人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Mona Lisa - Avant Qu'Il Ne Soit Trop Tard (Crypto,1978)

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Mona Lisa -『限界世界』Avant Qu'Il Ne Soit Trop Tard (Crypto,1978) Full Album : https://youtu.be/e3ix66t2EJc
Recorded at Davout Studios, Paris in August 25,26,27,29,30 and 31, 1977
Released LP Crypto ZAL 6440, 1978, France
(Face A)
1.『限界世界』Avant Qu'Il Ne Soit Trop Tard (3:30)
2.『ペスト』La Peste (6:00)
3.『難船遭難者の記憶』Souvenirs De Naufrageuer (7:00)
4.『庭球場』Tripot (4:00)
(Face B)
1.『レナ』Lena (5:00)
2.『大草原の上の生物』Creature Sur La Steppe (9:45)
- a.『夢の中で』Comme Dans Un Reve
- b.『圧制』L'Oppression
- c.『風とともに』Avec Le Vent
(Total Time: 32:15)
Bonus tracks on 1994 and 2009 releases:
1.『難船遭難者の記憶』Souvenirs De Naufrageurs (live) (8:00)
2.『大草原の上の生物』Creature Sur La Steppe (live) (6:35)
3.『レナ』Lena (live) (6:12)
Recorded at the youth centre, Salle Jean Vilar, in Calais on January 24,1978
[Musiciens]
Dominique Le Guennec - lead vocals, flutes, percussion
Pascal Jordan - electric & acoustic guitar, synthesizer
Jean-Paul Pierson - piano, organ, synthesizer, polyphonic orchestra, Mellotron
Jean-Luc Martin - bass
Francis Poulet - drums, percussions

 フランスの70年代ロックはだいぶ前にゴング、マグマ、エルドン、ワパスーを紹介し、ゴングとマグマは文句なしに大物だがエルドンとワパスーは率直に言ってかなり格下になる。だがエルドンは『スタンド・バイ』、ワパスーは『ルードヴィッヒ』だけで唯一無二の存在になっている。たまにフランスのロックを聴くと、英米ロック(ジャズや映画音楽を含めた、ポピュラー音楽全般でもいいが)に較べて良くも悪くもいい加減で、奔放でやりたい放題で、形式的になってない自由さにホッとする。さすが人文主義思想が民衆的にまで長く浸透した国だけあり、フランスでは画家でも文人、役者、音楽家でもアーティストである前にまず人である、というような開放感があるのだ。アルバム紹介していなかった大物アンジュやカトリーヌ・リベロ + アルプ、まあ中堅どころでは外せないピュルサーとアトールなどもようやく記事にしたが、どのバンドも表現力は豊かだからテクニックは十分と言えるものの、テクニックそのものを売りにしてはいない。
 アンジュとリベロ + アルプはゴングやマグマと並ぶ大物で、この4組をフランスの70年代ロック最大のバンドだったと言っても良いと思うが、日本でいちばん人気のあるフランスのロック・アルバムはアトールのセカンド『組曲夢魔」』1975だろう。1980年に日本発売されてから35年あまり、本国では廃盤になっていた時期があっても日本では(CD化も挟んで)一度も廃盤になっておらずロング・セラーを続けている。ピュルサーはピンク・フロイド系のバンドなのが異色で、アンジュはジェスロ・タル系で偶然ジェネシスと似た演劇系のバンドになったとおぼしく、アトールはイエスとアンジュからの影響が強い。今回ご紹介するモナ・リザはほとんど小型アンジュと言ってよく、デビュー当時もアンジュの前座バンドとして国内ツアーで知名度を上げたというから子分みたいなものだった。ピュルサーやアトールと同格くらいの中堅だったが、ここまでアンジュそっくりだとオリジナリティでは見劣りがする。アルバム・リストを上げる。邦題をつけた初期4枚が日本発売されていて、CDで入手できる。

