人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

高橋新吉詩集「戯言集」(8)

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今回の前書き解説。
「お気づきの通り、ダダには根本的にタブーとの内部矛盾があります。タブーへの否定を突き詰めていくと主体も自己否定を起こして消滅する。そうするとタブーは一気に熱狂(ファッショ)へ傾倒する。そういうダダイズムファシズム危険な関係というのがあります。これだけの説明じゃ全然わかりませんね(笑)。それは第二次世界大戦にあたってヨーロッパでも日本でもありました。『戯言集』にも突然素朴な人間愛が現れます。それがファッショに高まると短絡的な愛国主義になる。ダダイズムファシズムはそういう逆転現象の極端な形です。しかも悲劇的なのは、理想主義的・禁欲的・自己追求的な詩人ほどファッショに陥りやすいと歴史が教えてくれます。そういう危険性があるのです」

『戯言集』

45

私は今何と言う苦しい気持で生きているかを誰も知らない 誰にもわかって貰えない事だ
私は今何を考え 何を夢みているかを誰にも知って貰う事の出来ない事だ
私は事実何も考えてもいなければ 何事も夢見ていない

46

あなたの考えは凡て 死の恐怖から出発している
だから正しいとは言えない
私は何も外に考えて居らない
此の牢の中から出て行きたいのだ

47

あまりに何事も大事に取扱い 思い過ごすな
何事も
自分の死も 子供の死も 兄弟の死も 親の死も
それらの事を 蝿のヒッタ糞のように
又は曇った日の音楽のように考えろ

48

生きていて下さい 命を粗末にとりあつかわないで とは誰しも思っている事だ
だが他人の命を粗末にないがしろにしないで 生きている人は一人も居ない 又生きられるものでもない
我々の知恵も力も凡ての本能も 只自己擁護と永続とに役立ち 分別される丈のものであるようだ

49

死に向かって行く態度 之は好くない

死とよそよそしくするにも及ばないが 死と富にあまり近接し過ぎる事も好くない
死に圧倒されて 阿呆になった男の言った事だ
死とは私のものじゃない 貴君のものだ

50

私は死ぬまで此の牢屋の中から出る事が出来ないか
死ぬまで此んな辛い生活をしなければならないか
此の不安は二六時中私の頭脳から消え去らない
(以下次回へ)