人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Jimmy Woods Quintet/Sextet - Awakening! / Conflict (Contemporary, 1962/1963)

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Jimmy Woods Quintet - Awakening! (Contemporary, 1962)
Recorded at Contemporary Studio, Los Angeles, California, September 13, 1961 and February 19, 1962
Released; Contemporary M 3605/S7605, 1962
All compositions by Jimmy Woods except as indicated
(Side one)
1. Awakening : https://youtu.be/cWTxxOl8dmU - 4:10
2. Circus (Louis Alter, Bob Russell) : https://youtu.be/AH899xoTBW8 - 4:25
3. Not Yet - 7:59 *no links
4. A New Twist : https://youtu.be/SB9km1J-PIY - 3:40
(Side two)
1. Love for Sale (Cole Porter) : https://youtu.be/n7Dj2a4Ghn8 - 6:42
2. Roma - 5:15 *no links
3. Little Jim : https://youtu.be/Pu0DC-w3Zgk - 5:48
4. Anticipation : https://youtu.be/4nbNLIKo5xk - 4:01
[ Personnel ]
Jimmy Woods - alto saxophone
Martin Banks, Joe Gordon - trumpet (tracks A1, A2, A4, B1 & B4)
Amos Trice (tracks A1, A2, A4, B1 & B4), Dick Whittington (tracks A3, B2 & B3) - piano
Jimmy Bond (tracks A1, A2, A4, B1 & B4), Gary Peacock (tracks A3, B2 & B3) - bass
Milt Turner - drums
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Jimmy Woods Sextet - Conflict (Contemporary, 1963)
Recorded at Contemporary Studio, Los Angeles, California, March 25 & 26, 1963
Released; Contemporary M 3612/S7612, 1963
All compositions by Jimmy Woods
(Side one)
1. Conflict : https://youtu.be/qvDqA4Jf1bo - 5:45
2. Coming Home : https://youtu.be/B2SJ-97kVDQ - 6:00
3. Aim : https://youtu.be/q53zRkPCfYU - 7:55
(Side two)
1. Apart Together - 6:43 *no links
2. Look to Your Heart : https://youtu.be/Pd0Ejso3YvI - 5:49
3. Pazmuerte - 6:30 *no links
[ Personnel ]
Jimmy Woods - alto saxophone
Carmell Jones - trumpet
Harold Land - tenor saxophone
Andrew Hill - piano
George Tucker - bass
Elvin Jones - drums

 先にジョー・ゴードンのアルバム『Lookin' Good!』1961を取り上げた時、なかなかのクインテット作品でリーダーのトランペットとバックのピアノ・トリオは素晴らしいがアルトサックスが……と力量に疑問を投げかけたのだが、その問題のアルトサックス奏者ジミー・ウッズ(1934~)は2枚のリーダー作をキャリアの初期に残している。60年代中期にはチコ・ハミルトン・クインテットのメンバーになりアルバム2枚に参加しているが、それきりたまに演奏活動している程度の情報しかないようだ。
 はっきり言ってウッズがデビューできたのはコンテンポラリー社が先にオーネット・コールマンのデビュー作と第2作を引き受けていたからで、だがオーネットはニューヨークに進出してアトランティック社で大成功をおさめてしまった。オーネットと並ぶ大型新人エリック・ドルフィーもオーネットを追ってニューヨークに移ってしまった。ロサンゼルスのコンテンポラリー社が今度こそはと期待をかけたロサンゼルス・ジャズ界の新人アルトがジミー・ウッズだったのは想像に難くない。1962年にはコンテンポラリーと並ぶロサンゼルスのジャズ・レーベル、パシフィック・ジャズもオーネット/ドルフィー系の新人アルト、アール・アンダーサをデビューさせている。
 ? (Original Contemporary "Coflict" LP Side 1 Label)

