タイトルは小津安二郎監督の松竹映画、昭和27年の作品に拠る。小津というと一昨年イギリスの映画研究誌で「東京物語」'53が358人の世界の現役映画監督の投票により世界映画No.1の傑作とされた巨匠だが案外正歿年は1903年生、1963年の誕生日に亡くなったから満60歳、まだ初老を迎えたばかりだったのだ。
小津初期の「生まれてはみたけれど」はフランスのジャン・ヴィゴ監督作「新学期・操行ゼロ」と並んで映画史上初めて子供の世界を描いた画期作と名高いが、昭和七年の小津の方が一年早い。初期のフィルム散逸作以外はほぼ全作品を観たと思う。プロレタリア文学転向期の作風を連想させる36年の「一人息子」、独創的なスタイルを一気に確立した49年の「晩春」、原節子と有馬稲子の対照が鮮やかな57年の暗い異色作「東京暮色」、「晩春」のリメイクといえる逝去前年の遺作「秋刀魚の味」なども印象深い。「東京物語」に二年先立つ家族崩壊のホームドラマ「麦秋」は衝撃度や鋭さでは「東京物語」以上かもしれない。
さて本題だが、差し入れにいただいた明太子茶漬けの素が実にうまい。お茶漬を食べない家庭に育ったが、単に両親がそういう食習慣だったからで今までお茶漬けの味を知らなかった。玉子かけご飯や梅干しもそうで、だから娘たちには妻や自分の食べないものも馴れさせた。だがお茶漬けはこれまで盲点だったのだ。
いいぞお茶漬け!乾燥わかめや桜えび、刻みネギなどもトッピングできるし、残念ながら今でも生玉子は駄目だが、猫舌だから冷めかけてから食べてもたいへんおいしく、冷やご飯さえあればすぐでき、麺類より消化も断然上だろう。
米飯は炭水化物だけでなく蛋白質やヴィタミンも豊富で、少なくとも同量のカップ麺より栄養価・バランスともに上質の食糧には間違いない。食欲がなくても楽に食べられて手間いらずだし、つなぎに食べる軽い食事には最適。カロリーも適度だし、いわば即席おじや(土鍋でレンジにかければかき玉茶漬けにもできる。だったら食べられる)だから満腹感もある。二、三日分非常用をキープしておいて、お茶漬けで食生活を改善するのもいいかもしれない。
というわけで食欲不振の男性、ダイエットを志す女性にはお茶漬けを食べながら小津映画の鑑賞をお奨めする。昔の著作権切れ映画なので9枚組1800円でDVDが出たりしているのだ。