人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

里霧へのメール(震災篇2)

Uさんはぼくの俳句を「グロテスクなユーモアと抒情」と認めてくれて、独立性の高い句をセレクトしてくれた。
「U…選・佐伯和人代表句」
・ラジコンよムショの夏空飛翔せよ
・逆光に鳥影走る錯視かな
・陰嚢の裏は調べず若白髪
・白井さん既にパスカルの深淵に
・車が跳ねし弟捨てて逃亡す
・意志もなく我が身砕ける凍死体
・無理矢理に動けばひび割れ凍死体
・アラン島セーターのみが漂着す
・すれ違う女いずれも股旅か
・女体とはなんと静かな海あなた
・インディアン細菌兵器で死ににけり
・何もかも忘れ鼻毛出し眠る

…ちょっと異論はあるが、Uさんのセレクトは的確だ。ぼくのテーマは衰弱と死、解放への願い、届かない人への思い、生きていることの滑稽さなんだ。Uさんのセレクトだとそうなる。だけどぼくにはもっとあどけなくて、大きな世界と小さなものへの純粋な愛情もある。

・コウモリは夕空覆い尽くしけり
・一発でなんで作家とわかったの?
・蟷螂の首持ち赤きランドセル

第3句は小学生になったばかりの女の子がお迎えのお父さんに初めて捕まえたカマキリをもじもじ、こわごわ、でも得意げに見せている光景だ。お父さんはぼく、女の子は茜音。ぼくの長女…。(カマキリの緑、季語は初夏、ランドセルの赤という色彩効果も評価してほしい)。
これがぼくの俳句だ。多彩な文体、自由な発想、卑俗な素材(笑)、繊細な言語感覚。何より心の豊かさ、優しさ、美しさ。
でも里霧さんの俳句には負けるんだな。ハイジさんにも。理由はわかっている。句歴は浅いが、ぼくは文章のプロだからだ。

凍死体というのはぼくのオリジナリティと思っていたら、入院中に読んだ本でこんな江戸時代の短歌(狂歌)を見つけた。

・寒き夜に裸になりて寝たならば明くる朝は凍え死ぬべし(鍋島光茂)

ぼくの俳句の勝ちだが、ちょっと悔しかった。さすがに寝タバコ俳句は前代未聞だろうけどね(笑)。

M浦さんには来週お見舞いハガキを送る。無難な文面しか書かないのは彼女も承知してる。検閲があるからね。
病気への理解、包容力、優しさ、生きる希望…あとまあ年齢、経歴、知性とルックスってのもあるだろうが(笑)ぼくを見る彼女はキラキラしてた。男を見つけた女の輝きはもうさんざん浴びてきている。