人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ジャックス - アンダーグラウンド音楽祭 (Solid, 1992)

ジャックス - アンダーグラウンド音楽祭 (Solid, 1992)

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ジャックス - アンダーグラウンド音楽祭 (Solid, 1992) : https://youtu.be/gvPPuDuXGBc
Recorded at 大阪フェスティバルホール "アンダーグラウンド音楽祭", March 27, 1968
From the album "BEST OF SOLID VOL.1 (Various Artists)",Released by Solid Records Solid CDSOL-1028, March 25, 1992
All Arranged by ジャックス
(Tracklist)
1. マリアンヌ Marianne (相沢靖子作詞・早川義夫作曲) - 4:34 (00:00~)
2. からっぽの世界 Vacant World (早川義夫作詞作曲) - 4:35 (05:04~)
3. われた鏡の中から In The Broken Mirror (早川義夫作詞作曲) - 3:27 (09:55~)
Total Time: 13:22

[ ジャックス Jacks ]

早川義夫 - リード・ヴォーカル、サイド・ギター
水橋春夫 - リード・ギター、ヴォーカル
谷野ひとし - ベース
木田高介 - ドラムス、フルート

(EMI Music Japan 2008 3CD Box "Legend" Front Cover)
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 この4月21日、ディスク・ユニオン傘下の日本のフォーク/ロック・レーベルSuper Fuji Discからジャックスの発掘音源としては『若松孝二傑作選・腹貸し女(サウンドトラック)』(ソリッド・レコーズ、2008年10月4日発売)、3CDボックス・セット『レジェンド~40周年記念ボックス』(EMIミュージックジャパン、2008年12月10日発売)以来となるラジオ音源からの発掘ライヴ・アルバム『LIVE, 15 Jun.1969』がリリースされることになりました。同作に収録予定なのはYouTubeでは以前からアップされていた、北川修(元フォーク・クルセダーズ)のラジオ番組出演時の30分ほどの音源で、1969年6月にジャックスはセカンド・アルバム『ジャックスの奇蹟』(1969年10月発売)のレコーディングを進めつつ高石友也のバックバンドを勤めていましたが、7月には解散を宣言、8月には予定されていたライヴ・スケジュールをこなして解散しますから、『LIVE, 15 Jun.1969』はリード・ギタリストの水橋春夫の脱退に代わってドラマーに角田ヒロが加入し、オリジナル・メンバーでマルチプレイヤーのドラマー木田高介がフルート、テナーサックス、キーボード、ヴィブラフォンに回った後期ジャックスの最後期の音源に当たります。ジャックスは日本においてザ・ドアーズ、ザ・13thフロア・エレベーターズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドら同時代アメリカのモンスター級サイケデリック・バンドに匹敵する唯一の存在でしたが、海外のロック動向とは無関係・無関心に完全な独創性を確立した驚異的なグループでした。解散間近の30分程度のラジオ番組出演の発掘リリースですら見逃せないのは、ジャックスの残した音源はすべて耳を傾ける価値があるからに他なりません。

 一方今回ご紹介する音源は、レコード・デビュー時のオリジナル・メンバー時でデビュー・シングル「からっぽの世界」(タクト、1968年2月21日録音・3月25日発売)をリリースした直後(2日後!)、セカンド・シングル「マリアンヌ」(タクト、1968年3月19日録音・5月21日発売)録音直後(8日後!)に「帰って来たヨッパライ」大ヒット中のフォーク・クルセダーズ、また高石友也五つの赤い風船らフォーク系アーティストと出演した大阪フェスティバルホール(サンケイホール)の「アンダーグラウンド音楽祭」での全演奏曲3曲であり、東芝音楽工業からのファースト・アルバム『ジャックスの世界』(1968年9月10日発売)の録音が4月28日(LPのA面分5曲)・5月25日(LPのB面分5曲)ですから、上り調子の前期ジャックスをとらえた貴重な音源です。この3曲・13分半だけでもジャックス最高のセットリストと呼べる壮絶な演奏が聴かれます。アルバム発売の6週間前に御茶ノ水日仏会館で開催された「第二回ジャックスショウ」はのちの1973年7月にジャックス・ファンクラブ有志によって会員予約者限定200枚の自主制作盤『Live 68 '7 '24』としてリリースされましたが、リード・ギタリストの水橋春夫は『ジャックスの世界』発売10日前の9月1日には脱退してしまいます。水橋春夫在籍中のライヴ音源はニッポン放送のスタジオ・ライヴ番組「フォークビレッジ」出演時の1967年6月10日・1968年1月28日の7曲、新宿厚生年金会館で1967年9月24日に行われた「ヤマハ・ライト・ミュージック・コンテスト」出演時の「からっぽの世界」(コンテスト2位・特別賞受賞、毎日放送でラジオ放送)が『レジェンド~40周年記念ボックス』に収録されていますが、初の7枚組CDボックス『Jacks CD Box』(1989年4月25日発売)をリリースしていた日本の'60年代~'70年代のフォーク/ロックの復刻・発掘レーベル、ソリッド・レコーズから、レーベルの一時休止に当たって『Jacks CD Box』に収録洩れになっていた「アンダーグラウンド音楽祭」の3曲を初収録したのが、ソリッド・レコーズの復刻・発掘してきたアーティストの音源をVOL.1~VOL.3の3枚に分売した『BEST OF SOLID』のVOL.1で、この「アンダーグラウンド音楽祭」の3曲は『レジェンド~40周年記念ボックス』にも再収録されず、やはり一度も再発売されていない『Live 68 '7 '24』ともども廃盤になっています。『BEST OF SOLID Vol.1』の選・解説に当たった故・黒沢進氏は同CDの解説書でこのジャックスの「アンダーグラウンド音楽祭」音源を「演奏水準としても、恐らく現存するジャックスのあらゆるライヴ・テープの中で最高のもの」とし、特にオープニングの「マリアンヌ」を「これ1曲で同時代のアメリカの全サイケ・バンドに拮抗しうる」と激賞しています。

