人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記240

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(人物名はすべて仮名です)
・5月17日(月)晴れ
(前回より続く)
「一服済ませると尾崎さんは当番の各部屋をまわって先週担当の部屋以外から人集めをし、冷蔵庫の整理は今朝一度坂部が池田くんに教える口実で嫌がらせに処分だけしていたから再整理とはいえ遅く始めた分遅く終り、時間がかかったのも整理というよりは現況の確認をしておき坂部の勝手な手出しを牽制するためだったからだ。被害にあった尾崎さんや大芝くんはそうしなければ気が済まなかったのは仕方あるまい。坂部は坂部で相手を怒らせてむきになったらひとまずおとなしくしておいてニヤニヤしている。いっそ尾崎さんが殴ってしまい、連帯責任で全員でボコボコにしてもよかったと思う」

「冷蔵庫整理が終了してから三田さんの酒歴発表が始められたので開始予定はおくれたが、同時発表予定の河出が酒歴未完成で来週送りになったので午前中は十分余裕があった。河出はこれが何度目かの入院で再入院するたびに悪化しているようだから、酒歴も簡単には済まないのだろう。再入院したところでアルコール依存症を克服しようとはまるで考えていないから、今回だって泥酔して焚き火に飛び込み火だるま、という入院せざるを得ない事情がなければ再入院したところで意味はなく、今回の入院でアルコール依存症から足を洗う気があるとはとても思えない」

「断酒しようと思っていない人間が言えた義理ではないが、こちらは入院して自分がアルコール依存症予備軍の段階と自覚できた以上絶対依存症には進まないように生活習慣を改める覚悟はある。ひとまずそれでは通らないからアルコール依存症と認めて断酒を宣言しているが、自分の場合無理な完全断酒はかえって飲酒欲求を強くしてしまうだろう。この段階なら、まだたしなむ程度に普通の晩酌で満足できる状態に戻れる。その段階で入院したのは幸運だったともいえる」

「午後は環境整備から始まる。慣れた人と不慣れな人の采配をとっていると、尾崎さんから、佐伯さんいなくなると困るなあ、後継者作っていってくださいよ、と言われる。二か月前ならともかく、冬村さんですら最後はお手上げで退院して行ったのだ。後継者などと指名されたわけではなく病棟一の古株なのと他に仕切る人がいないからやっているだけで、これから後継者などと伝授する余裕は時間的にもない」
(続く)