人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

真似句亭日乗(7)出版業界の回想6

「大手にも移らず、他社にも行かずぶらぶらしていたんですか(笑)。やっぱり頑張りすぎて疲れちゃったんですか?」
「おっしゃる通りです。とにかく休みたかった。それでお金に困ったら働き口を見つければいいやと思っていました。いざそうなってあちこち当ってみると、面接の際にもうわかってしまう。ぼくは経験者だから版元との関係とか具体的な仕事の流れを訊くと苛酷な上に不自由で、しかも編集・制作している雑誌にまるで魅力がない。どこも保留にして、どうしようかと迷っていた矢先、都合よく以前の同僚たちから依頼があったのです(一応他社にも大手にも編集部に挨拶に行ってからの決定でしたが)。おさまるべきところへおさまったというか、また編プロに勤めていても「やっぱり前のところの方がましだ」と頭を下げに行っていたと思います。
独立してフリーライター&レイアウト・デザイナーになろうとは考えたこともなく(ぼくはその種の学校や講座で学んだことはなく、現場で独学しただけですから)、話が舞い込んできた時もまるで現実味がありませんでした。
ともあれ、ぼくは前の編プロでの手腕を認められてフリーライター&レイアウターになったわけです。確かにぼくらしい。積極的か消極的かわからない。女性関係でもぼくはみんなそんな感じでした(笑)。ぼくは風と音楽と非現実の精・アエリエルだから」
「(笑)というと水瓶座か天秤座でしょうか?お仕事はずいぶん楽しんでいらしたんですね」
「蟹座(Cancer)です。7月5日。水回りはいつもキレイにしておくタチです。愛読書はヘンリー・ミラーの「北回帰線(Tropic Of Cancer)です(ウソ)。
ジャン・コクトーに、何度激しい前線に出ても傷ひとつ負わないで生還してくる青年兵士の戦争小説(もちろん第一次世界大戦です)がありました。青年は知的障害者で、戦争ごっこと現実の戦争の区別がつかなかったのです。やがて青年にこれは現実の戦争だと思い知らせる事件が起き、無知という祝福を奪われた青年は次の出撃で戦死します。(この話そのままのレイ・ブラッドベリの短篇小説がありました。たぶん剽窃ではないでしょう。知的障害と無垢というのは通俗的だけど、否定し難い発想だから)。
ぼくのフリーライター時代はその繰り返しでした。…そう、大手に移らなかった漠然とした理由もありました。次回はそこからお話します」