人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン・改(11)

 第2章。
 従者は伝令の役目を果たして引き上げて行きました。戸口まで見送ったのは好奇心旺盛なくせに気取り屋なので谷の陰口を一身に集めているスノークで、ぼんくら揃いでは例外ない谷の住人であるからにはスノークもまたぼんくらのひとりでしたが、だからこそ回避できている住人同士の衝突もあるものです。ムーミン谷は幸か不幸か絶対主(いわゆる神)の概念からは自由でしたが、それには思わぬ利点もあって誰もがぼんくらならばぼんくらの上にぼんくらはなく、ぼんくらの下にもぼんくらはない、という無関心に支えられた平等主義でしたから、スノークが出すぎた真似をしたところでそれは谷にとって不利益を招く心配もなければ、もし利益をもたらすとしても決してスノークの手柄ではなく誰がしても結果は同じだったでしょうから、このムーミン谷の市民道徳はあながち衆愚主義とは言えない美点があったのです。そして今ムーミン家の居間には、いる人もいない人も含めて主要なムーミン谷住民ほぼ全員が顔を揃えていました。すなわち、
ムーミンパパ、ムーミンママ、偽ムーミン(偽核家族)
スノーク、偽フローレン(偽兄妹)
・ヘムレンさん、ジャコウネズミ博士(学者、哲学者)
・ヘムル署長、スティンキー(警官と泥棒)
ミムラ、ミイ、他総勢35名(多産系兄弟姉妹)
ミムラ夫人(その母、かつ放浪者スナフキンの母)
・ヨクサル(放浪者スナフキンの父)
・ロッドユール、ソースユール、スニフ(ムーミン家友人の冒険家夫妻とその息子)
・フレドリクソン(ロッドユール叔父、発明家)
・3人の魔女
 その一、トゥーティッキ。気のいい世話好きな魔女トロール
 その二、モラン。すべてを凍らせる冷たい灰色の魔女トロール
 その三、フィリフヨンカ。きれい好きで神経質で気が小さい魔女トロール
・ガフサ(フィリフヨンカ友人)
・エンマ(フィリフヨンカ叔母、劇場掃除婦)
・グリムラルンさん(小言爺さん)
・トフスランとビフスラン(双生児夫婦)
・ホムサたち(谷のガキども)
・ニンニ(影の薄い少女)
ティーティウー(自我を探す這い虫)
・ニョロニョロ(群棲担子菌類)
・ご先祖様(暖炉の裏に住む老ムーミン)
・その他大勢
 --だいたいそんなところです。いないのはムーミン、フローレン、スナフキンくらいのものでした。しかし観客がいなくても芝居の上演はできるように、ムーミンたちの不在も谷には何ら影響はなかったのです。