人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ジャック・フェデール「面影」

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芸術運動には「あとひとりだれだっけ?」という人が結構多い。ロシア五人組でキュイの曲は聞いたことがない。フランス六人組プーランクの歌曲とオネゲル交響曲しか知らない。
「フランス古典主義詩的リアリズム五大作家」という、なんかむかつく映画史上のカテゴリーがあるのを最近知った。お国自慢の臭いがする。「ジャック・フェデールはその五大作家のひとりである(あとの四人はジャン・ルノワール、ジュリアン・デュビビエ、ルネ・クレールマルセル・カルネ)」サイレント初期からデビューし、トーキー後も「外人部隊」「女だけの都」を残して対戦中に亡くなったフェデールを、まさに対戦下の「天井桟敷の人々」のカルネと並べるのは無理があると思われる。

しかしこれまで見たことあるのは「外人部隊」のみ。深夜テレビの字幕放送で、当時すでに50年も前の映画だったが胸に沁みた。筈見恒雄「映画作品辞典」から引こう。

外人部隊(仏1933) 派手好きな女のために公金を横領して外人部隊に身を投じた男が、嘗ての女と声や性格はまるで違うが顔は瓜二つの酒場女(二役)を見出すことによって始まる第二の人生。アメリカに渡って振るわなかったフェエデが帰仏して、一躍フランス映画界の最前線に復活した記念すべき作品。

また「女たちの都」にも通常の倍の紙面を割き、

○女たちの都(仏1935) 17世紀初頭。スペイン軍の略奪に苦い思いを持つ町が、またしてもスペイン軍がここに一夜の憩いを求めるとの知らせにひねり出した苦肉の策。不甲斐ない男たちに代って町長婦人の指揮下女性が歓待に努め、翌朝無事にスペイン軍を送り出す。豊麗な庶民風俗の中に散りばめられた人間性の機敏を鋭く突く笑いと諷刺の妙、最上級の古典劇を思わせる気品と格調、フェデエ畢生の名作はもちろん映画史上不滅の傑作と言っても言い過ぎではない。

フェデールの初期作品は淀川長治氏も晩年まで賞賛していた処女作「女郎蜘蛛」1921(画像1)が代表作になるようだが、第三作「面影」'Visages d'Enfant'1925(画像2・3)を見ることができた。
これは山間の村の村長の死から始まる人間ドラマを村長の遺児の視点から描いた静謐な作品で、事件らしい事件もなく2時間を見せる発想と力量には恐れ入ったこういう映画には時代を越える力があるのだ。