人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

四人囃子 - ゴールデン・ピクニックス (CBS・ソニー, 1976)

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四人囃子 - ゴールデン・ピクニックス (CBSソニー, 1976) Full Album : https://youtu.be/PNwDhp3d7Bc
Recorded at Onkio Haus 2nd Studio & Sony 1st. Studio, Jan.to Mar. 1976
Released by CBS Sony SOLN-7, April 24, 1976
(Side A)
A1. フライング Flying (J.レノン, G.ハリスン, P.マッカートニー, スターキー) - 4:19
A2. カーニバルがやってくるぞ(パリ野郎ジャマイカへ飛ぶ) Carnival (茂木由多加, L.フェレ) - 3:59
A3. なすのちゃわんやき Continental Laid Back-Breakers (中村真一) - 4:43
A4. 空と海の間 Kool Sailor & Fools (末松康生, 森園勝敏) - 8:58
(Side B)
B1. 泳ぐなネッシー Bird's & Nessy's (末松康生, 坂下秀実) - 16:53
B2. レディー・ヴァイオレッタ A Song For Lady Violetta (森園勝敏) - 7:09
[ 四人囃子 YONINBAYASHI ]
岡井大二 - ドラムス、パーカッション、シンセサイザー、バック・ボーカル
佐久間正英 - ベース、リコーダー、シンセサイザー、パーカッション、バック・ボーカル
坂下秀実 - キーボード、シンセサイザー、パーカッション、バック・ボーカル
森園勝敏 - ギター、リード・ボーカル、シンセサイザー、パーカッション、バック・ボーカル
(ゲスト・ミュージシャン)
ジョン山崎 - アコースティック・ピアノ、ハモンド・オルガン(A4)
中村哲 - ソプラノ・サックス、テナー・サックス、アルト・サックス(B1)
浜口茂外也 - フルート(A4)、フルート、パーカッション(B2)
トシ - パーカッション(B1)

バンドが本格的デビュー作とする前作『一触即発』1974.6から2年近い間が空いたものの、カルメン・マキ&OZのデビュー作(1975年1月)やセカンド・アルバム(『閉ざされた町』1976年7月)と並んで1970年代の日本のロックでは数少ない同時代的な成功を納めたアルバム。四人囃子やマキ&OZはようやくアンダーグラウンドな臭いのしないロックが日本でも出てきた感が画期的だった。
だがロック・バンドがレコード・セールスとコンサート収益を両軸に安定した活動を続けられる地盤は80年代を待たねばならず、それは70年代のフォーク系ポップスのアーティストが先に開拓していた活動形態だった。元々はアンダーグラウンドなジャンルだったのは同じでもフォーク系アーティストの方がポップスとの親和性は高かったので早くポピュラー音楽市場に浸透したのに、四人囃子やマキ&OZでさえもポップスと同等に広い層に受け入れられるには至らなかったのが70年代のロック・バンドの限界でもあった。四人囃子らの成功はロックのリスナーの中での成功で、当時はポップスのリスナー全般にまで広がらなかった。
(Original CBS Sony "Golden Picnics" LP Liner Cover)

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 80年代になるとカルメン・マキのスタイルはアン・ルイス経由で女性ロック・ヴォーカルの主流スタイルになり、現在ではハード・ロック系アニメ主題歌の標準的スタイルと言えるほど身近なものになっている。また四人囃子解散後プロデューサーに転じた故・佐久間正英はポップス一般が「ニューミュージック」から「J-POP」と市場的に呼び替えられる転換点でJ-POP的サウンドの主流を作り出したミュージシャンだが、プロデューサー歴の実質的な出発は四人囃子に二代目ベーシストとして加入して初のアルバムになった本作『ゴールデン・ピクニックス』だろう。加入当時20歳だったオリジナル・メンバーたちより2学年年長で学生バンドでの演奏経験も長く、また『ゴールデン・ピクニックス』制作中にはリード・ヴォーカル、ギター、ソングライターでフロントマンの森園勝敏の脱退も決定していた。
四人囃子のリーダーは森園とバンドを創設したドラムスの岡井大二で、『一触即発』1974.6と『ゴールデン・ピクニックス』1976.4の間に四人囃子は精力的なライヴ活動を行っているが、オリジナル・メンバーの中村真一(ベース)が脱退し親しいバンドのミスタッチから佐久間と茂木由多加(キーボード)が加入して2キーボードの5人編成になったのが1975年8月、9月にはシングル「空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ」が発売され、10月には早くも茂木が抜けて岡井、森園、坂下、佐久間の4人になる。森園脱退後にギター、ヴォーカルの佐藤ミツルを迎えた次作『Printed Jerry』1977.10から四人囃子解散までの3作、また80年代末の一時再結成アルバム『Dance』1989.7とライヴ・アルバム『LIVE FULL-HOUSE MATINEE』1989.12では四人囃子はリーダー岡井の意を酌んだ佐久間プロデュースの体制になっている。茂木は70年代の最終作『NEO-N』1979.11で坂下に代わってキーボードを勤めるので、佐久間にとってはミスタッチと四人囃子は連続していたとも考えられる。
(Original CBS Sony "Golden Picnics" LP Side A Label)

