人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

追悼フィル・メイ、プリティ・シングス

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ザ・プリティ・シングス - ファースト・アルバム (Fontana, 1965)
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ザ・プリティ・シングス The Pretty Things - ファースト・アルバム The Pretty Things (Fontana, 1965) + Bonus tracks : https://youtube.com/playlist?list=PL8a8cutYP7frbe0UpcOGDlrtLRhhrj3Rs
Released by Fontana Records Fontana TL 5239 (UK, LP), March 12, 1965 / UK♯6
Produced by Bobby Graham
(Side 1)
A1. Road Runner (Ellas McDaniel) - 3:14
A2. Judgement Day (Bryan Morrison; arranged by the Pretty Things) - 2:49
A3. 13 Chester Street (Phil May, Dick Taylor, Brian Pendleton, John Stax, Vivian Prince) - 2:22
A4. Big City (Jimmy Duncan, Alan Klein) - 2:02
A5. Unknown Blues (May, Taylor, Pendleton, Stax, Prince) - 3:49
A6. Mama, Keep Your Big Mouth Shut (Ellas McDaniel) - 3:03
(Side 2)
B1. Honey, I Need (Dick Taylor, John Warburton, Peter Smith, Ian Stirling) - 2:00 *Single-A Side, Fontana TF537, February 1965, UK♯13
B2. Oh, Baby Doll (Chuck Berry) - 3:01
B3. She's Fine, She's Mine (Ellas McDaniel) - 4:24
B4. Don't Lie to Me (Tampa Red) - 3:53
B5. The Moon Is Rising (Jimmy Reed) - 2:33
B6. Pretty Thing (Willie Dixon) - 1:39
(CD Bonus tracks)
13. Rosalyn (Duncan, Farley) - 2:20 *Single-A Side, Fontana TF469, June 1964, UK♯41
14. Big Boss Man (Luther Dixon, Al Smith) - 2:39 *Single-B Side, Fontana TF469, June 1964
15. Don't Bring Me Down (Johnnie Dee) - 2:09 *Single-A Side, Fontana TF503, October 1964, UK♯10
16. We'll Be Together (May, Taylor, Stax) - 2:09 *Single-B Side, Fontana TF503, October 1964
17. I Can Never Say (May, Taylor, Pendleton, Stax, Prince) - 2:37 *Single-B Side, Fontana TF537, February 1965
18. Get Yourself Home (May, Taylor, Pendleton, Stax, Prince) - 2:14 *previously unreleased
[ The Pretty Things ]
Phil May - lead vocals
Dick Taylor - lead guitar
Brian Pendleton - rhythm guitar, backing vocals
John Stax - bass guitar, harmonica, backing vocals
Viv Prince or Bobby Graham - drums

(Original Fontana "The Pretty Things" LP Liner Cover & Side 1 Label)
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 ローリング・ストーンズ、ジ・アニマルズ、ザ・ヤードバーズと並ぶ'60年代ブリティッシュ・ロックの雄にして、ダウンライナーズ・セクトと並ぶフリークビート、ガレージ・ロック/プロトパンクの先駆的バンドとして泣く子も黙る'60年代ブリティッシュ・ロックの裏番長的風格のあった('70年代ならホークウィンドウ、'80年代ならキリング・ジョークに相当する)ザ・プリティ・シングスの創設メンバーにしてリード・ヴォーカリスト、フィル・メイさんが亡くなって1年あまり経ちました。1944年11月9日生まれ、2020年5月15日に呼吸不全の手術が思わしくなく術後逝去、享年75歳と、プリティ・シングスはデビュー前のローリング・ストーンズにベーシストとして在籍していたディック・テイラー(1943-)がストーンズのデビュー前に脱退してフィル・メイとともに創設し、テイラーとメイ以外のメンバーはあまりに素行不良で安定せず、テイラーがプロデュース業に転向した'70年代以降はメイだけがオリジナル・メンバーで引っ張り、1979年にテイラーが復帰してからは再びメイとテイラー中心に活動し、ほぼ3年~5年ごとに新作を発表していた長老格のバンドでしたが、2018年についに解散を表明して活動を停止していました。解散前のスタジオ・アルバムは『The Sweet Pretty Things (Are in Bed Now, of Course...)』(Repertoire, 2015)が最後になり、解散直後にライヴ盤『The Final Bow』(Madfish, 2019)をリリースしていましたが、フィル・メイの逝去後の2020年9月に、メイ逝去半年前に録音・制作を完了したアコースティック・アルバム『Bare as Bone, Bright as Blood』(Madfish, 2020)が追悼盤として発表されました。解散宣言後もプリティ・シングスはちゃっかりアルバムを制作していたわけで、フィル・メイ没後とあってはこれが正真正銘のプリティ・シングス最後の新作になります。同作は批評家やファンからの評価も高く、デビュー・アルバムから55年、有終の美を飾る作品となりました。

