人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

『偽ムーミン谷のレストラン』疾風怒涛メーデー編

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 ところで集団行動と言ってもやる気のない者とやる気のある者の見分けがつかないのに数だけは必要という場合がある、とムーミンパパは言いました。普通集団行動というのは目的が一致しなければ成立しないものだ。
 ほほう、とスノークは先をうながしました。突然ムーミンパパが理屈をこねはじめた時には、スノーク族には先天的にムーミン族にツッコミを入れるDNAが流れているのです。しかしムーミンパパがそこでもったいをつけているとツッコミのタイミングを失うので、スノークは先を読んで、では目的が問題なんですかね?と訊ねました。
・この馬鹿兄貴!
 とフローレンは内心で悪態をつきましたが、急かさないでおじさまのお話を聞きましょうよ、とお嬢さまぶりました。はたから見ればそんなフローレンの態度こそ差し出がましいのですが、こういう時にお嬢さまぶっておかないとフローレンこそ、
・まつげの長い二足歩行の女カバ(笑)
 とあなどられまいという意地があるからです。ムーミンパパはスノーク兄妹の反応に十分もったいぶった満足感を感じた様子で、
 そう、集団行動では通常やる気のない者とやる気のある者ははっきり見分けられる。これは最小単位の集団でも言えて、私はムーミン谷ケーブルテレビで観たことがあるが、どこか外国では合コンとかお見合いパブという行事や議会があって……(ムーミンママの視線に気づいたムーミンパパは話を飛ばし)やる気のあるなしははっきりと区別がつくものだ。しかし、君は「伝説のチャンピオン」という曲を知っとるかね?
 伝説のチャンピオン?
 そうだ。この曲を作って歌っているのはセーラーマーキュリーという水星人だそうだが、何でもこれをテーマにした集会というのがあるらしい。私は冒険家の時たまたまとある島国の町で目撃しただけだが、この曲の演奏家の名前から採ってメーデーと呼ばれる集会がある。デーは日付、メーというのは演奏家の名前がメイというお方だからだ。
 ……。
・ちょうどいい。
 とムーミンパパは中年太りのひだの中から平べったいものを取り出しました。これはその国の便利グッズでスマホといい、何でも若い女などはこれを持たないと死んでしまうらしいのだが、その時の体験談をわが友の発明家フレドリクソン、そして冒険家仲間ロッドユールとソースユール夫妻に送ったものがある。その国の言葉を覚えるために外国語で書いたものだが、かいつまんで谷の言葉に訳してみよう。

 今回で第90回を迎えるメーデー(本当はメイデーが正しいのでしょうけど)は県民会館で9時半頃に始まり、毎回最初は地元のアーティストを招いてミニコンサートみたいなものがあるのが慣例と教わりましたが、今年はこの州を拠点に活動する「ゴスペルオーブ」という4人編成の女性ゴスペルグループが5曲くらい披露されました。楽器はメンバーの一人がキーボードを。"You are my sunshine"や、曲名忘れたけどゴスペルで有名とされるものとか。
 次に団体旗登壇。いつも物々しい労働歌が流されるそうですが、今年は「伝説のチャンピオン」。6/8拍子のバラードです。会場の人達は手拍子をどうしてよいものか困っていました。ゆっくりめの手拍子でいいじゃないのと思ったけど、皆めいめいにリズム感が変な手拍子だった。この曲の演奏家ブライアン・メイ辺野古新基地建設停止の署名を集めたことで一躍注目されたことから始まったのがこの行事のようです。
 メーデー実行委員長挨拶。
 デコレーションアピールとして、代表でいくつかの団体が厳しい労働の現状や安倍内閣の悪政反対などを訴え、寸劇形式にしたり、今年はJ-Popでしたが聞けば過去には「イマジン」をBGMにして青年団体が平和のアピールをしたり。
 日本共産党を含む各団体代表(今回は5つ)からの特別アピール。
 メーデー宣言採択。代表者が読み上げ、拍手をもって採択。
 会場全員での「団結がんばろう!」唱和。
 その後、デモ行進でした(宣伝カーの先導に合わせてシュプレヒコールしながら約2〜3km練り歩き)。
 大体こんな内容でした。
 観光気分で観覧していると感覚がマヒしてきますが、慣れない人からしたら異様な光景かもしれませんね。しかしこれがメイさんという方にちなんだ民族的祭典だとわかったのは、ジャコウネズミ博士やヘムレンさんの興味を惹かれるのではないでしょうか。

 ……何だか女みたいな文体ですね、とスノークが失礼なことを言いました。ムーミンパパはムーミンママの様子をうかがい一瞬ギクッとしましたが、ムーミンママはこれしきのことではフライパンを閃かせませんので安心して、それはだな。船乗りが外国の町で最初に外国の言葉を教わるのはだいたい女子供からと決まっているではないか。私にはスナフキンのような児童偏愛の趣味はないから、まず冒険家パーティーの斡旋所に行ってなるべく親切そうな窓口嬢とねんごろになる。ネンゴロといっても下心を秘めた意味ではないぞ。だから外国語を覚える男は女言葉から異文化に触れるのだ。
 しかし冒険家パーティー斡旋所の窓口嬢というと必ず乳房が巨大なのはなぜなのか。ムーミン谷の常識では考えられんことだ。何しろムーミン谷には巨大な乳房をひとことで表す単語はないのに、このスマホというものは巨とだけ入力すれば乳と出てくる。ならばいずれムーミンが家系を継いで冒険家に育ったら(偽ムーミンはビクッとしました)巨乳というのを輸入して養殖輸出すればさぞムーミン谷も外貨で豊かになろう。そう思わんかママ、と言いかけたとたんムーミンパパの意識はフライパンの一閃で吹き飛び、
 ……あれ、私は何の話をしてたんだっけな?
 メーデーですよ、とスノークはのどもとまで出かかりましたが、自分の視覚のとらえられない速度でムーミンパパにたまによくある事態が起こったのを悟りました。何より妹フローレンの恐怖が兄の袖をつかんだ指先の激しい震えだけでも赤信号を告げ、偽ムーミンアホ毛を逆立てさせていたからです。

(お借りした画像と本文は全然関係ありません)