人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

訳詩「スカンクの時間」

 ここに訳出したのは第二次世界大戦後のアメリカ現代詩を代表するロバート・ロウエル(Lowell,Robert/1917-77)の第4詩集「人生研究」(1959)の追尾を飾る一篇で、影響力は55年のアレン・ギンズバーグ「吠える」と双璧をなす。

「スカンクの時間」 ロバート・ロウエル

ノーチラス島の世捨人、このお婆さんは
大金持ちの相続者で、冬でも小屋でスパルタ式に乗り切る。
彼女の羊はいつでも海の上で牧草を食べる。
息子は村のカトリック教会の主教。彼女の小作人
この村初めての村長。
彼女は耄碌している。

ヴィクトリア朝さながらの
階層性プライヴァシーを
渇望する彼女は
自分の海岸に面したすべての
目ざわりなものを買い上げて、
そのまま朽ちるにまかせる。

この季節は病気だ--
ぼくたちは夏の百万長者を失った、
L.L.Beanのカタログから飛び出したような
男だったが、彼のヨットも競売にかけられ
ロブスター漁師たちが買い上げた。
ブルー・ヒルはもう赤ギツネ色の紅葉。

そして今はオカマのペンキ屋が
秋に向けて店を華々しく模様替えする。
オレンジ色のコルクの浮きでロブスター網はいっぱい、
靴の修理台と錐もオレンジ色。
でもこの仕事は儲からない、
いっそ結婚でもするか。

ある暗い夜、
ぼくの2ドア・フォードが丘の頭蓋を登った。
恋人たちの車を探した。灯りを落して、
車同士がその体を寄り添っていた、
ここは墓地が町を覆う場所……
ぼくの頭は変だ。

どこかの車のラジオがめそめそと鳴く、
「愛よ、おお軽はずみな愛よ……」聞こえる、
ぼくのふさぎ込んだ心が、自分自身の
のどを絞めるみたいに、すべての血液がすすり泣く……
ぼく自身が地獄だ。
ここには誰もいない--

スカンクだけだ。月の光を浴びて
なにか食べ物はないか探している。
裸足で表通りを歩く。
白い縞模様、憑かれたように赤く燃える目が、
トリニタリアン教会の、チョークのように乾いた
尖った塔の下を進む。

ぼくは裏口の階段の一番
高い所に立って濃厚な空気を吸う--
母親スカンクが子供の列をぶらさげてゴミ箱をあさる、
くさびのような頭でサワー・クリームの
カップを突っつき、ダチョウの尾を垂らし、
彼女はけっして怯えない。