人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Helden a.k.a. Richard Pinahs

 エルドン(Heldon)は大学の哲学教諭を本職とするリシャール・ピナスによるフランスのロック・バンドだがメンバーは流動的で、レギュラー・メンバーによるアルバム制作はディスコグラフィーの5.(邦題『終わりなき夢』)~7(邦題『スタンバイ』).までの期間しかない。『終わりなき夢』の録音と同時期からピナスは個人名義のアルバム制作・発表を始めており、『スタンバイ』発表以降はエルドン名義の活動は2001年の8.まで行われなかった。その後70年代の発掘ライヴが2組発表されたが、ピナスの活動は80年代から現在まで8.以外は個人名義で行われている。昨2013年には単独来日し、日本のミュージシャンとエルドンの再現ライヴも行われた。日本では70年代から大手キング・レコードによりアルバムがリリースされているが(発掘ライヴ2組も日本独自の発売による)、欧米ではインディーズ・レーベルからしかアルバムのリリースがされておらず、知名度は低い。音楽専門サイトでの紹介は以下の通り。
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[Profile] :
French prog/space rock band formed in 1974 by Richard Pinhas.
Members:
Alain Bella??che, Alain Renaud, Aurore , Didier Batard, Fran??ois Auger, Georges Gr??nblatt, Maurice G. Dantec, Patrick Gauthier, Richard Pinhas
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[Discography / Albums] :
1.Electronique Guerilla(Disjuncta,1974)
2.Heldon II "Allez-T??ia"(Disjuncta,1975)
3.Third "It's Always Rock'n'Roll"(Disjuncta,1975)
4.Heldon IV "Agneta Nilsson"(Urus Records,1976)
5.Un R??ve Sans Cons??quence Sp??ciale(Cobra,1976)
6.Heldon 6 / Interface(Cobra,1977)
7.Stand By(Egg,1979)
8.Only Chaos Is Real(25pm,2001)
9.Well And Alive In France: Live In Nancy 1979 ?(2xCD, Album, RM/Captain Trip Records,CTCD-551/552,2006)
10.Live Electronik Guerilla: Paris 1975-1976 ?(CD, Album, RM, Pap/Captain Trip Records,CTCD-550,2006)
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 2001年の単発作はピナス80年代以降の活動の延長として、70年代エルドンの7作から1曲ずつご紹介したい。テクノ系のロック音楽としても英米、ドイツや日本のバンドとも違う、特異な音楽性を持っていたのがわかる。デビュー作と第二作はロバート・フリップ(exキング・クリムゾン)とブライアン・イーノ(exロキシー・ミュージック)のフリップ&イーノ名義の共作『ノー・プッシィフッティング』1973(全英アルバムチャート1位)と『イヴニング・スター』1975に強い影響を受けたものだった。バンド名はノーマン・スピンラッドのメタSF小説『鉄の夢』1972で、パラレル・ワールドのアドルフ・ヒトラーが執筆した設定の作中作の主人公の名前から(ドイツ語で「英雄」の意)。曲名にも哲学教諭らしい皮肉が込められている。アルバム・タイトルの『エレクトロニーク・ゲリラ』はウィリアム・バロウズの長編小説『ワイルド・ボーイズ』1974より。ピナス自身が、エルドンのコンセプトはドイツのエレクトロニクス・ロック(タンジェリン・ドリーム『エレクトロニック・メディテーション』1970など)と方向性が異なる、音楽による暴力、ゲリラ的なものを指向している、と発言している。

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Helden-"Back To Helden"(from"Electronique Guerrilla")
https://www.youtube.com/watch?v=YYPbS-QEzi8&feature=youtube_gdata_player
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 セカンド・アルバムの巻頭曲の曲名はキング・クリムゾンのセカンド・アルバム"In the Wake of Poseidon"1970のもじり。

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Helden-"In the Wake of King Fripp"(from"Allez Teia")
https://www.youtube.com/watch?v=tPEhakR0CsU&feature=youtube_gdata_player
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 サード・アルバムは多数のゲストを迎えたセッションからなる二枚組大作で、キング・クリムゾン風のインプロヴィゼーションでは初めてドラムスを加えた曲が登場する。

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Helden-"Mechammment Rock"(from"It's Always Rock'n'Roll")
https://www.youtube.com/watch?v=33m1sIjuD-Q&feature=youtube_gdata_player
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 四作目はA面が『パースペクティヴ』パート1~3、B面がパート4で統一され、エルドンとしては初めてアルバム全編の構成に優れた作品となった。

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Helden-"Perspective II"(from"Agneta Nilsson")
https://www.youtube.com/watch?v=qJ3D4oO8s4c&feature=youtube_gdata_player
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 第五作『終わりなき夢』から『インターフェイス』『スタンバイ』がエルドンの金字塔だろう。それまではリシャール・ピナスがシンセサイザーとギターを兼任していたが専任シンセサイザー奏者にパトリック・ゴーティエを迎え、ベースにディディエ・バタール、ドラムスにフランソワ・オジェを迎えた。バタールのベースでヘヴィなサウンドが実現し、ゴーティエとオジェはトップクラスのミュージシャンだった。アルバム名は有名なキング・クリムゾン海賊盤ライヴによる。裏ジャケットにはピエール・クロソウスキーニーチェ論が抜粋掲載されている。

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Helden-"MVC 2"(from"Un Reve Sans Consequence Speciale")
https://www.youtube.com/watch?v=AE7vGW4CrXg&feature=youtube_gdata_player
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 『インターフェイス』は前作では一気に奔放になった作風を整理した作品で、曲ごとのカラーを分けていく実験をしている。ピナスのギターはますますフリップ化してきた。

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Helden-"Interface(Part II)"(from"Interface")
https://www.youtube.com/watch?v=ZRL3I89su-U&feature=youtube_gdata_player
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 後期三作はどれもいいが、最高傑作はやはり『スタンバイ』だろう。全3曲、完全に曲のカラー分けに成功し、うちタイトル曲は脅威的にヘヴィなテクノ・メタルの極めつけで口舌に尽くしがたい。サイト上に公式アップされているのはアルバム中いちばん短くポップ(?)な曲だが、タイトル曲は2013年のピナス単独来日ライヴで完全再現した動画しかない(これもオフィシャル)。アルバム全編がヘヴィなのは『終わりなき夢』だが、エルドンの全アルバムから1曲とすればタイトル曲の『スタンバイ』、これはもう満場一致だが、1979年にこの曲は狂い咲きとしか言いようがなかった。それでも日本盤が発売され好評だったのはキング・レコードの洋楽ロック監修をされた高見ひろし氏の慧眼と、日本の物好きなリスナーの好奇心あってこそだった。ともあれ、『スタンバイ』まで到達すればピナスがエルドンというコンセプトを切り上げ、ソロ名義の活動に移ったのも当然という気がする。

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Helden-"Une Drole De Journee"(from"Stand By")
https://www.youtube.com/watch?v=Iee615Jq7Es&feature=youtube_gdata_player
"Stand By"(Richard Pinahs with Korekyojin,2013)
https://www.youtube.com/watch?v=MNlRkh_Q_u0&feature=youtube_gdata_player