人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Wapassou-"Salammbo" et "Ludwig"

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 一年をおいて、ワパスーのクリプト・レーベルからの第二作は『ボヴァリー夫人』1857で知られるギュスターヴ・フロベール(1821~1880)の第二長編『サランボー』1862を題材にしたしたものだった。これは紀元前三世紀のカルタゴの内乱を収拾した女神官サランボーの悲劇をリアリズム小説の手法で描いた実験作で、よほどの忍耐力がないと読めないことでも知られる。日本文学では生田春江による擬古文訳に着想を得て横光利一邪馬台国卑弥呼サランボー役に『日輪』1923を書き、文壇デビュー作となった。フランスではフロベールは文豪だが一般に読まれているのは『ボヴァリー夫人』と短編集『三つの物語』くらいだろう。ただしフロベールは長編小説五冊、短編集一冊が全作品なので、読まれないでも『サランボー』ならフロベールくらいの知識は一般教養だろう。ナレーションにサランボーとマトウ役のクレジットがあるが、女神官サランボーが密命で近づき逮捕させるのが内乱の首謀者マトウで、マトウの公開処刑に立ち会ったサランボーは悶死する、という筋書きくらいは知られていると思う。
 このアルバムもAB面『サランボー』パート1、パート2という大作で、サイト上にはパート1しかなかったからそれを載せるが、楽章の切れ目に当たっているのでこれだけでも完結感はある。前作『ミサ・ニ短調』よりもスケールの大きい楽想・演奏になったのがわかる。
 惜しむらくはサイトから拾えなかったパート2はさらに雄大なもので、次作『ルートヴィッヒ二世』のテーマがすでに出てくるのもパート2の中盤になる。ワパスーの場合基本的にはインスト音楽なので、曲を使い回しても大胆なアレンジ違いで別の作品になっている。

Wapassou-"Salammbo"Parte 1.(France,1978/Face A)
https://www.youtube.com/watch?v=G1SZ4EC5WG8&feature=youtube_gdata_player
Freddy Brua-Orgue,Piano Electrique,Piano,Synthetiseur Eminent
Karin Nickerl-Guitare,Chant
Jacques Lichti-Violon
Monique Fizelson-Vocaux
Fernand Landmann-Son
Gisele Landmann-Light Show
Martine et Pierrot Vieuwille-Salambo et Matho

 そしてワパスーはいよいよ最高傑作、『ルートヴィッヒ二世、不死なる王』を発表する。前作からはサウンド・エンジニアに加えステージ照明スタッフ(同姓だから兄妹かご夫婦か)もメンバーになった。ワパスーの演奏メンバー三人はステージ自体は地味だろうからライヴでは照明効果は演出に不可欠だったのだろう。プロモート映像普及前の、商業的には小規模のバンドだったので、映像作品が残されていないのが惜しまれる。素っ頓狂な音色でシンセサイザーとヴァイオリンがオクターヴ・ユニゾンで奏でる冒頭のテーマから、ギタリストの姉妹?により垢抜けないスキャットを交えてアナログ盤AB面に渡る35分のアルバム・タイトル曲はワパスー史上最高の名曲となり、1分20秒の間奏曲を経て2分10秒のスキャット曲でアルバムは終わる。未発表だった6分半のボーナス・トラックはベースとドラムスの入った割と普通のプログレ・インストで、『新ロマン派への賛歌』とタイトルだけはいいが、アルバム本編からは蛇足。
 この後ワパスーはレーベルを移籍して"Genuine"80、"Orchestra 2001"86の二枚のアルバムを残して消息不明になる。この二枚は一度もCD化されておらず(ファーストから『ルートヴィッヒ二世』までの四作は三回以上新装版CDが出ている)、同一バンドの作品とは思えないほどワパスーの面影はないらしい。サイト上にもアップしている人はいないし、筆者も"Genuine"を一度中古盤で見たが四半世紀後には稀覯盤になるとは思わず買わなかった。ジャケットも写真で女性ヴォーカリストが右手にでかでかと、バンドメンバーが左手にちんまりと収まった普通のポップスのアルバム・ジャケットみたいなもので、普通ロック・バンドは年間200回以上の公演と万単位の枚数のアルバム売り上げがないと赤字だが、ワパスーは『ルートヴィッヒ二世』に至るまでずっと赤字バンドだったろう。"Genuine"で商業的成功を狙ったが失敗しアマチュアとして細々と続け、"Orchestra 2001"で返り咲きを狙ったのだが『新ロマン派への賛歌』程度の出来だったのではないか。それを言えば70年代のワパスーは非商業的なアマチュアリズムの作り出した音楽だが、35年以上経っても聴き継がれているのだ。今年発売された新作で2050年も聴かれる音楽がどれほどあるだろうか。

Wapassou-"Ludwig-Un Roi pour l'Eternite"(France,1979/Full Album)
https://www.youtube.com/watch?v=9WQUB-6cKGM&feature=youtube_gdata_player
Face A-Ludwig:Parte 1.
Face B-Ludwig:Parte 2./Le lac de Starnberg 1886/L'adieu au Roi
Bonus-Track/Hymne au Nouveau Romantisme
Freddy Brua-Claviers
Karin Nickerl-Guitares
Jacques Lichti-Violon
Gisele Landmann-Light Show
Fernand Landmann-Son
Veroniqud Nickerl-Vocaux
Marc Dolsi-ARP Synthetiseur dans "L'adieu au Roi"