人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(37)

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ここはレストランなのだということは、看板の文字が読めないスナフキンでもマークで気づいていましたし(宿屋は)、漠然とパーティの余興に田舎芝居でもやっているんだな…と思いながらムーミンとフローレンのやり取りを客席から離れた壁にもたれて見ていましたが、それは椅子にかけていたら見えないスナフキンの膝に誰かが座るかもしれないからでした。そうすればきっと座った誰かは、スナフキンの存在を押し除けて腰をおろしてしまうでしょう。
同じ空間を同時に別々の存在が占有することはできません。スナフキンの存在はその瞬間に消滅してしまいます。見えない、ということはそういうことか、とスナフキンはうそ寒い気持になりました。女湯を覗き放題とか、そういうことじゃないんだな。しかも、
・宿屋にはなかった
それにこの土地には通貨という概念もないのがわかった。あの若い男、執事の息子というスノークには屈辱的な扱いを受けたが、宿屋のおやじも通報義務に従ったまでだろう。要するにおれは入国許可証を所持していなかったのだが、契約の時点で入国許可が下りたと思っていたのが早計だったのだ。
というより、そもそも入国許可が問題となるなど事務所の誰もが思いもしなかった。ましてや通貨という概念が存在しないとなると、契約書にあった滞在中の生活の保証とは賃金の前払いという意味ではない。契約書の作成には立ち会っていないから確かなことは言えないが、おそらくこちらが用意した書式に先方が了解しただけなのだ。
通貨がないなら賃金はどうなる?もちろん賃金の奴隷になりたい者はいない。そしてわれわれを奴隷にしているのは賃金だが、では賃金を廃止すればいいとでもいうのか?
優秀な測量技師が欲しい、という依頼で技師会からおれが選出された。おれは優秀な測量技師なのだ。酒や女より測量が好き。だが、ただ働きはしない。そのための契約であるはずだ。
…そんなことももちろん重大だが、今はとにかく食い物をどうにかしなくては。スナフキンはこの土地にも少しはある商店を見かけて住民が買い物をする姿は見ましたが、どうやら財産を担保に掛け売りしている様子でした。おれは資産を証明できないどころか、姿すら相手に見えない!
すると、スナフキンは店中にひどい悪臭が漂いだしたのに気づきました。料理が運ばれてきたのです。