人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Faust -The Faust Tapes (Virgin, 1973)

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Faust - The Faust Tapes (Virgin,1973) Full Album : http://youtu.be/cqWm_hDRluc
Recorded Wumme, June 1971-June 1973
[Original LP Track listing]
(Side A)
A1. "Untitled" - 22:37
(Side B)
B1. "Untitled" - 20:49
[2001 CD release Track listing]
01. "Exercise - With Several Hands on a Piano" (Faust) - 0:52
02. "Exercise - With Voices, Drum and Sax" (Faust) - 0:21
03. "Flashback Caruso" (Sosna) - 4:01
04. "Exercise - With Voices" (Faust) - 1:48
05. "J'ai Mal Aux Dents" (Sosna) - 7:14
06. "Untitled" (Faust) - 1:03
07. "Untitled (Arnulf and Zappi on drums)" (Faust) - 1:42
08. "Dr. Schwitters - Intro" (Faust) - 0:25
09. "Exercise (continues track 1)" (Faust) - 1:11
10. "Untitled" (Faust) - 1:18
11. "Untitled" (Faust) - 0:50
12. "Dr. Schwitters (Snippet)" (Faust) - 0:49
13. "Untitled (Arnulf on drums)" (Faust) - 1:03
14. "Untitled (Arnulf on drums)" (Faust) - 0:47
15. "Untitled (all on saxes)" (Faust) - 4:33
16. "Untitled" (Faust) - 2:18
17. "Untitled (Rudolf)" (Faust) - 0:34
18. "Untitled (Rudolf)" (Faust) - 0:51
19. "Untitled (Rudolf)" (Faust) - 1:15
20. "Untitled" (Faust) - 2:28
21. "Untitled" (Faust) - 0:20
22. "Untitled" (Faust) - 1:13
23. "Untitled" (Faust) - 0:59
24. "Stretch Out Time" (Sosna) - 1:35
25. "Der Baum" (Peron) - 3:49
26. "Chere Chambre" (Peron) - 3:07
[Personnel]
Faust ;
Werner "Zappi" Diermaier - drums
Hans Joachim Irmler - organ
Arnulf Meifert - drums
Jean-Herve Peron - bass guitar, vocals on "J'ai Mal Aux Dents", "Der Baum" & "Chere Chambre"
Rudolf Sosna - guitar, keyboards, vocals on "Flashback Caruso" & "Stretch Out Time"
Gunter Wusthoff - synthesiser, saxophone
(Other contributors)
Kurt Graupner - engineer
Uwe Nettelbeck - producer, cover artwork, vocals on "Exercise - With Voices"

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 (2001 Reissue "The Faust Tapes" CD Liner Cover)
"The Faust Tapes is a 1973 album by the German krautrock group Faust. The album sold well in the United Kingdom (50,000 copies) because of a marketing gimmick by Virgin Records that saw it go on sale for the price of a single which sold at 49 pence . This exposure introduced British audiences to Faust." (English Wikipedia)

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 (1998 Reissue "The Faust Tapes" CD Front Cover)
 曲目データをご覧になっただけでも訳がわからなくなった方もいらっしゃると思う。このアルバムがレコメンデッド・レーベルからLP再発された1980年には高校1年生だったから、何か知らないけどオルタナティヴ・ロックの源流みたいな前衛バンドらしいと音楽誌で読み、スロッビング・グリッスルやキャバレ・ヴォルテールみたいな音楽を想像して探してみた。新装再発されたばかりの『テープス』よりアメリカ盤の『ファウストIV』1973の方が見つけやすかった。中古盤でも新品でもたいがいの輸入レコード店にあったからだ。しかもカット盤(バーゲン品)ばかりだった。
 カット盤とは何かというと、在庫処分のためジャケットの隅に長方形の切り抜きやパンチ穴、または端の三角を切って、傷物商品として半額以下で売る、というのがLP時代のバーゲン品では行われていたからだ。特に輸入レコード店でもない普通の町のレコード店で一列くらい小さな輸入盤コーナーがあると、そんな中にも『ファウストIV』が混ざっていたりして、1200円程度の値段で売られていた。当時ですらもう7年も前のマイナーなレコードだから、ラジオでもかからないし持っている友人もいない。つまらないレコードに少ないおこづかいを使うと後悔するから悩んだが、『ニューミュージック・マガジン』(現『ミュージック・マガジン』)のレコード評で日本盤発売時にレビューで100点(当時は100点満点制のレビューだった)と知り、好みはともかく聴いてみる価値はあるだろう、とカット盤の『ファウストIV』(旧邦題は『廃墟と青空』)を買ってみた。新品再発輸入盤の『テープス』より安かったし、初期2作の『ファウスト』1971、『ソー・ファー』1972もレコメンデッドから79年に再発されていたはずだがすぐ廃盤になっていて、すでに再発盤にもプレミアがついていた。

