人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新・NAGISAの国のアリス(6)

 それが先生のおっしゃりたいことでしたの?とロリーナが受けました。こういう時に姉妹を代表するような態度に出るのが、いかにも3人姉妹の長女らしいロリーナのこざかしい面で、アリスやエディスが従順なのは決してロリーナに賛同してではありませんでしたが、いざ事がこじれた場合に長姉を矢面に立たせるのは得策なこともあるのです。その辺はアリスたちもちゃっかりロリーナのでしゃばりに便乗しているところがありました。もしロリーナが地雷を踏んでもそれは自爆というものです。
 遠くで汽笛が鳴りました。ポー。
 おおむね違いません、とドジソン先生は言いました、ところで大根には殴る以外の使い道もあります、とドジソン先生は練馬大根を振り回しながら言いました。練馬大根は変態倶楽部です。それをお忘れなく。
 ロリーナはエディスを見ました。エディスはそしらぬ顔でアリスを見ました。アリスはロリーナを見つめていましたが、エディスの視線を感じるとロリーナの視線を誘導してエディスにはちあわせさせました。エディスは妹の特権がないがしろにされた気持で長姉の助力を借りると、ロリーナとふたりでアリスに責めるような視線を浴びせました。アリスは伏し目がちでいましたが、アリスの様子がロリーナとエディスには姉妹の中で唯一、まだドジソン先生に追い返されてはいないのに由来する自信のように見えて、激しい嫉妬に襲われました。
 わかった、とアリスは言いました、ドジソン先生は私を殺しに呼び出したのよ。だから先生は不意打ちしようと練馬大根をつかんだんだわ。違いますか?
 違うわ、とロリーナは口をはさみました。先生ならそんな回りくどいことはなさらないわ。回りくどいこと?とエディス。そう、先生なら堂々とドアを開けてアリスが入ってきてから撲るわ。だって不意打ちする必要なんかないじゃない、そうでしょ?
 これはもちろん暗にロリーナならそうする、ということをドジソン先生に託して言っているのです。これを一般的には「当てこすり」と言います。いやあ先生も買いかぶられちゃったなあ、とドジソン先生は笑ってみせました。少女といえども女同士、しかも姉妹同士で揉めるとなると、博愛主義者のドジソン先生ですら手に余るというものです。
 そうだ、とドジソン先生はつぶやきました、犬でも練馬大根でもない、この姉妹たちにいま必要なのはウサギ、しかも食えないほどにとびきり腹黒いウサギなのだ。