女難の話はおしまい。あれ以上詳細にエピソードを並べても繰り返しにしかならない。堀口優子を回避して、なんとか無事に退院してきた。
誰一人「だったら結婚しちゃえば?」とは言わなかった。こんなことで心を痛める責任はないのだが、つきまとってくる堀口を適当にあしらい逃げ場に落ちつくたびに自分が卑怯な人間に思えてならなかった。ふた言だけで足りたのに。ぼくはあなたが好きじゃない。療養に専念したい。
ぼくにとって最大の女難は退院後だったので病棟スケッチからは離れる。
精神病棟の入院は一生出られない、という先入観があるそうだ。ぼくは鈍いので考えたこともなかった。
最初の入院は処方薬の過剰効果で昏迷状態になり1か月入院。お次はデイケアの女性の妄想で通学(?)を止められ躁に達してリバウンドの鬱(これが双曲性=躁鬱と単曲性=鬱の違い)のどん底で入院した一昨年、入院期間は3か月。堀口に求婚された。「ザ・漱石~全小説全一冊」を3回読んだ。
3回目は教会でいさかいがありぼくは調停役に立ってアジ演説して切腹してその日から数日間酒浸りになった(三島由紀夫も躁鬱病でパーソナリティ障害だ。演説が失敗に終るのを見越してちゃんと介添人を立てて自殺した。そこまで考えなきゃ。ぼくなどお粗末なものだ)。それで主治医の命令でアルコール依存症の専門病棟のある精神病院で3か月間の学習入院してきた。これもある意味女難と言えば言える。いさかいの中心は女性信徒たちだったからだ。
さらに入院中にぼくに口説かれていると言い出した女性患者が2人いた。自称UCLAで外科医資格を17歳で取得の25歳(未婚の母でもある。履歴に整合性がない)、もう1人は元FBIの52歳(自称36歳)。誰もがあきれた。佐伯さんは誰にでも親切で優しいんだから、口説こうとかそんな下心なんかないわよ。
学習入院は林間学校みたいなもので、一般の精神病棟とも学習時間以外は混合だったので人間観察にはもってこいだった。
精神病院は社会的にはドヤ街やホームレスの救済機関の働きも果している。引き取り手や入居先が決まらないために退院できない患者も多い。これを「社会的入院」と呼ぶ。
アル中お勉強入院を除いて、確かに入退院の新陳代謝は病棟患者の1割程度だ。入院したら退院できない、という先入観はそこから発したのだと思われる。この問題は改めて考察したい。する。