 しかしプリティ・シングスの傑作は1965年3月リリースのデビュー・アルバム『The Pretty Things』(Fontana, 1965)、1965年12月リリースの第2作『Get the Picture?』(Fontana, 1965)、1967年4月リリースの第3作『Emotions』(Fontana, 1967)、1967年6月には完成していたとされるのに1968年12月までリリースが見送られたコロンビア移籍後の第4作『S.F. Sorrow』(Columbia, 1968)、1作きりで移籍してディック・テイラー脱退、フィル・メイと新ベーシストのウォリー・ウォーラーが中心となって前作のコンセプト・アルバム路線を押し進めた1970年6月リリースの第5作『Parachute』(Harvest, 1970)までと、1964年~1970年録音のアルバム未収録シングルAB面22曲、さらにテレビ番組やB級映画サウンドトラックのために変名バンド「Electric Banana」名義で制作・リリースされた『Electric Banana』(De Wolf, 1967)、『More Electric Banana』(De Wolf, 1968)、『Even More Electric Banana』(De Wolf, 1969)なので、Warner Brothers~Swan Song移籍後の1972年以降のアルバムは実質的にフィル・メイとそのバックバンド、ディック・テイラー復帰後の'80年代以後のスタジオ録音・ライヴ収録のアルバムも再録曲が多くを占めセルフ・トリビュート的な意味合いが強いものでした。もっともプリティ・シングスの真価と再評価はその時期にようやく進んだので、プリティ・シングスやホークウィンド、キリング・ジョークらが現役というだけでもブリティッシュ・ロックの裏街道は一本筋が通っていたという功績はどれだけ賞讃しても賞讃しきれません。

 全盛期プリティ・シングスはまずアルバム未収録シングルAB面が良く、アルバムは『Get the Picture?』と『S.F. Sorrow』が名曲揃いの名盤ですが、デビュー・アルバム『The Pretty Things』と第3作『Emotions』、第5作『Parachute』もElectric Banana名義の諸作とともに落とせないアルバムで、オリジナル・アルバム未収録シングルAB面のみを集めたコンピレーション・アルバムもありますが、現行CDには同時期のシングルAB面曲が追加されてより充実した内容になっています。スティーヴン・タイラーにそっくりと言われるフィル・メイのヴォーカルですが、もちろんフィル・メイの方が元祖です。遅ればせながら、初期3枚のシングルを含むデビュー・アルバムを引いて、メイさんのご冥福をお祈りします。このデビュー・アルバムの時点でビートルズの最新作は『Beatles For Sale』UK/1965.12(『Beatles 65』US/1965.12)と『The Early Beatles』US/1966.3、ストーンズの最新作は『The Rolling Stones No.2』UK/1965.1と『The Rolling Stones, Now!』US/1965.2、アニマルズはすでに『The Animals』US/1964.9, UK/1964.12と『The Animals on Tour』UK/1965.3、キンクスはセカンド・アルバム『Kinda KinKs』UK/1965.3、ヤードバーズやダウンライナーズ・セクトはまだ『Five Live Yardbirds』UK/1964.12、『The Sect』UK/1964.12しかリリースしておらず、ザ・フーのデビュー・アルバムは1965年12月、スモール・フェイセズのデビュー・アルバムは1966年5月になります。プリティ・シングスの凶暴で殺気立ったサウンドは同時代のバンドでも際立っており、これがガレージ・ロックパンク・ロックの源泉になったのも頷けるものです。本作がお気に召したら、プリティ・シングス史上もっとも凶悪な名盤『Get the Picture?』、このサウンドのままサイケデリックなコンセプト・アルバムに突入した『S.F. Sorrow』、そしてアルバムに収まり切らなかった過激なアルバム未収録シングル集をぜひお勧めいたします。