 期待していた音楽とは『ファウストIV』は相当違ったものだったし、全然楽しませてくれる音楽ではなかったが、少年時代というのは妙な克己心が周期的に湧いてくるもので、それを読書や音楽趣味ではなく試験勉強に向けていたら少しはマシな人間になっていたかもしれない。とにかくファウストはどう聴いたらいいのかもわからない音楽だった。意地になって繰り返し聴くが一向につかめないのだ。折りよく『テープス』も安い中古盤で手に入れ、これが『IV』に輪をかけて呆然とするようなアルバムだった。『IV』も五線譜だけのジャケットというクールな外観のアルバムだったが、それでもA面3曲、B面5曲の曲目表記が裏ジャケットにあった。再発盤『テープス』は緑色のヴィニール・コーティングだけで何の絵柄もないジャケットで、しかも曲目表記すらなかった。聴いていても今何の曲かもわからない。メンバーと担当楽器のクレジットもない。
 レコメンデッドからは86年に未発表録音集『Munic & Elsewhere』が出て、88年にさらに未発表録音集『The Last LP』が出た間には初期2作も普通の価格で入手できるようになっていた。80年から88年で外貨レートが大きく変わり、輸入盤流通量も増えていたのが時代的な背景にある。ファウストは現代音楽家トニー・コンラッドのアルバムとダダイズムのポップ・トリオ、スラップ・ハッピーのアルバムにも参加していたが、バンドとしては存続中に4枚、解散後に発掘録音を2枚残したのがすべてだった。『The Last LP』は全9曲がすべて同一曲『Party』の別テイクで、この曲は『テープス』の『J'ai Mal Aux Dents』と同一曲だが、当時は『テープス』にはCD化からついた曲名表記がなかったから『テープス』のA面のあの部分は『パーティ』という独立した曲だったのか、という驚きがあった。それにしても同じ曲の別テイク9曲で1枚のアルバムを組むなど、ロックのバンドでは異例なことだろう。

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 (2001 Reissue "The Faust Tapes" CD Front Cover)
 ファウストは音楽ジャーナリストのウーネ・ネテルベックによって作られたバンドだった。現存メンバーは否定しているが、残されたアルバムを見るとネテルベックの役割はマネジメントやプロデュースにはとどまらない。初期2作と『テープス』はネテルベックによって最終的な編集がなされ、ファウストの演奏は素材にすぎなかったとすら言える。『テープス』にはネテルベックのヴォーカルのみによるサウンド・コラージュ曲すらある。バンド主導でアルバム制作が進められたのはヴァージン・レーベルでの初アルバム『IV』が初めてで(『テープス』は未発表録音をネテルベックがプロモーション用に編集したもの)、『IV』の録音中にバンドは事実上解散が決定してしまう。
 ネテルベックはレコード契約に動いていた二つの学生バンドから6人のメンバーを選抜してファウストと名づけ、巨額の契約金を確保してメンバーを廃校になった小学校校舎を借りてレコーディング・セッションと共同生活に用い、2年間で『ファウスト』『ソー・ファー』『テープス』と『ミュニック&エルスホェア』『ザ・ラストLP』に収められる録音を行った。『ファウスト』と『ソー・ファー』は大手ポリドールからリリースされ、特殊アルバム・ジャケットやカラーイラスト歌詞カード封入などの豪華仕様とプロモートにもかかわらずまったく売れなかった。音楽的には初期の『フリーク・アウト!』から『アンクル・ミート』までのフランク・ザッパの影響が大きく、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドからの影響も感じられる。『ファウスト』はA面2曲・B面1曲の構成だがどれも10曲近い断片的な曲をコラージュしたもので、『ソー・ファー』は明解に全9曲の独立した楽曲が収められたアルバムだった。これは母体となった学生バンドが一方はインプロヴィゼーション指向、一方が楽曲指向だったため、と1997年の再結成ファウストの来日メンバーがインタビューで説明している。

