「これだけ見事に、表現も的確で内面性も豊かな詩を書いている人がなぜ精神障害者として3年間の監禁治療を強いられたのか？お父さんの自殺から、自分が詩人の道に進んだからだと苦しみが高じて、それが重度の統合失調症の症状を示すようになったようです。しかし詩を読む限り(しかも37の通りなら、入院中に書いている)思考は明晰で、詩としても見事です。この詩集を取り上げたのはまさにそれが永年の疑問だったからでもあります」
『戯言集』
51
ミイラ取りがミイラになったような工合に 八幡の薮知らずに這入ったような工合に 私はどうもがこうが叫ぼうが 誰も取り合わないような目にあっている
此れで私は感謝して満足して生を終るべきであるか
52
物の成長を見る事 それは我々には楽しみだと言える
しかしながら草が繁茂し 樹木の実が熟するのも それは我々の屍体が腐敗するのと同じ行程であって 時の流れに抗する事が出来ない事を思わす丈ではないか
53
あなたが先に死のうが
私が先に死のうが 心おきなく死ねるようにしておきましょう
54
死は私ばかりを狙って居るのじゃない
ところで青年諸君 死は今私の腹の中に逃げ込んでかくれているんだ 石でもって 叩きしゃいでくれたまえ
55
死の準備はしとかなくちゃならんし
バケツは修繕しなければならん
56
下駄を履いた足だけを 世の中に出して見せるのだ
太陽のそばへもそれで以て歩いて行くのだ
57
凡てを新しくする事 此れは必要だ 凡てを固定せしむなかれ と云うよりも 凡て固定しているものは一つもない
ところが此れは大変ないつわりだと私は思う
凡てが固定しているのだ 一切が宿命だとも思える
58
私の考えは 言葉に現す事が出来ない
適当な言葉が見つからないのだ
お互いに死ぬまで生きて居りましょう
あなたは其のかわり めしを炊いて毎日食べさせて下さい 私はじっと遊んで居りますから
59
生きている事は滑稽な事だぞ 馬鹿者共
生きている事は滑稽な事だぞ 馬鹿者共
生きている事は滑稽な事だぞ 馬鹿者共
生きている事は 滑稽な事だ
(以下次回へ)
