Andrew Hill(1931-2007,piano)。
アンドリュー・ヒルをご紹介するのは初めてなので、追補10ではなく(49のレッド・ガーランドに続き)50人目のジャズマンとすべきかもしれない。だがヒルは巨匠というには知名度も人気もごく限られた人で、この連載ではデビューから一時引退する56年~70年の全作品をご紹介するが、CD時代になって初めて発表された作品もあり、この時代の全アルバムがCD発売されたとはいえ限定盤や廃盤も半数に及び全貌がとらえがたい。不人気だからだ。
ヒルは長年37年ハイチ生れとされていたが、逝去してから31年シカゴ生れと訂正された。デビュー作はシカゴの地元レーベルより、
So In Love(画像1)56
-で、全7曲中2曲オリジナルのピアノ・トリオ作品。ベースが後にアート・アンサンブル・オブ・シカゴのマラカイ・フェイヴァースなのが注目される。
オリジナリティや完成度では同年録音のセシル・テイラーやビル・エヴァンスのデビュー作に遠く及ばないが、洗練されたスタンダード曲をやりながら黒っぽい感覚があり、あか抜けなさがいい感じになっている。ただしこの作品だけからはヒルの将来性は未知数というしかない。
次にヒルが録音に起用されたのは6年後で、
Roland Kirk:Domino(画像2)62.9.6
だった。このカーク初期の名作は62年4月ニューヨーク録音の4曲(ピアノはウィントン・ケリーとハービー・ハンコック)、ヒル参加の同年9月シカゴ録音の6曲からなり、名演もシカゴ録音のタイトル曲,'Time','Lament'に集中している。筆者もこのアルバムの好演でヒルの名前を覚えた。
次の録音は、コルトレーン影響下のヴィブラフォン奏者として注目された、
Walt Dickerson:To My Queen(画像3)62.9.21
-への参加で、A面17分半のタイトル曲、B面はスタンダード2曲の大作。ベースはジョージ・タッカー、ドラムスはアンドリュー・シリルという強力メンバーで、ヴィブラフォン+ピアノ・トリオだがMJQとは対極の音楽性。「ドミノ」も「トゥ・マイ・クイーン」も60年代ジャズでは必聴クラスの名作だから、これらに抜擢されたヒルの強運と実力がわかる。