人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Marion Brown-"November Cotton Flower" 1979

イメージ 1


Marion Brown-"November Cotton Flower" rec.1979.6.21 & 22
A1.November Cotton Flower
https://www.youtube.com/watch?v=gxGvSbHHWbg&feature=youtube_gdata_player
A2.La Placita
https://www.youtube.com/watch?v=7_H8hz0_KHA&feature=youtube_gdata_player
B1.Fortunato
https://www.youtube.com/watch?v=snv2MIjNW_s&feature=youtube_gdata_player
B2.Pleasant Street
https://www.youtube.com/watch?v=wA89WiweUP0&feature=youtube_gdata_player
B3.Sweet Earth Flying
https://www.youtube.com/watch?v=dWBd3MbYcpg&feature=youtube_gdata_player
*
 『ノヴェンバー・コットン・フラワー』はアメリカの黒人ジャズマン、マリオン・ブラウンが日本のヴィクター系レーベル、ベイステイトの制作で1979年に発表したアルバム。メンバーは当時マリオンが組んでいたレギュラー・バンドで、ニューヨークのスタジオで録音された。
 アメリカ南部のジョージア州アトランタ出身のマリオンにとって『ノヴェンバー・コットン・フラワー』というのは思いのこもったタイトルなのだろう。日本の農村なら「稲穂実る秋」という風情だろうが、綿花は稲のように区画もなくただ一面に、大地を覆う絨毯のように広がっている。タイトル曲を冒頭に、続けて楽しいラテン調の『ラ・プラシータ』の再演を含め全5曲すべてがマリオンの自作曲で、アルバムのクロージング曲『スウィート・アース・フライング』も74年の同名アルバムでアルバム片面分の組曲だった曲の再演だが、コンパクトにまとまったこちらのアルバムを好む人は多い。とにかくマリオン・ブラウンは日本のレコード会社がベスト選曲の新作を依頼し、そうして出来たアルバムも好評をもって迎えられる(欧米への輸出分もよく売れる)という恵まれた環境で活動していた。マリオンが本来は非商業的なフリー・ジャズのミュージシャンなのを思うと、この親しみやすい作風は強みでもあり、限界とも思える。だがマリオンのフリー・ジャズが軟弱なものでも『ノヴェンバー・コットン・フラワー』のようなアルバムが成果なら、大いに結構なことではないか。牧歌的でなごやかな風景を思い描かせる音楽だが、それは音楽の力による架空の世界でもあり、このアルバムならではの喚起力とも言える。作為性を感じさせずに虚構の風景を浮かび上がらせるのは相当な手腕がいるだろう。このミュージシャンにはそれができた。
*
 マリオン・ブラウン(1931~2010)はずっと長いこと1935年生れになっていた。年齢をサバ読みしていたジャズマンにセシル・テイラーやアンドリュー・ヒルがいるが、テイラーは自分から、ヒルは新人としては半端に晩成なのでレコード会社がサバ読みしたと思われる。マリオンの場合は65年にようやくレコード・デビューしているのでサバを読んだ。1931年生れではソニー・ロリンズジャッキー・マクリーンハンク・モブレーら、20代でしっかりしたキャリアを築いたハード・バップのサックス奏者と同年輩になる。マリオンは新しい感覚を持つニュー・シング(フリー・ジャズ)のサックス奏者としてデビューしたのだが、67年の第三作『ホワイ・ノット』でもサックスははっきり言って下手、ろくにスケールも吹けないアマチュア級の技量だった。それで1931年生れというのは恥かしい。
 それでもマリオンが、健康上の理由から90年のアルバムを最後に引退するまでに25年間に25枚の作品を残せたのは、演奏技術を補うだけのセンスがあったからだと『ホワイ・ノット』からA1『ラ・ソレーラ』を聴いてもわかる。カリプソ的な曲調は以後マリオンのお家芸になるが、ピアノにジャッキー・マクリーンのバンドのスタンリー・カウエル、ベースにセシル・テイラーのバンドのノリス・シローネ・ジョーンズ、ドラムスにジョン・コルトレーン・バンドのラシッド・アリというトリオがバックバンドだから、マリオンは美味しいところだけ吹いて、演奏時間の大半をサックス抜きのトリオに任せる。そしてまたおいしいところだけ登場する。この『ラ・ソレーラ』11分半のうち、マリオンのアルト・サックスは4分くらいしか出てこないのではないか。

イメージ 2


Marion Brown Quartet-"La Sorella(from "Why Not?"1966)
https://www.youtube.com/watch?v=sec-8JFNEMo&feature=youtube_gdata_player
*
 マリオン68年の第五作でオランダ録音の『ポルト・ノーヴォ』はマリオンのフリー・ジャズ時代の頂点をなすアルバムと定評があるが、オーネット・コールマンの65年トリオとの類似性が気になり、オーネットとマリオンではオーネットが一歳年長なだけだがなにしろフリー・ジャズのオリジネイターだけあって、大人と子供ほど違う。だが、しなやかで奔放だが強靭なオーネットに対して、マリオンはたどたどしくあどけない可憐さがあって、『ホワイ・ノット』から『ポルト・ノーヴォ』ではマールテン・アンテナのベース、ハン・ベニンクのドラムスの強力なサポートもあり、かなりアルト・サックスの音色も太くなったが、それでも攻撃的なフリー・ジャズにはならない良さがある。
 現行CDには2曲・20分以上のボーナス・トラックがついており、LPや旧規格CDにはなかったものだが、16分を越える"And Then They Dance"が本編の曲と同等以上に出来が良い。この曲が最初から入っていればなおさら良かったが、作風としては70年代後期からのマリオンにつながる曲で、当時はインパクトに乏しいと発表を見合わされたのかもしれない。好盤『ノヴェンバー・コットン・フラワー』も『ポルト・ノーヴォ』も、どちらもマリオンらしさという点では変わらない。

イメージ 3


Marion Brown Trio-"Porto Novo" rec.1967.12.14
A1.Similar Limits
https://www.youtube.com/watch?v=v_Pse2xDkuE&feature=youtube_gdata_player
A3.Improvisation
https://www.youtube.com/watch?v=5IUcZAESGd4&feature=youtube_gdata_player
B1.Qbic
https://www.youtube.com/watch?v=YM7Pk6lATaM&feature=youtube_gdata_player
B2.Porto Novo
https://www.youtube.com/watch?v=1fRqcLO5jVk&feature=youtube_gdata_player
CD Bonus Track:And Then They Dance
https://www.youtube.com/watch?v=POJYq4UepKs&feature=youtube_gdata_player