人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記163

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(人名はすべて仮名です)
・4月8日(木)晴れ
「グループワークで毎回発言をパスしているのは、テキストの通称『青本』の中から酒歴体験を振り返るのだが、そこにはありとあらゆる問題飲酒の事例が上げられているわけだ。朝起きたらまず飲んで移動中や職場でも飲む。四六時中飲み続ける。飲酒前後で意識が途切れている。火気の取り扱いや車輌の運転で事故を起す。階段から転落したり路傍の溝に落ちたりする。その他もろもろ。渡辺さんも同じような体験を話していたし、きっと特別なことではないんだろうな、とは思っていたが、どれかが、ではなくアルコール依存症の人はどれもを経験しているのだ。グループワークのたびに困った。当てはまる体験がないのだ」

「一日一升のワインを三日間飲んでいたことはある。それで鬱状態になったから訪問看護師や掛りつけ医院に率直に、私生活でこういうトラブルがあったから三日ほどやけ酒を食らったと打ち明けたので入院することになったのだが、家で静かに晩酌していただけなので一時的な大量飲酒以外の問題飲酒体験はなかった。さすがに一升だと半日がかりの晩酌で連続飲酒には違いないが、寝起きから飲み寝るまで飲む、とまでは飲まない。それに飲んで外出したり、外出して飲んだりしないからせいぜいキッチン台の角に膝をぶつける程度の事故しかない」

アルコール依存症へのプロセスや健康被害アルコール依存症患者の常態についてはこの一か月の学習でおおよそわかった。自分の肝機能低下もあの時の大量飲酒をきっかけに始まったのも理解した。どうせ三か月間飲めないなら今のうちに、と入院待機中の一か月は普段より多く晩酌していたのも確かだ。だが授業や講座で習った通りがアルコール依存症患者の常態ならば、予備軍でこそあれまだ自分は依存症患者の域には達していないのではないのではないか」

「グループワークから戻って、また渥美さんから話をうかがって酒歴原稿に手を入れ、晩はまたAA講演会だから夕食前にさっさと風呂を済ませたい。今週の入浴順は女性が先で、男性は食事時間とぶつかる。女性は他の全員が済ませてから金田さんが一人で入る。札を裏返して、男の人もういいわよー、と、それをやりたくて最後に入ってるんじゃないかというくらい楽しそうな声だ。ただし今日はもう一騒ぎある。紛失または盗難事件が発生したのだ」(続く)