レッド・ツェッペリンがバンド存続中に制作・発表した最後のアルバムが『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』(1979年8月15日発売)。前作はライヴ・アルバム『永遠の詩』(76年10月)だがこれは同名のライヴ映画の公開に合わせたリリースで、内容は73年7月のコンサートからだった。スタジオ録音アルバムとしては『プレゼンス』(76年3月)から三年以上のブランクを置いた新作になり、やはり『ホテル・カリフォルニア』(76年12月)以来三年ぶりの新作となったイーグルスの『ロング・ラン』(79年9月)、ピンク・フロイドの『ザ・ウォール』(79月11月。前作『アニマルズ』は77年1月)と、大物バンドの寡作化が目立ってきた時期だった。
60年代には年間2作、70年代には年1作が標準だったのだが、入念なリサーチとプロモーション期間、長期の大規模ツアーと休養期間が常套化してアルバム発表が不規則になっているのは現在ではメジャー・レーベルのアーティストでも珍しくないが、ツェッペリン、フロイド、イーグルスら70年代の大物バンドも76~77年まではペースを守っていたものの80年代を目前にしてバンドのコンセプト自体が良くも悪しくも煮詰まってきていた。80年代間もなくイーグルスは次作のライヴ盤を出して解散、フロイドは実質的にリーダーのロジャー・ウォータースのソロ・アルバムといえる解散記念アルバムを出して解散、ツェッペリンは大規模ツアー中(正確にはヨーロッパ・ツアー後のアメリカ・ツアーのリハーサル中)の80年9月25日にジョン・ボーナム(ドラムス)が事故死(酩酊して吐瀉し窒息)し、解散発表ののち未発表曲をまとめたアルバムを出したら『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』より出来が良かった、という笑えない話もある。
さて、当時もあって今もあるロック系音楽誌といえば『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『Player』だが、それらは論評や音楽分析、網羅的な新作紹介、かなり内幕に突っ込んだ取材記事などに主眼を置いており、中高生の読者にとって魅力的なのは今は亡き『ミュージック・ライフ』と『音楽専科』だった。この両誌はまず最新グラビアとゴシップを楽しむ雑誌で、インタビュー記事なども中高生でも思いつくような質問しかしない。だがそれは中高生が知りたいようなことなので、前述の音楽誌が音楽観や演奏技法、音楽ビジネスなどについて訊きたがるのに対して『ミュージック・ライフ』や『音楽専科』は趣味や好きな食べ物や休みの日のすごし方などについて訊くのだ。
それでも『ミュージック・ライフ』と『音楽専科』は部数でも知名度でも圧倒的に差が開いていた。『ミュージック・ライフ』は置いていない書店のほうが少なかったが、『音楽専科』(略称『音専』…)は置いている書店のほうが少なかった。しかし固定読者もついていて、志摩あつこさんの「エイトビート・ギャグ」なんていう名物連載なんてものもあったのだ。
この画像はたしか79年の年末か80年の新春かに出た『音楽専科』の増刊号で、数年後に古本屋の店頭の100円均一で買ったが、『音楽専科』本誌で刊行告知は見たが新刊書店の店頭では見かけなかった、と思う。本誌ですら部数が少ないのだから増刊号ではなおのことだろう。せめてロバート・プラント(ヴォーカル)とのツーショットならともかく、ジミー・ペイジ(ギター、リーダー)単体で表紙にするあたりが『音楽専科』らしくて良い。当然自社取材の写真ではないだろう。『ミュージック・ライフ』のように専属カメラマンはいなかったはずだ。しかしバンド存続中に『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』リリース記念に発行されたレッド・ツェッペリン特集増刊号とは、はしなくも生前葬になってしまった趣きがあり、それを出したのがシンコー・ミュージック出版社ではなく音楽専科社だったのが感慨深い。
古本屋で一緒に買ったのが『ミュージック・ライフ』増刊号「ロック御三家大特集~キッス、クイーン、エアロスミス」で、キッスが『地獄の軍団』76.3、クイーンが『オペラ座の夜』75.11、エアロスミスが『ロックス』76.5が最新作だった時期だから(クイーンの『華麗なるレース』は76.12)76年の夏あたりにでたのではないだろうか。こちらは『ミュージック・ライフ』のグラビアからの未発表写真も満載で、資料的に価値があるのは現在のオフィシャル・プロフィールとの違いがかなりあることだ。文献的には現在は正確かつ綿密になっているが、逆に不正確で遺漏が多かった時期はバンド側が情報操作していたことがわかる。ミュージック・ライフがクイーン『シアー・ハート・アタック(クイーンIII)』1974.11、エアロスミス『闇夜のヘヴィ・ロック』75.4、キッス『地獄の狂獣(アライヴ!)』75.9ではなく、各々の次作『オペラ座の夜』『地獄の軍団』『ロックス』が出揃うのを待って御三家大特集の増刊号を出したのも鋭い。これらがクイーン、キッス、エアロスミス各々の最高傑作であることに異論はないだろう。
ツェッペリン増刊号も御三家増刊号も80年代初頭には古本屋の100均本だったわけだが、現在世界的にマニアの層の厚さを思うと、オークションにでも出たらどうなるかゾッとする。海外での取り引きのほうがすごいことになりそうな気がする。
残念ながらキッス・クイーン・エアロスミス御三家増刊号は別れた妻の友達に貸したら又貸ししているうちに行方不明になったという。だから女は信用が……。20年以上手元に置いて愛読していたのに、あー。
レッド・ツェッペリン特集号も30年あまり手元にあったのだが、ロック好きの同年輩のかたに先日差し上げた。もちろんツェッペリンは今でも大好きだが、喜んでくださるかたに差し上げたほうがいい。御三家増刊号の二の舞にはならないだろう。
あの『ミュージック・ライフ』増刊号なら買い直してもいいのだが、千円や二千円では無理になっているに違いない。だって76年のキッスとクイーンとエアロスミスをタイムカプセルに封じたような生搾りですよ、もう手にする機会はないんだろうなあ。