人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

寝たばこの思い出

寝たばこで死にかけたことのある人はあまりいないと思うが(死ぬ人はいる)、経験者として言うとあれはやろうと思ってするものではない。気がつくと布団が燃えているのだ。もちろん布団は自然発火するようにはできていないから、煙草という火種がちゃんとある。昔なら蝋燭から火が移ることもあっただろう。

ぼくの場合は正確には寝たばこではなく、知らないうちに自分で放火したのだった。数週間以来の躁鬱混合状態で意識が混濁していた(夢遊病的な状態だった)。煙草を喫いながら部屋中をうろうろし(幻覚や幻聴もあった)、灰皿まで遠いのでそろそろ寝るつもりで敷いてあった布団の上に煙草を置いたらしい。

椅子に座ってぼーっとしていると、敷き布団から盛大に煙が上がっているのに気づいた。そういえばさっき煙草を置いた気がする。ほんの数十秒だったはずだが確実に着火していたのだ。45年(当時)も生きると失業も離婚も不倫も、刑務所暮しも精神病院入院もひととおり経験してきたが、布団の発火は初めてだったので意表を突かれた。

最初はコップ、次にはヤカン、それでもくすぶっているのでベランダにぶらさげ激安駅前老朽賃貸マンションのユニットバスからたらいを持ち出して水をかけたが、まだ不安がある。割り箸でさぐってみると芯まで火が通っている。見た目は五百円玉くらいだが灰がひどい。布団の繊維の密度を思い知った。再び水をかける。
夜中なので近所に響かないように気を使って灰を叩いた。また水を両面からかける。これでいいだろう。そのはずだ。

煙の臭いにむせて目を醒ました。大腿のあたりで布団が燃えて、掛け布団の中に煙が充満し顔まで上がってきている。一酸化炭素を大量に吸ってふらふらしながらベランダに布団を出して水をかけた。焦げ跡の大きさは倍になって、芯どころか貫通していた。しばらく待って触診してみた。握りこぶしが突き抜けた。滲みこんだ水が熱湯になっていた。布団の繊維の保温性を思い知った。寝起きでいきなりする作業としては、これはかなりきつかった。

それが平成22年12月1日の朝で、通院日だったので布団の消火を慎重に確認してからかかりつけの精神科医院に予約通りに着いた。福祉課の担当者が待合室にいた。診察はなかった。ぼくはそのまま福祉課担当者の車で送られ隣町の総合病院に入院した。もちろん精神病棟だ。