人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

トゥリーズ Trees - ジェーン・ドゥロウニーの庭 The Garden of Jane Delawney (CBS, 1970)

トゥリーズ - ジェーン・ドゥロウニーの庭 (CBS, 1970)

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トゥリーズ Trees - ジェーン・ドゥロウニーの庭 The Garden of Jane Delawney (CBS, 1970) : https://www.youtube.com/playlist?list=PLPXm8vjRaUte6D_wBe6yFL0dGX449n7Fr
Recorded at Sound Techniques, Chelsea, London, March 1970. Bonus tracks recorded in July 2008.
Produced by Bias Boshell, David Howells and Tony Cox
All songs written by Bias Boshell except where noted.
(Side A)
A1. Nothing Special (Boshell, Unwin Brown, Barry Clarke, David Costa, Celia Humphris) - 4:31
A2. The Great Silkie (traditional) - 5:15
A3. The Garden of Jane Delawney - 4:19
A4. Lady Margaret (traditional) - 7:14
(Side B)
B1. Glasgerion (traditional) - 5:18
B2. She Moved Thro' the Fair (traditional) - 8:09
B3. Road - 4:36
B4. Epitaph - 3:26
B5. Snail's Lament - 4:40
(Bonus tracks)
10. Black Widow - 3:25
11. Little Black Cloud Suite - 2:18

[ Trees ]

Celia Humphris - vocals
Barry Clarke - lead and acoustic guitars
David Costa - acoustic and 12-string guitars
Bias Boshell - bass, vocals, acoustic guitar
Unwin Brown - drums

(Original CBS "The Garden of Jane Delawney" LP Liner Cover, Japanese Edition Lyric Sheet & Side A Label)

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 イギリスのトラッド・フォーク系アーティストの第一人者はバート・ヤンシュでしょうが、バンドとしてはヤンシュの在籍したペンタングル、ジュディ・ダイブル~サンディー・デニーを擁し『Fairport Convention』1968、『What We Did On Our Holidays』1969、『Unharfbricking』1969、『Liege & Lief』1969の初期4作で国民的バンドとなったフェアポート・コンヴェンジョンが双璧として上げられます。同時期にはやや先立ってアシッド・フォーク系アーティストの台頭もあり、ドノヴァンやインクレディブル・ストリング・バンド、ニック・ドレイクらが上がりますが、この両者の流れが合流したのがトレイダー・ホーン(ジュディ・ダイブル参加)、フォザリンゲイ(サンディー・デニー参加)、マシューズ・サザン・コンフォート、チューダー・ロッジ、スパイロジャイラ、Dr.ストレンジリー・ストレンジ、メロウ・キャンドルらになり、トゥリーズもアシッド・フォークとブリティッシュ・トラッドの合流から生まれてきたバンドです。学生バンド出身だったトゥリーズは1969年に結成され、トラッド&アシッド・フォークのバンドとしてすぐさま注目され、早くもメジャーのCBSレコーズから1970年4月にAB面トータル48分の意欲作になった本作『The Garden of Jane Delawney』でデビューしました。ヴォーカリストのセリア・ハンフリーズのとリード・ギタリストのバリー・クラークに評価が集まり、セカンド・アルバム『On The Shore』も1971年1月にリリースされ、この2作は即時に日本盤も発売されています。バンドはフェアポート・コンヴェンジョンと比較されましたが、トゥリーズのサウンドは初期のフェアポートよりもずっと荒々しいサイケデリック色を残したものです。トゥリーズはフェアポート・コンヴェンジョン、フォザリンゲイ、マシューズ・サザン・コンフォート、フリートウッド・マックフェイセズらの前座を勤め、ジェネシスやファミリー、イエスとはダブル・ビルでコンサート出演しています。しかしセカンド・アルバムの後トゥリーズはCBSとの契約を打ち切られ、1972年まで細々と活動しサード・アルバムのデモテープを制作しながらも解散を余儀なくされました。リーダーのバイアス・ボッシェルはその後バークレイ・ジェームス・ハーヴェストやジェネシスのセッション・メンバーになりましたが、トゥリーズの2作のアルバムは廃盤ながらブリティッシュ・ロックの秘宝として評価が高まり、トム・ヴァーレイン(テレヴィジョン)やロバート・クワインらニューヨーク・パンクのギタリストがトゥリーズからの影響を語り、1980年代末からようやくアナログ盤、CDでの再発売がされるようになります。2008年には一時期再結成がされてコンサート出演と数曲の新レコーディングが行われ、2020年11月にはバンド監修のデビュー50周年記念アルバム『Trees』(Earth, CD-R, Limited Edition)がリリースされました(内容はCBSからの2作からのベスト選曲に2008年、2018年の新録音を加えたコンピレーションです)。

(Original Earth "Trees" CD-R Front Cover)

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 トゥリーズの2作が'70年代初頭のブリティッシュ・ロックの秘宝なのに異義はありませんが、完成度や洗練ではペンタングルやフェアポートに一歩を譲るのは明らかで、それゆえにペンタングルやフェアポートの名作を聴くより先にトゥリーズを聴いてみる方が当時のアシッド~トラディショナル・フォークのバンドの典型的なスタイルを知るには好適とも言えます。アルバム・タイトル曲「The Garden of Jane Delawney」はブリティッシュ・トラッド曲ですが、トゥリーズの本作によってフランソワーズ・アルディー(同名タイトル曲アルバム)、オール・アバウト・イヴ(1988年のシングルB面、「She Moved Through the Fair」もカヴァー)、フランスのゴス/ネオ・クラシカル・バンドのダーク・サンクチュアリー(2005年のアルバム『Exaudi Vocem Meam』)などのカヴァーも生んでいます。またトゥリーズ同様のスタイルのバンドはフランス、ドイツ、イタリアにも生まれており、思いもがけない'70年代フィメール・ヴォーカル・ロックの裏街道の中軸をなすアルバムとして聴き継がれていくものでしょう。純粋にトラッド・フォークのバンドだったトゥリーズがアシッド・フォーク、サイケデリック・ロックプログレッシヴ・ロックと混同して活動していた1970年代初頭のイギリスのロック・シーンがいかに自由奔放なものであったか、そして結局トゥリーズが短命バンドに終わったかはトゥリーズが最大手のCBSの売り出した(おそらくはアイランドのフェアポートの大成功の向こうを狙った)アーティストだったこともあいまって、'70周年初頭のブリティッシュ・ロックの何でもありの気風を感じさせるものです。