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 アンダーサの唯一のアルバム『Outa Space』は明らかにドルフィーの『Outward Bound』1960影響下のアルバムだったが、力強く緊張感に満ちたスリリングなアルバムになった。ただしアンダーサは保釈中にアルバムを録音して再び塀の中の人になったらしく、リハーサル・テイクの記録があるという第2作は幻の未制作盤になった。だがジミー・ウッズは音楽活動の支障となる問題を持った不遇アーティストではなく、ゴードンの『Lookin' Good!』のライナーに早くも初リーダー作の予告が掲載されるほどレーベルにも有望視されていた。
 全8曲中コール・ポーターのB1を除く7曲がウッズの自作による初リーダー作『Awakening!』は、全8曲中6曲のリンクしか引けなかったが、だいたいのところはおわかりいただけるかと思う。クインテット編成のオリジナル作品ということでも『Lookin' Good!』とのつながりを感じるし、事実このアルバムの半数に上る1961年9月13日セッションは1961年7月の『Lookin' Good!』と同一メンバーで行われている。ウッズにとって『Lookin' Good!』は秋には取りかかる自分自身のアルバムのための学習の場だったに違いない。ゴードンの曲作りやアレンジ、バンドの掌握方法が『Awakening!』にも反映しているのが、聴き較べてみるとよくわかる。その点ではオーネットやドルフィーからの間接的影響どころではなく、本作はジョー・ゴードンに多くを負っている。
 ? (Original Contemporary "Coflict" LP Side 2 Label)

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 ゴードンの『Lookin' Good!』で聴けるウッズは、最良の演奏では『Let Freedom Ring』1962~『Demon's Dance』1967の時期のジャッキー・マクリーンと瓜二つのサウンドを、音色とフレージングの両面で予告していた。『Let~』以前のマクリーンのアルバムからもしウッズが学んでいたとして、マクリーンにとって『Let~』がそれまでの延長だが思い切った作風の尖鋭化がなされたように、まだ『Let~』すら録音されていない時点でウッズがマクリーンの尖鋭化に先回りするような演奏を成し遂げていたのは不思議な気がする。マクリーンの活動していたニューヨークのジャズ界とウッズのいたロサンゼルスのジャズ界、さらにアメリ三大都市であるシカゴのジャズ界ではそれぞれ異なる流派があって、マクリーンはチャーリー・パーカー直系の、典型的なニューヨーク・スタイルのアルトサックス奏者だった。
 良い演奏の時は名前を伏せて部分的に聴かされれば誰もがマクリーンの演奏と思ってしまうようなウッズだが、1曲を通して聴く、またアルバムを通して聴くとやっぱりマクリーンとは違うことに気づく。60年代までのマクリーンにはどのアルバムにも強い訴求力があった。ウッズの演奏に訴求力がないとは言わないが、マクリーンのようにエモーションの高揚がもたらす必然としての尖鋭的演奏とは言えないのではないように聴こえる。マクリーンのそれは精神性から現れた表現だったが、ウッズの場合あくまでサウンドにおける表現主義でありエモーションは別にある。それが永遠の俊英と一介の奇才の差を分けたのではないか。
  (Japanese Victor "Coflict" Paper Sleeve CD Front Cover)

