メンバー写真もプロフィールも一切不明。人数も担当楽器も不詳。西ドイツでコミューン生活を送りながら透明ヴィニール・ジャケットのデビュー作「ファウスト」1971とイラスト9枚入り黒ジャケットの第二作「ソー・ファー」1972をパトロンのウヴェ・ネッテルベックの出資・プロデュースで大手ポリドールから発表。翌年イギリスへ渡り新興のヴァージンと契約、ドイツ時代の未発表録音から廉価盤販促用の急造アルバム「テープス」1973発売(メンバー未公認)、同年「ファウスト4」発表、1973年秋全英ツアー、1974年春ネッテルベックのパトロン離脱により解散。解散ライヴでは演奏はせずステージ上で卓球を行う。86年に「リターン」、88年に「ラストLP」の2作が71年~75年の未発表録音から編集発表される。以上がファウスト(Faust,1971-1975)について日本で知られているすべてだった、1998年の来日公演までは。
そう、ファウストのメンバーは存在していたのだ。98年以降アルバム発表も10作近く、世界一謎だったバンドも謎ではなくなった。若手や中堅からも生ける伝説としてリスペクトされ、リミックスやコラボ作品まで出している。
だが復活後は音楽からも謎が消えてしまった。大味なノイズ系パンクになってしまい、現代音楽やフリー・ジャズ、ガレージ・パンク、行進曲、ドイツ民謡やアシッド・フォークのごった煮からなにが飛び出してくるかわからない70年代のファウストではなくなってしまった。来日公演ではチェーン・ソーを振り回し客席まで発煙筒の煙に包まれて、判別できる過去の曲は2、3もなく、伝説の復活をこの目で見ようと集まった満席のお客さんはみんな泣いたという。ちなみに雑誌インタヴューで伝説の解散卓球ライヴを訊かれて、答えは-覚えていないそうだった。
しかし欧米での復活ファウスト人気は高く、このまま汚点を増やしながら継続するのかと思うと暗然たるものがある。そのくらい70年代ファウストの伝説は魅力的で、中古輸入盤では「ファウスト4」(実はバーゲン・コーナーで安く買えた。1,200円くらい)以外は10万円とか30万円とかとんでもないレア盤だったのだ。なのでみなさんファウストは「4」から入りましょう。現行盤は未発表CDつき2枚組で1枚のお値打ち盤です。内容もこれが一番ポップかな。