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 四人囃子、マキ&OZがアンダーグラウンド臭をかなり払底したロックだったのは、今聴くと音楽にアシッド性が稀薄だったことが大きいように思える(ミュージシャン本人の私行には関係なく)。フォーク系アーティストの場合はアンダーグラウンドなフォークはアシッド性の高いものだったがカレッジ・フォークというクリーンな系譜もあった。四人囃子の場合『ある青春 二十歳の原点』(同名映画イメージ・アルバム/1973年10月)と『'73四人囃子』、『一触即発』までは森園勝敏の楽曲とヴォーカル、リード・ギターの陶酔感が70年代初頭のアシッド・ロック的なムードを引き継いでいた。年齢より大人びた音楽をやっていたとも言える。『ゴールデン・ピクニックス』はその意味では年齢相応に明るく楽しく健康的で、若々しい感覚に忠実な音楽になっている。
次作『Printed Jerry』以降になると佐久間正英が楽曲でもメイン・ソングライターになり、マルチプレイヤーの腕前を生かしてデモテープ段階からアレンジの仕上がった曲を提供するようになった。『一触即発』『ゴールデン・ピクニックス』では森園勝敏がコピーライターの末松康生の自由詩を作曲段階で歌詞に直す、という手法だったが、『Printed Jerry』からはメンバー(主に佐久間)が自作曲には自分で歌詞を書くようになっている。『ゴールデン・ピクニックス』を橋渡しに、それ以前を森園勝敏時代の前期四人囃子、次作からが佐藤ミツル時代の後期四人囃子になるのだが、それより佐久間正英プロデュースという要素が前期と後期を分けていて、佐久間提供の楽曲とプロデュースによるサウンドは『ゴールデン・ピクニックス』以上にアシッド臭を一掃したものだった。
(Original CBS Sony "Lady Violetta" Single Picture Sleeve)

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 四人囃子がアーバン・ヒッピー的なサディスティック・ミカ・バンド、土着的(ドメスティック)なコスモス・ファクトリー、徹底的なトリップ指向の日本屈指のヒッピー・バンドだったファー・イースト・ファミリー・バンドら同期の日本のプログレッシヴ・ロックのバンドと感性を隔てていたのは年齢的に若かったことが大きいが、音楽的フォーマットのシフトは一代でできることではないから音楽的には前世代から引き継いだものが下地になり、感覚的には新しい世代を予告していたのが四人囃子だったのだろう。いわば古い意匠に新しい精神を持っていたわけで、四人囃子の解散はちょうど従来のレコーディング・ディレクターとアレンジャーがプロデューサーの役職に一本化された時期になり、佐久間正英はたちまち新しい世代の音楽監督になった。氏は2014年に亡くなったが、手がけたプロデュース・アーティストの一覧はこうなる。
cune/SKIN/THE STREET SLIDERS/BO??WY/UP-BEAT/GLAY/黒夢/JUDY AND MARY/宮本浩次/JUN SKY WALKER(S)/RAZZ MA TAZZ/ZI:KILL/BY-SEXUAL/ZIGZO/ソウル・フラワー・ユニオン/くるり/未来 (HIDEKI)/175R/HY/Hysteric Blue/L'Arc~en~Ciel/ぢ・大黒堂/パール兄弟/Psycho le Cemu/THE BLUE HEARTS/真島昌利/TOKIO/エレファントカシマシ/ピンクパンダー/テレサ・テン/宇崎竜童/筋肉少女帯/根津甚八/貴水博之/早川義夫/大槻ケンヂ/辻仁成/渡辺美里/土屋公平/氷室京介/鈴木紗理奈/str@y/PIERROT/wyse/VERY VERY IRON/オーノキヨフミ/modern greyDe-LAX/フロウズン/AIR DRIVE/dip in the pool/SPEAK/Sugar Salt/サクラメリーメン/ウラニーノ/hachi/unsuspected monogram/LONELY↑D/OverTheDogs/安東由美子/ジョージ☆池添/アカツキ./アーバンギャルド/かの香織/N'夙川BOYS/Λucifer/RIO/Avaivartika/Tracy(ウィキペディアによる)
アルバム『ゴールデン・ピクニックス』を大きく言えばJ-POPの起点にあるとこじつけることもできるだろう。本作の全方位性は四人囃子という1バンドの個性に収めるには無理があったようにも見える。才能あるバンドが才にまかせて作ったものには違いない。高い評価も前述の通りだが、メンバーたちが作りたかったのは本当にこれなのだろうか。それがJ-POPのルーツたるゆえんなのだろうか。