人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新・NAGISAの国のアリス(43)

 鈍い衝撃とともにアリスはどしん、と尻もちをつき、尻もちで済んでよかったわと思う間もなく長い長い距離を落ちてきた勢いであお向けに大の字になりました。仕方ないわねえ、とアリスは思いました、たしかこれ、慣性の法則って言うんだわ。さっきまでは先に飛び込んだウサギとともに地球の裏側に飛び出してもおかしくない、そしたらきっとその国の人とは服装だって違うから何とかしなくちゃいけないわ、とアリスは考えていたのです。
 そのまま地面の中でじっとして、通りかかった人の服を奪う方法はないかしら。きっとそういうことは、しょっちゅう穴から出たり入ったりしているウサギの方が詳しいに違いないから、ウサギの首を締めつけてどうすればいいか聞き出して、そのまま共犯者にすればいい。そんな腹黒いことを考えるほどアリスは深い深い穴に落ちてきたのです。
 すると、おお新入りかあ、とかん高い声でざわざわと数人が近づいてくる気配がしました。アリスはギクッとしましたが、あお向けの大の字はすぐ起き上がるにはいちばん不向きな姿勢です。くらやみに空気がざわめくと、アリスは両腕と両脚ががっしり地面に押さえつけられているのを感じました。
 シュッと音がして100円ライターに火を灯ったのが、ライターを握った手もとの明かりでわかりました。それはたしかに100円ライターでしたが、握る手は不釣り合いに小さく見えました。アリスは頭を上げようとしましたが、どうやら100円ライターの持ち主がもう一方の手で髪を引っ張っているようでした。
 何するのよ、とアリスはキッとして言いました、いったいあんたたちは何者?私を押さえつけてどうする気?
 元気のいいお嬢ちゃんだ、と誰かが言うと、アリスを押さえつけている連中がいっせいに嘲りの笑い声を上げました。
 そしてライターの明かりがアリスの顔に近づきました。アリスはよっぽど吹き消してやろうと思いましたが、持つ手が熱くなったのかライターは一旦消えました。
 その時アリスは火の消える一瞬に映った影で、自分を捕まえている連中の姿をとらえたのです。それは醜い小人たちでした。あんまりじゃない、とアリスはうんざりしました。私みたいな美少女が地底に落っこちたら、たちまち醜い小人が寄ってくるなんて。
 どうやら取り引きしなくちゃならなそうだな、と小人のひとりが含み笑いしました。
 取り引きって何のこと?と、アリスはしらを切りました。