 再結成ファウストは1990年にライヴ・アルバムをリリースし、94年に復活後初のスタジオ・アルバム『Rien』を発表して現在も活動している。再活動後はネテルベックとの共同作業はなく、ネテルベックは2007年に逝去している。再結成メンバーはジャン=エルヴェ・ペロン(ベース、ヴォーカル)、ハンス・ヨアヒム・イルムラー(キーボード)、ヴェルナー・ディーアマイアー(ドラムス、パーカッション)を中心とし、この3人はインプロヴィゼーション系バンドに属していたらしい。
 楽曲指向のバンド出身だったのはルドルフ・ゾスナ(ギター、キーボード、ヴォーカル)、グンター・ヴューストホフ(サックス、キーボード)、アルヌルフ・マイアート(ドラムス)の3人と類推されるが、CD化以前はメンバー名が6人並記されているだけ、かろうじて『ソー・ファー』に作曲者名が記載されているだけで、ヴォーカル曲の作曲者がゾスナだからゾスナがヴォーカルなんだろうな、くらいしかわからなかったのだ。『ソー・ファー』冒頭の『イッツ・ア・レイニー・デイ、サンシャイン・ガール』はシニカルなパンク・ポップの名曲だが、声だけでゾスナとわかる『テープス』冒頭(正確には短いサウンド・コラージュ曲2曲を導入部にした3曲目)でシド・バレット時代のピンク・フロイドをさらに洗練させたようなバラードの名曲が『フラッシュバック・カルーソ』という曲名だとはLP時代にはわからなかった。

 また『ザ・ラストLP』で『パーティ』という曲名とわかった曲が『J'ai Mal Aux Dents』というフランス語タイトルの曲だとは思わなかった。なにしろアナログ盤ではA面とB面に分かれているだけだったので何曲入っているのかもわからず、曲の区切りもわからないので、突然無駄にプログレになる部分が12曲目の『ドクター・シュヴィッターズ』だともわからない。だいたいA面とB面を合わせて26曲入り、と理解するには編集が断片的すぎて曲の単位をなさないものも多い。メンバー自身はこれはデモテープ段階の録音から編集されたもので正式なサード・アルバムと認めていないらしく、『パーティ』に限らず『ファウストIV』や『ミュニック&エルスホェア』収録曲の原型かな、と思うようなフレーズが他にも少し出てくる。しかし断片的すぎてわからないのだ。
 そうすると、結局これはファウストのアルバムだがファウストとはネテルベックによるバンドということになって、『ファウスト』も『ソー・ファー』もミュージシャン全員を統括しているアルバムの作者はネテルベック以外にない。ジョン・ランドゥとブルース・スプリングスティーン、サンディ・パールマンブルー・オイスター・カルト以上にプロデューサーの意思が作り上げたアルバムだろう。しかもこれは、ロックのアルバムというより何だかロック・バンドを素材にサウンド断片を集めたアート作品としか言うしかないようなもので、そこが復活後の、メンバー自身によるファウストと決定的に異なる。ネテルベックがどういう意図でファウストを運営していたかを考えると、現存メンバーの否定的な発言も肯ける気がする。