚組CDで、ディスク1は『ハロウィーン』全編の完全演奏。ディスク2は『終着の浜辺』のタイトル曲全編から始まり、アルバム未収録曲のアコースティックな小曲が続き、デビュー作『ポーレン』タイトル曲でコンサート本編終了、アンコールがかかってデビューから『パズル/オーメン』を演ってCDは終了している。よくまあこんな音源が残っていたもので、オフィシャルならもっと他に良好な音質の音源はなかったのかと文句も出るが、プライヴェート盤なら仕方ない。
 アルバム『ハロウィーン』は77年9月1日から5週間合宿して録音されたそうで、ハロウィーンの夜、夢の世界をさまよう少女という『不思議の国のアリス』風なアルバム・コンセプト、さらにジャケット・デザイン(モデルの女性は後にボッス夫人になる)はドラムスのヴィクトール・ボッスのアイディアによるという。アルバム完成直後のライヴだけに演奏が瑞々しく、2008年の音楽誌「ゴールドマイン」のプログレッシヴ・ロック特集号でプログレッシヴ・ロック名盤25選に数えられたこのアルバムの、数少ない全曲演奏かもしれない。デビュー作の曲は、アルバムでは『ポーレン』1枚で脱退するフィリップ・ロマンが歌っていたはずだが、第2作からリード・ヴォーカル兼任になったジルベール・ギャンディル(ギター)のヴォーカルでライヴ・ヴァージョンを聴いても別人という気がしない。

イメージ 4

 (Die HARAKIRI CD "Sorrow in My Dreams" Liner Cover)
 ピュルサーの魅力はフレーズは単純だが多彩な音色のキーボード・アンサンブルと、簡素だが情感溢れるギター、フルートやクラリネットの控えめだが効果的な使用に、ヘヴィなパートでがぜん冴えるドラムスなど聴きどころはきりがないが、ほとんど英語に聞こえない英語歌詞(専属のステージ・スタッフに英訳してもらっているという)のはかなげなヴォーカルが大きいのではないか。ピンク・フロイドもそうだが、ピュルサーも喉の強くないヴォーカルを憂鬱なサウンドにうまくあしらうことでリスナーの耳に囁きかけるような効果を作り出した。そしてデイヴィッド・ギルモア以上にフォーク的ではまったくない。
 ロックのほとんどがヴォーカルにはマッチョ的な威圧感をこめるのが普通で、ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーター、キング・クリムゾンジェネシスなどもマチズモを利用しているし、中性的な声質のリード・ヴォーカルが特徴のイエスでさえ歌唱スタイルはむしろより男性的だった。ヘヴィ・メタルでは男の金切り声は一般的なものになる。ピュルサーの非マッチョ的なヴォーカルは、ピュルサー自体が独特なサウンドであることを考慮してもやはり特異な魅力になっている。
 とにかく『ハロウィーン』は冒頭の少女の歌う「ダニー・ボーイ」からメロトロンのたなびきに移り、やがてオン・ビートになるとヘヴィなリフへと展開して行く。この冒頭数分でゾクゾクしてくる。そのゾクゾクがA面~B面40分続く。ピュルサーはこの1作だけでも忘れられないバンドとして残るだろう。現存しているバンドには失礼かもしれないが、ピュルサーの存在はこのアルバムを作り上げたことに尽きる。以て瞑すべし、とすら思える。