人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新・NAGISAの国のアリス(42)

 アリスはすっかり退屈していました。アリスは川の土手で姉の隣に座っていましたが、何もすることがありません。いち、に度お姉さんの読んでいる本に目をやりましたが、さし絵もなければせりふのフキダシもありません。つまんない、とアリスは思いました、さし絵もなくて、フキダシもない本なんて。
 そこでアリスは考えごとをすることにしました。暑い日でしたからとても眠いし、頭もぼんやりしていましたが、それでもがんばって考えたのです。ひな菊の花輪を作るのは楽しいけれど、ひな菊を集めに行くのは面倒くさい。どっちにするのがいいだろう、と思っていると、突然ピンク色の目の白ウサギがアリスのそばを駆けていったのです。
 だからと言って仰天するほどでもありません。その上、ウサギが大変、たいへん!遅れてしまう!とひとり言のように言っているのを聞いてもアリスは不思議とは思いませんでした。後で考えればそれは驚くべきことで、じっさいウサギが燕尾服のそでをまくって、腕時計を見てまた急いで歩きだすのを見ると、アリスも思わず立ち上がってしまいました。アリスはウサギなら見なれていましたが、燕尾服を着てそでをまくるのは見たことがないし、さらに腕時計までしていたのです。アリスは急いでウサギを追うと、ウサギは生け垣の下のウサギ穴に飛び込みました。
 ウサギが素早く生け垣の下のウサギ穴に飛び込むのをぎりぎり見とどけたアリスは、ためらいもなく自分も穴に飛び込んだのでした。もちろん後先も考えず、出る時はどうするのかも考えずにです。
 ウサギ穴はしばらくのうちはトンネルのように真横にのびていましたが、突然真下になりました。本当に突然だったのでアリスは迷う暇もなく、ものすごく深い井戸のような穴に落ちていたのです。
 井戸がとほうもなく深いのか、落ちる速度がよほど遅いのか、そのどちらかのようでした。というのは、アリスは落ちながら周りを見渡したり、これから私どうなるのと考える余裕があったからで、落ちていく先を見てみましたがまっ暗で何も見えません。それではと周りの壁をじっくり見ると食器棚や本棚が並んでいるのが見えました。アリスは壺をひとつ手に取ってみましたが、オレンジ・マーマレードとラベルにあるのに中身は空っぽでがっかりしました。ですが壺を落として穴の底にいる人の頭に当たって死んでしまったら大変なので、落ちながら別の棚にちゃんと戻しておきました。