人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

The Butterfield Blues Band - East West (Elektra,1966)

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The Butterfield Blues Band - East West (Full Album) : http://youtu.be/dwMqBvBLJio
Released August, 1966 -Elektra : EKS 7315 / Recorded July, 1966
(Side one)
1. "Walkin' Blues" (Robert Johnson) 3:15
2. "Get Out of My Life Woman" (Allen Toussaint) 3:13
3. "I Got A Mind to Give Up Living" (traditional) 4:57
4. "All These Blues" (traditional) 2:18
5. "Work Song" (Nat Adderley) 7:53
(Side two)
1. "Mary, Mary" (Michael Nesmith) 2:48
2. "Two Trains Running" (Muddy Waters) 3:50
3. "Never Say No" (traditional) 2:57
4. "East-West" (Mike Bloomfield, Nick Gravenites) 13:10
[Personnel]
Paul Butterfield - vocals, harmonica
Mike Bloomfield - electric guitar
Elvin Bishop - electric guitar, lead vocal on "Never Say No"
Mark Naftalin - piano, organ
Jerome Arnold - bass
Billy Davenport - drums
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 バタフィールド・ブルース・バンドはシカゴのグループで、同じ1965年にデビューしたニューヨークのブルース・プロジェクトと並んで初の白人モダン・ブルース・バンドとされる。リーダーのポール・バタフィールド(1941~1987、ヴォーカル、ブルース・ハープ)はハウリン・ウルフ門下生の本格派ブルースマンで、バンドのキーパーソンは当時アメリカNo.1ギタリストと盛名高かったマイク・ブルームフィールド(1943~1981)だった。ブルームフィールドはブルース・プロジェクトのリーダー、アル・クーパー(オルガン、ヴォーカル)とはボブ・ディランの『ライク・ア・ローリング・ストーン』のレコーディング以来親交が深く、ディランのレコーディングはサイモン&ガーファンクルの黒人プロデューサーで、のちにフランク・ザッパヴェルヴェット・アンダーグラウンドなどを手がけるジャズ畑出身のトム・ウィルソンだったのも興味深い。バタフィールド、ブルームフィールド、クーパー、ディラン、サイモン&ガーファンクルらは白人でも人種比率では黒人同様に少数民族になるユダヤ系であり、ゲルマン=アングロ・サクソン文化圏では被差別民族だった。ジャズ・ミュージシャンでも白人の場合はほとんどがユダヤ系、アイルランド系、イタリア系だったのとブルースの場合も事情は変わらないということになる。
 ブルース・プロジェクトはニューヨークのブリル・ビルディング(ポップス=ティン・パン・アレー)系ミュージシャンがフォークに転身し、さらにモダン・ブルースに進んだバンドだったのに対し、バタフィールド・ブルース・バンドは初めからモダン・ブルースが出自だった強みがあり、フォークのレーベルだったエレクトラがバタフィールド・ブルース・バンドに目をつけたのが白人リスナーにもブルースに目を向けさせるきっかけになった。イギリスからのローリング・ストーンズ、アニマルズ、ヤードバーズらのブルース解釈はチャック・ベリーやボ・ディドリーらブルース出身の黒人ロッカーのフィルターを通したもので、実際のシカゴ・ブルース流儀とは言えないイギリス的洗練を経たものだったから、バタフィールド・ブルース・バンドはブルース影響下のロック・バンドのリスナーにも強いインパクトを与えた。
 バタフィールド・ブルース・バンドが日本に紹介されたのは1968年、すでにブルームフィールドが自身のバンド、エレクトリック・フラッグ結成のために脱退し、バタフィールド・ブルース・バンドももう一人のギタリスト、エルヴィン・ビショップ(1942~)在籍最後のアルバムでシカゴ・ブルースからメンフィス・ソウル・スタイルへの転換を計った時期だった。『イースト・ウェスト』の遅れた日本発売に先がけてミュージック・ライフ誌に見開き2ページにおよぶ紹介記事があり、「日本では彼らのことは一部の人にしか知られていませんでしたが」「(最近)ゴールデン・カップスが"Walking Blues"や"Get Out of My Life Woman"をとりあげているので、すでにご存知の方もいらっしゃるでしょう」とある。これらはジャガーズ、ダイナマイツらもレパートリーにしていた。このあたりからミュージック・ライフの新人紹介は、キャンド・ヒート、ジョン・メイオールズ・ブルース・ブレイカーズフリートウッド・マック、ヴァニラ・ファッジ、グレイトフル・デッドザ・バンドジミ・ヘンドリクス、ディープ・パープル……と、急速にロック色を強めていく。クリームはセカンド・アルバムまで「日本のファンには難しい」と発売を見送られたが発売されたら大評判になったことも、バタフィールドから後にエレクトラからデビューしたドアーズはアメリカでのNo.1ヒットからすぐに日本発売されたのもわかる。シングル・ヒットを出すバンドを取り上げたファン雑誌からアルバム・アーティストまであつかう音楽誌になったというか、1968年を境に、現在ならオルタナティヴ・ロックとされるようなバンドまで日本発売されるようになったことを反映しているのだろう。これらのバンドについてはジャズ雑誌や美術雑誌の方が紹介が早かった。
 『イースト・ウェスト』(日本盤68年9月発売、邦題『モダン・ブルースのアイドル』)はアルバム・レビューでも「今月話題のLP」のトップに取り上げられているが、「(アルバム・タイトル曲は)『フォレスト・フラワー』に似た感じのところもありますが、このレコードが発売された時、アメリカのジャズマン、特にギタリスト達は、どぎもを抜かれたそうです」とあり、『イースト・ウェスト』の発売翌月に録音され同年末発売されたチャールズ・ロイドのアルバムの方が先に日本ではヒットしていたのがわかる。また、「このアルバムのレコーディングは1967年」と事実誤認があり、実際はアメリカでは66年8月発売と丸々2年遅れた日本発売だから、意図的にサバを読んで比較的新しい作品に見せようとしたのかもしれない。