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 デビュー作『Awakening!』は先輩ジャズマンたちの後押しでどうにかなったジミー・ウッズだが、第2作となると本格的なリーダーシップが求められる。その第2作『Conflict』冒頭のタイトル曲を聴くとなかなか優れたサックス・ソロが先発で、普通先発ソロはリーダーが取るからウッズも進境いちぢるしいな、と思ってしまう。次にカーメル・ジョーンズ(トランペット)のソロで、この後ホレス・シルヴァークインテットに加入するくらいだからやはり輝かしいソロを聴かせる。お次、ヘナヘナのサックス・ソロが来るので慌ててメンバーを確かめると、テナーがベテラン、ハロルド・ランドで、このへなへなソロはどう聴いてもアルトだから、先発ソロはランドだったのだ。ちなみにピアノはブルー・ノートからデビュー前のアンドリュー・ヒルで、ブルー・ノート以前のヒル参加作は他にローランド・カーク『Domino』1962.9、ウォルト・ディッカーソン『To My Queen』1962.9しかないから貴重な録音になる。ベースのジョージ・タッカーは1965年に早逝するが、ホレス・パーラン・トリオでピアノやドラムス以上の存在感を聴かせた伝説の剛腕ベーシスト。そしてドラムスはエルヴィン・ジョーンズが入っている。早い話ピアノ、ベース、ドラムスのリズム・セクション、カーメル・ジョーンズとハロルド・ランド参加だけでも聴いておきたいアルバムなのだ。
 エルヴィンはジョン・コルトレーン・カルテットのドラマーだが62年3月7日録音のアルバムの後、7月7日のライヴまで体調不調で休養をとっていた(ピンチヒッターはロイ・ヘインズが勤めた)。転地療養だったのかもしれないが、3月下旬にロサンゼルスでこのアルバムに参加していたのは注目される(ヘインズはヒルのブルー・ノート作品のレギュラー・ドラマー、エルヴィンもヒルの『Judgement!』1964で再会する)。ジャケットにもでかでかとエルヴィン参加を謳っているが、たとえば70年代の新人ロック・アーティストのアルバムにキース・ムーンジンジャー・ベイカー、ジョン・ハイズマンやジョン・ボーナムが参加するようなものだから当然だろう。コルトレーン・カルテット在籍時にもエルヴィンには多くのゲスト参加作があるが、コルトレーン・カルテットはニューヨークが拠点だから、エルヴィンのロサンゼルスでのゲスト参加は珍しい。
  (Japanese Victor "Coflict" Paper Sleeve CD Liner Cover)

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 アンドリュー・ヒルも50年代前半はウォルト・ディッカーソンやアンドリュー・シリルとロサンゼルスで活動していたそうだが、大半はシカゴで演奏しており、62年のカーク、ディッカーソンのアルバムの好評でシカゴから出て本格的なアルバム・アーティストになろうとしていたところだった。ブルー・ノートからのヒル参加作第1作はヒル自身のアルバムではなくハンク・モブレーのアルバム(63年10月録音)、そして63年11月にヒル自身のアルバム『Black Fire』を録音する。なんだか無力感に襲われるのは、エルヴィン参加のブルー・ノートの諸作にしろ、アンドリュー・ヒルのアルバムにしろ、ウッズが全力を注入した『Conflict』など軽く一蹴してしまうような作品なのだ。トランペットのカーメル・ジョーンズ、テナーサックスのハロルド・ランド、ベースのジョージ・タッカーにアンドリュー・ヒルエルヴィン・ジョーンズなら、ランドかヒルかエルヴィンがリーダーになればこの5人だけで、ジミー・ウッズ入りの『Conflict』より数等優れたアルバムが作れただろう。ジャズではリーダー以外はみんな良い、というアルバムもある。
 出来自体は『Conflict』は楽曲やアレンジはデビュー作より凝っている。だがロサンゼルス界のジャズマンがランドとカーメル・ジョーンズだけで、リズム・セクションの3人は出向だからか、前作のように全員ロサンゼルスのジャズマンならではの親和性よりも緊張感を感じさせる。ランドはニューヨークから来たマックス・ローチクリフォード・ブラウンクインテット経験者だし、カーメル・ジョーンズも2年後にはニューヨーク進出を果たしたが、ウッズひとりはロサンゼルスのジャズ界を出ることがない人だった。プロとしてのキャリアもロサンゼルスのチコ・ハミルトン・クインテットで終わっている。『Awakening!』も『Conflict』も27、8歳の新鋭ジャズマンの作品としては相当力作なのだが、ジョー・ゴードンのような、またハロルド・ランドやカーメル・ジョーンズのような安定した実力までは感じられず、エルヴィンやヒルの参加作としては低調な作品と言わざるを得ない。ウッズの調子を比較すると『Awakening!』の方が力みすぎず、良いと思わせられる。ジャズにはフランク・モーガンのように20代で消息不明になったのが30年ぶり、50代で活動再開したアルトサックス奏者もいるのだが、1934年生まれ・81歳のウッズのカムバックはないだろう。アルバムだけが青年のミイラのように残されている。