 全14曲・53分にもおよぶ『Live 68 '7 '24』は何度となく再発売が企画されながら、おそらくマスターテープの散佚とメンバー、録音権利者の意向により再発売されていませんが、のちにキング・レコード~ポリスター・レコードのディレクターになり横浜銀蠅山瀬まみWinkなどを手がけた水橋春夫(1949-2018)は定年退職を迎えた2009年に40年ぶりの早川義夫との共演をきっかけに音楽活動を再開し、谷野ひとしと組んだ水橋春夫グループとして『考える人』(セシリア・E、2015年1月7日発売)、『笑える才能』(ベルウッドレコード、2016年7月27日)の2枚のアルバムを残しました。音楽活動再開後も19歳の時のジャックスでのギター・プレイと40年以上を経て変わらない、水橋以外のギタリストからは聴けない演奏はYouTubeにも多数上がっています。もっぱらリーダー早川義夫(1947-)のオリジナル曲とヴォーカルに注目が集まりがちなジャックスは、オリジナル・メンバーの谷野ひとし(1947-)、マルチプレイヤー木田高介(1949-1980)、後期メンバーのつのだ☆ひろ(1949-)はもとより、脱退後のセカンド・アルバム『ジャックスの奇蹟』にもゲスト参加に招かれた水橋春夫のリード・ギターが不可欠だったのが「アンダーグラウンド音楽祭」の3曲だけでも痛感されます。水橋生前には、早逝した木田を欠きながら、もし早川義夫・谷野ひとし・つのだ☆ひろに水橋が参加すれば前期・後期の混合メンバーによる一時的なジャックス再結成の可能性も一縷の望みがあっただけに、水橋春夫没後となった現在、ファンクラブ限定盤『Live 68 '7 '24』と、それに4か月先立つ収録で音質も『Live 68 '7 '24』より良好かつ瑞々しくも壮絶な演奏が聴ける「アンダーグラウンド音楽祭」音源は、ジャックス最後の一駒として、最新発掘音源『LIVE, 15 Jun.1969』に続く翻刻が望まれる、日本の'60年代ロック最大の秘宝となっています。選・解説の故・黒沢進氏が「恐らく本CDは、これまで発売された日本のロックのコンピレーション・アルバムの中でも最高のものである」と自負した1992年発売の『BEST OF SOLID VOL.1』は、中古盤で探せば比較的入手しやすく、同作で初発掘されたジャックス以外のアーティストもソリッド・レコーズからリリースされた発掘ライヴ・未発表テイクなど貴重音源を満載しているので、収録曲目をご紹介しておきます。

(Various Artists Solid "BEST OF SOLID VOL.1" CD Front Cover)
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Various Artists - BEST OF SOLID VOL.1 (Solid, 1992)
Released by Solid Records Solid CDSOL-1028, March 25, 1992
(Tracklist)
1. ジャックス - マリアンヌ (本作初発掘ライヴ)
2. ジャックス - からっぽの世界 (本作初発掘ライヴ)
3. ジャックス - われた鏡の中から (本作初発掘ライヴ)
4. ザ・フォーク・クルセダーズ - イムジン河 (発売中止未発表シングル・テイク)
5. 早川義夫 - 前口上 (発掘ライヴ・シングルA面)
6. 早川義夫 - 花が咲いて (発掘ライヴ・シングルA面)
7. はっぴいえんど - 春よ来い (発掘ライヴ『ON STAGE!』より)
8. はっぴいえんど - あやか市の動物園 (発掘ライヴ『ON STAGE!』より)
9. 布谷文夫・DEW - 夏は終わり (翻刻ライヴ『幻野EVIDENCE』より)
10. 頭脳警察 - ふざけるんじゃねえよ (発掘ライヴ『頭脳警察LIVE!』より)
11. 頭脳警察 - 落葉のささやき (発掘ライヴ『頭脳警察LIVE!』より)
12. はちみつぱい - 煙草路地 (発掘ライヴ『はちみつぱいセカンド・イン・コンサート』より)
13. はちみつぱい - 塀の上で (発掘ライヴ『はちみつぱいセカンド・イン・コンサート』より)