 『フォレスト・フラワー』からの影響は(同曲のスタジオ・ヴァージョンはすでにあったとはいえ)時期的にあり得ないが、『イースト・ウェスト』タイトル曲のワンコード・ブルースとインド~中近東ムードのシタール風ギターは65年9月録音・66年初頭発売のジョン・ハンディ『ライヴ・アット・モントレー・ジャズ・フェスティヴァル』のマイク・ホワイトのヴァイオリン、ジェリー・ハーンのギター、ハンディのアルトサックスのアンサンブルが直接的なヒントになっていると思われる。
 『イースト・ウェスト』の1966年8月発売はビートルズの『リボルバー』と同月で、この年ローリング・ストーンズの『アフターマス』は4月(アメリカ盤6月)、ビーチ・ボーイズ『ペット・サウンズ』とボブ・ディランの『ブロンド・オン・ブロンド』が5月、バーズの『霧の五次元』が7月で、新人のデビュー作ではラヴが4月、スモール・フェイセスが5月、フランク・ザッパ&マザース・オブ・インヴェンジョンとジェファーソン・エアプレインが8月、13thフロア・エレヴェイターズが11月、バッファロー・スプリングフィールドとクリームが12月とイギリスよりアメリカ優勢だが、中堅ではキンクスが『コントラヴァーシー』(2月)と『フェイス・トゥ・フェイス』(11月)、アニマルズが『アニマリゼーション』(7月)と『アニマリズム』(11月)、ヤードバーズが『ハヴィング・ア・レイヴ・アップ』(1月)と『ロジャー・ジ・エンジニア』(8月)と各々2作をリリース、寡作なザ・フーも『ア・クイック・ワン』(12月)でなんとか年内にアルバムを発表した。しかし66年12月16日に24歳のジミ・ヘンドリクスがデビュー・シングル『ヘイ・ジョー/ストーン・フリー』を発表しテレビ出演すると、66年はジミの年になってしまったのだった。
 だがジミに先がけて『イースト・ウェスト』があった。アルバム全部を聴くのが億劫な方は、こちらでアルバム・タイトル曲のみライヴ・ヴァージョンをお聴きください。クリームもデッドもクイックシルヴァーもイエスもオールマン・ブラザースも、みんなここから派生していったのがわかる。
The Butterfield Blues Band " East West " Live at Avalon Ballroom 1966: http://youtu.be/TnN6_I1z-2E
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 いくつか音楽サイトを当たってみて、これはなかなか、と思ったのはアメリカ版ウィキペディアやallmusic.comよりも、今回は音楽専門投稿サイトで秀逸な短評があった。このアルバムの『メリー、メリー』は誰もがモンキーズの曲と思うし、実際メンバー中唯一のミュージシャンだったマイク・ネスミスの自作曲だが、この評者の指摘通りモンキーズ版は67年2月発売のセカンド・アルバム収録だし、モンキーズのデビュー・アルバム発売と連続テレビ・ドラマ『ザ・モンキーズ』放映が66年9月12日であり、モンキーズは周知の通り架空のロック・バンドだからデビュー以前のライヴ実績などない。モンキーズにしてはハードな曲をまたヘヴィにカヴァーしたなあ、と思っていたが、モンキーズのデビュー以前にどういう経緯からかバタフィールドが初演することになったのだ。バタフィールド版の『メリー、メリー』はアーサー・ブラウン、ジェスロ・タル、ホークウィンドらサイケ系ブリティッシュ・ヘヴィ・ロックの手本になった気がする。投稿サイトからの短評引用の後にモンキーズ版『メリー、メリー』のリンクを追加しておいた。
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fairyeee Sep 26 2013(rateyourmusic.com)
 East-West by The Butterfield Blues Band is historically important for two reasons: 1) the 13-minute title track, which was considered an artistic leap forward ? not only within the band's career but in popular music in general; 2) the premiere of the Mike Nesmith-penned "Mary, Mary", the first ever performance of a Monkees song ? which, when finally released by The Monkees in January '67, misinterpreted as a cover. The latter isn't mentioned in pop history books as often as the former, but my point of view is slightly different from those of the typical pop history book writers, while I am interested in The Monkees with a great appreciation, not only as a commercial curiosity as usually.
 Well, this album obviously isn't my cup of tea, but much of it sounds actually quite all right. Adderley's "Work Song" is overlengthy, but works nicely in itself, while Johnson's "Walkin' Blues" and Toussaint's "Get Out of My Life, Woman" make two decent album tracks. The aforementioned "Mary, Mary" is relatively nice. I am not very fond of "East-West" personally, but I can see where its rather legendary status is based on. The rest is slightly uninteresting, but not really bad.
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The Monkees - Mary Mary 1967: http://youtu.be/AMNize7s8nc