「佐伯さんに可愛い彼女ができますように」ときみはメールで言った。「だってそうじゃなきゃ思い切れないもの…」と電話で言った。「今度また入院したら、また女ができるぜ」「きっとそうね(笑)」とも話したね。きみは本当に可愛い。
連絡再開後、きみは「大好き」とは言っても「愛してる」とはぼくに言わない。それも仕方ないことだ。
退院の別れ際、両手を握りしめてきた彼女の目はぼくの言葉を求めていた。耳元に唇をつけて「きみは最高だ。いい女だ。最初から好きだった。一目惚れだ。付き合おう。病気なんかなんだ。おれの女になってくれ。一生きみを愛しぬく」
もしそんなことをしたら、彼女はどうにかなってしまっただろう。
だから実際はあっさりと「乗り切れるね?」「うん、できる…」というやりとりで別れた。ぼくの最初の恋人とも「…キスしていい?」「…うん」だったのを思い出した。
二人の両手の長さ分離れた握手だった。
「所有物だから大事にする優しさ」と「自立した同士が支えあう優しさ」は違う。彼女はそれがわかっている女性だ。
でも思わずキスしてしまった女の子はこれまできみだけ、たぶんこれからも。
きみはぼくに永遠をくれた。だからぼくはもうきみと会えなくても生きて行ける。
これは別れのメールじゃない。だから俳句や女の話も書いた。ぼくがどんな人間か、どんなにきみを愛しているかを知ってほしいから。
それじゃ。きみからの来信を待ってこのメールを送る。
佐伯和人(きみの作家、3月11日記)