人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記129

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・4月2日(金)雨のち曇り
(前回より続く)
「非常ベルばあさんの時も第二病棟(二階)と第三病棟(三階)の行き来が制限されてみんな困る、という事態になったが、これは病院側の体制にも問題がある。夕食前から翌朝までは当直看護婦は第二と第三の兼務になり、基本的には第三病棟のナースステーション常駐になる。第三は急性期か慢性化患者の病棟なので、病状的には安静している第二病棟の患者は、夕食後の服薬、就寝前の服薬を第三病棟まで飲みに行く。ナースステーションの構造には憶測が飛びかっており云く、三階と二階のナースステーションの位置は同じだがどうも内部の奥に、患者からは見えない位置に緊急用のシューターがあるのではないか?」

「と言うのは、三階の窓口で用事を頼んで二階に降りてくると、もう同じ看護婦が二階の窓口にいる。階段を使っていない、しかもその早さということは、二階と三階のナースステーションは内部でつながっているとしか考えられず、螺旋状または垂直の移動用の柱、または棒がステーション奥に設置されており、急用で三階から二階に降りてくる看護婦は消防士のようにすとん、と降りてくる。絶対そうだ、そうとしか考えられん、とKくん。Fさんなども普段は彼の突飛な着想など苦笑して聞き流すのだが案外思い当たるらしい。まさかそんな、忍者屋敷じゃあるまいし、と半信半疑の様子でいると、いや佐伯くんだって一緒だったろ、あの早さで他に考えられるか?うーん、おれたちだってSiくんと立ち話して寄り道食っていた気もするし。してた時もあったけどさ」

「そのうち訊こうぜ。訊くだけ無駄だよ、当たっていたらとぼけられるし、外れだったら笑われる、どのみち本当のことはわからないよ。そうかなあ。―で、案の定またもや危険人物対策で就寝前の服薬は個別に解錠・施錠され厄介なことになる。この晩の後悔は喫煙室でうっかりSkに拘置所経験をしゃべってしまったことだ。それで寝つきが悪くなりはしなかったが、あいつは単に世渡り上手なだけで、形而上的な理解力はない。Mさんは実業の世界にいた人だからかえって形而上的な内面がある。別々にだが、FさんとKくんにもそれはない。Smくんはやや資質があるが、物事の本質から目をそらしている。退院しても交友を持ちたい人はいない。その人たちなりの幸運を祈るだけだ」