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 (Reissued "Avant Qu'il Ne Soit Trop Tard" 1994 Musea CD Front Cover)
1974 -『脱出』 L'escapade
1975 - 『しかめづら』Grimaces
1976 - 『グレゴワール氏の小さなヴァイオリン』Le Petit Violon de Monsieur Gregoire
1977 - 『限界世界』Avant Qu'il Ne Soit Trop Tard
1978 - Vers Demain
1998 - De L'Ombre a la Lumiere
2001 - Progfest 2000

 デビュー作はまだ拙く、第2作でアンジュの小型版としてはサマになり、『グレゴワール氏の小さなヴァイオリン』でアンジュと同レヴェルの秀作をものして、『限界世界』は前作をしのぐ代表傑作になった、というのが定評になっている。まったく同感で、つけ加える余地がない。だが『限界世界』を最後にモナ・リザの顔であるヴォーカルのドミニクが脱退してしまい、結局次の『Vers Demain』に残ったメンバーはキーボードのジャン・ポールとドラムスのフランシスだけで普通のポップ・ロック・アルバムになってしまい、なし崩し的に解散する。
 未聴で申し訳ないが98年の単発の復活作(当時70年代バンドの再結成ブームが起きていた)と01年のプロッグフェスト(海外では「プログレッシヴ・ロック」の略語は「プログレ」ではなく「プロッグ」、フェスティヴァルの略称は「フェス」ではなく「フェスト」)のライヴ盤ではドミニクも復帰し、新ベーシスト以外は『限界世界』と同じメンバーで活動したようだ。オリジナル・ベーシストのジャン・リュックは『限界世界』をお聴きになれば貢献度の高さは明らかだが、一介のアンジュ・フォロワーでしかないモナ・リザがここまでやってのけた(だが事実上オリジナル・メンバーでの最終作になった)のは強運と悲運の両方を感じる。

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 (Original Crypto "Avant Qu'il Ne Soit Trop Tard" LP Liner Cover)
 このアルバムを師匠アンジュに置き換えると『異次元の罠』1978で、本家がやっているのと同じことに分家も自然にたどり着いてしまった。アンジュの『異次元の罠』はこれまでよりいっそうリズムを強化したアルバムだった。モナ・リザはアンジュより若いバンドだし、アンジュがオリジナリティを確立してからあえて英米ロックの影響を避けていたのとは対照的に、アンジュのフォロワーにとどまらないためにプログレッシヴ・ロック時代のジェスロ・タルジェネシスの影響を積極的に自分たちのサウンドに反映させていた。このアルバムではフランス的なロック・テアトル風のタイトル曲に始まって、『難船遭難者の記憶』ではジェネシス的な構成とギターにアンジュの『新ノア記』収録の名曲『アイザックの長い夜』のフレーズを紛れ込ませている。『庭球場』もジェネシス変拍子(7/8拍子)、B面の大曲『レナ』と『大草原の上の動物』も『ア・トリック・オブ・ザ・テイル』1976、『静寂の嵐』1977あたりのジェネシスを思わせるような作風で、アンジュとジェネシスは実際のサウンドはかなりというか全然違うのだが、モナ・リザの中ではアンジュ的な感覚もジェネシス的なサウンド表現も自然に無理なく両立している。
 フランスでも自国のロック・バンドについては評価はシビアでゴング、マグマ、アンジュ、カトリーヌ・リベロ + アルプほどの大物にはフランス語版ウィキペディアでも詳細な解説があるが、ピュルサー、アトールモナ・リザあたりはごく簡略に活動歴とディスコグラフィーが載っているにすぎない。極端なくらい大物と小物に分けて、中堅バンドへの正当な評価がなされていないようにも見える。自国の身近なアーティストというのはそういう風に過小評価されがちなのかもしれない。アンジュなどはフランスの国民的バンドらしいが、それがかえってモナ・リザを過去の凡庸な一バンドとして顧みられない要因になっているのかもしれない。だがピュルサーに『ハロウィーン』(英語圏では『終着の浜辺』が代表作らしいが)があり、アトールに『組曲夢魔」』(フランスでは『サード』らしいが)があるように、モナ・リザには『限界世界』(フランスでは『グレゴワール氏~』らしいが)があるのだ。アンジュよりもモナ・リザを聴きたくなる時がある。それはごく普通のことではないか。