大根をどうする気なの?とエディスが訊きました。てにをはが間違っているよ、とドジソン先生。大根を、ではなく大根で、が正しい。もちろん大根で人を殴るんだよ。
暴力はいけないと思います、とロリーナ。それに食べ物をそんなふうに、粗末にするのも良くないわ。
大根を棍棒がわりに使ってはいけないという決まりでもあるのかね、とドジソン先生。杖やレンガやブロックで殴るのは普通で、大根を使うと変態扱いされるのは公平を欠いてはいないかと私には思えてならないよ。
変態とは言っていません、とロリーナ、私が言いたいのは暴力と、それから食べ物は粗末にしては……。
そこだよ、とドジソン先生、どうしてパイなら人に投げてもいいが、大根で人を殴ってはいけない?
それは暴力が……。
そこよ、誤解は、とドジソン先生。私は暴力ではなく正当防衛のために練馬大根を握ったのです。
正当防衛?とアリスは突っ込みました、先制攻撃の間違いじゃないの?だってまだドアも開けていなかったんでしょう?誰がいるのかもわからなかったはずじゃない。
ドアの外で、酒臭いチャイムに顔をしかめながらドジソン先生に招き入れられるのを待っていたのはアリスでした。エディスが訪ねて帰され、ロリーナが訪ねて帰された後ではアリスが最終兵器になるしかありません。ところで、姉妹たちはなぜ、代わるがわるドジソン先生を訪ねたのでしょうか?
エディスはロリーナを見ました。ロリーナはそしらぬ顔でアリスを見ました。アリスはエディスを見つめていましたが、ロリーナの視線を感じるとエディスの視線を誘導してロリーナにはちあわせさせました。ロリーナは姉の威信がないがしろにされた気持で末妹の助力を借りると、エディスとふたりでアリスに責めるような視線を浴びせました。アリスは伏し目がちでいましたが、ロリーナとエディスにはアリスの様子が姉妹の中で唯一、まだドジソン先生に追い返されてはいないのに由来する自信のように見えて、激しい嫉妬に襲われました。
わかった、とアリスは言いました、私はドジソン先生を殺しに訪ねたのよ。だから先生は正当防衛で先制攻撃するために練馬大根を手に取ったんだわ。違いますか?
おおむね違いません、とドジソン先生は言いました、ところで大根には、殴る以外の使い道もあります、とドジソン先生は練馬大根を振り回しながら言いました。練馬大根は変態倶楽部です。それをお忘れなく。