確かにムーミン谷にはレストランはない、とムーミンパパは言いました。ただし昔は存在したのだ。正確にはレストランを模したものが存在した、と言うべきかな。
どういうこと?と偽ムーミンが訊きました。いちいち注記しませんが、偽ムーミンはムーミンの意に反して(または支配して)タイミング良く入れ替わることができるのです。ただし今回はタイミングを間違えたと後悔したのは、ムーミンパパがまたもやとうとうと自慢話を述べようとしていたことでした。
あれは私とムーミンママの結婚式の時だった、とムーミンパパ。結婚以来足を洗ったが、私はかつてムーミン谷きっての冒険家としてユール夫妻、といっても彼らもまだ未婚だったのだが、フレデリクソン氏に開発のお世話をかけた冒険家セットを携えて何度となく登山や航海に出ていたのだ。
知っての通り、とムーミンパパはどや顔で、ムーミン谷は東と北はおさびし山脈、西は岸壁でわずかばかりの海岸から大洋に面しているという地形だ。つまり登山か航海以外の手段では谷の外に探検に出られない。
南は?と偽ムーミン。
南か?南は前人未踏の荒野が果てしなく続いているという言い伝えがある。だから勘定には入れないことになっている。
それをやるのが冒険家なんじゃないの、と偽ムーミンは喉もとまで出かかりましたが、めんどうな質問は止めました。冒険家セットってどんな装備なの?
洗面器、手ぬぐい、石鹸、軽石が基本だな。長い冒険ならハサミと歯ブラシと練りハミガキも持って行く。ハサミは武器にも使えるし、自殺する時も使えるからな。
それでレストランて?と偽ムーミンは話を戻しました。うむ、それにはまずムーミンママとの馴れ初めを語らねばならないが、転覆した遊覧船から溺死寸前のムーミンママ、当時はスノーク族の先代フローレンだった彼女を救出したのがこの私だった。ムーミン族は代々スノーク族と結婚するルールがある。そこでユール夫妻とわれわれが合同結婚式を挙げることになったのだ。そして挙式をどうしようかということになり、フィリフヨンカさんらの助けを借りて住民会館を式場にレストランの模擬店をやろうということになった。
でも、と偽ムーミン、知りもしないレストランをどうやって作ったの?
冒険家だからさ、とムーミンパパ、滅びた古代民族の遺跡でそれらしきものは見てきた。そして私たちはムーミン谷最初の、レストランもどきを作ったのだ。